こんにちは、WELLMETHODライターの廣江です。

みなさまは、卵巣がんの症状についてご存知でしょうか?

卵巣がんはその名の通り女性特有の病気であり、40代以降から急激に増加します。

なぜ40代以降になると急激に発症リスクが高くなるのか、またその治療法について気になるという方も多いのではないでしょうか?

近年、婦人科系の病気を患う方は増加傾向にあります。女性として婦人科系の病気について知っておくことは大切です。

また厚生労働省が発表した令和元年の死因別順位においては第一位が「悪性新生物」いわゆる「がん」です。

誰もが健康でより豊かな人生を望んでいるからこそ、病気に対する正しい知識を知っておくことが万が一に備える第一歩なのではないかと思います。

大切な家族、そして自分のためにも病気に対する予備知識を備えておくことが、いまできる病気に対する備えであるように思います。

今回は、40代以降の女性に急増する卵巣がんの原因とその治療法についてご紹介します。

参考)厚生労働省 性別にみた死因順位(第10位まで)別 死亡数・死亡率(人口10万対)・構成割合
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/kakutei19/dl/10_h6.pdf

1.卵巣がんとは?

卵巣がん 卵

実は、卵巣には、良性腫瘍も悪性腫瘍も多種多様な組織型の腫瘍が発生する特徴があります。

その中でも、卵巣がんとは、卵巣内に上皮性の悪性腫瘍が発生する病気で、卵巣悪性腫瘍の中でもっとも発生頻度の多いものです。

婦人科疾患の中で決して多いものではありませんが、近年、卵巣がんの罹患数や死亡者数は増加傾向にあります。

とくに卵巣がんを発症する年齢は40代以降が多いという特徴があります。

また卵巣は「サイレント・オーガン」、卵巣がんは「サイレント・キラー」と呼ばれ、骨盤の奥深くにあることから腫瘍が発生していても初期の段階では、症状を自覚することはほとんどありません。

また、卵巣は左右に2つあるため、一方にがんが発生しても、 もう片方が正常ならば、月経異常や、不正出血などの症状もなかなか見られません。

そのため早期発見が難しく、診断時40-50%がすでに進行がんであり、自覚症状が現れたときにはすでに進行していることが少なくありません。

死亡者数が多い理由は早期発見が難しいことが原因の一つと考えられています。

1-1.卵巣の機能

普段生活を送る上であまり卵巣の機能について考えたことがない方も多いのではないしょうか?

まずは卵巣の基本的な役割をご紹介します。

卵巣は子宮の両側に一つずつあり、親指大程の大きさの楕円形の臓器です。卵巣には大きく分けて2つの役割があります。

まず一つ目の機能は、卵子を成熟させて排卵することです。
二つ目の機能はエストロゲンやプロゲステロンといった女性にとって必要な女性ホルモンを分泌することです。

女性ホルモンの分泌を行うことで妊娠や月経が起こるなど女性特有の生殖機能が働いています。

1-2.発生頻度が高い卵巣がんのタイプ

卵巣がん 砂時計

卵巣がんはいくつかのタイプに分けられています。その中でもとくに以下の4タイプは発生頻度が比較的高いことが明らかになっています。

1.漿液性腺がん(しょうえきせいせんがん)

漿液性腺がんは、リスクの高いhigh-gradeと比較的リスクが低いlow-gradeの2つの組織型に分けられています。

high-gradeは卵巣がんのなかでもっとも発生頻度が高く、その約50%が卵子を受け取る卵管采で発生すると考えられています。

2.明細胞腺がん

明細胞腺がんは、子宮内膜症を背景として発生するがんです。

卵巣がんの中では漿液性腺がんに次いで発生頻度が高いがんといわれています。

明細胞腺がんは早期発見されることが他のタイプよりも多く、ゆっくりと進行していきます。

3.類内膜腺がん

類内膜腺がんはlow-gradeであることが多く、ゆっくりと進行していくと考えられています。

明細胞腺がんと同じように子宮内膜症が発生の背景にあります。

4.粘液性腺がん

粘液性腺がんは良性粘液性腫瘍を母体としてがん化していくと考えられています。

4つのタイプの中ではもっとも発生頻度が低く、進行がゆっくりであることや両側の卵巣にできることはほとんどありません。

2.卵巣がんの原因とは?

卵巣がん ナプキン

卵巣がんの原因は複数の要因が関与していると考えられています。

・加齢
・妊娠や出産経験がない(排卵の回数が多い)
・高齢で第一子を出産した
・初潮が早かった
・閉経が遅い
・子宮内膜症
・骨盤内炎症性疾患
・多のう胞性卵巣症候群
・排卵誘発剤の使用
・10年以上ホルモン補充療法を受けている

この他にも遺伝的関与によって発生することもあります。

遺伝的関与は約10%と考えられていますが、母や姉妹など近親者に卵巣がんを発症した人がいる場合は、近親者に既往歴がある人がいない場合と比較すると発症の確率が高くなる傾向があります。

卵巣がんの発症にかかわる遺伝子としてBRCA1やBRCA2が関係していると考えられています。どちらかの遺伝子において変異が認められる女性は、卵巣がんと乳がんの発症リスクが高まることが知られており、遺伝性乳がん卵巣がん(hereditary breast and ovarian cancer : HBOC)と呼ばれ、常染色体優性遺伝の形式をとります。

「BRCA1」と「BRCA2」は、どちらもがん抑制タンパク質を生成する遺伝子を指します。

この遺伝子が産生するタンパク質には傷ついたDNAを修復する働きがあります。

しかしこれらの遺伝子の一方に変異が起こるとタンパク質が生成されなくなったり正常な機能が失われたりして、がんを引き起こす可能性があると考えられています。

BRCA1が変異すると卵巣がんのリスクが高くなり、BRCA2が変異すると肝臓がんや黒色腫のリスクが高くなるといわれています。

3.気になる卵巣がんの症状とは?

卵巣がん 下腹部を押さえる女性

第一章でご紹介したとおり、卵巣がんは進行するまで自覚症状はほとんどありません。

腫瘍が大きくなるに従って、以下のような症状に気づくようになります。

・下腹部にしこりがある
・下腹部の痛み
・腹部の膨満感
・不正出血
・便秘
・頻尿
・食欲不振

卵巣がんは腫瘍が大きくなる前に転移してしまう可能性が大きく、腹腔内の臓器にがん細胞が散らばっていく播種(はしゅ)という転移が多く見られます。

そのため腫瘍が大きくなりお腹の中でがんが広がると、腹水を伴うため呼吸が苦しくなるといった症状も現れます。

4.卵巣がんの検査方法

卵巣がん 検査イメージ

卵巣の検査は婦人科で行います。

卵巣の腫瘍は良性と悪性の鑑別が難しく、さまざまな検査を行う必要があります。

卵巣は、体外から手が届かない骨盤の奥にあるため、子宮と違って、直接細胞や組織を採取することはできません。

そのため、卵巣腫瘍は手術前に良性と悪性の鑑別を確定することができず、さまざまな検査で良悪の想定を行い、治療に踏み切ります。

内診で卵巣が腫れていれば、経膣超音波検査を行い、さらにくわしく調べるために、MRIや腫瘍マーカー検査を行います。

そして最終的には、手術により卵巣を摘出して初めて組織学的にがんと診断されます。

4-1.内診

医師が膣に指を挿入し、もう一方の手を下腹部に置いた状態で、子宮や卵巣の大きさ・形・位置を触診します。

また膣鏡を膣に挿入し、膣や子宮頸部に病変がないかを視診します。

必要に応じて直腸やその周辺に異常がないかを調べるために、肛門から指を挿入して直腸診を行うこともあります。

4-2.超音波検査(エコー検査)

体に超音波が出る機器をあて、臓器で反射した超音波の画像を観察する検査です。

一般的に卵巣がんの検査の場合は、膣の中からと下腹部に超音波をあてて調べます。

経腟超音波検査では卵巣腫瘍の状態や腫瘍とその周辺の臓器への進展を確認し、経腹超音波検査では腹腔内への播種やリンパ節などへの転移がないかどうかを調べます。

4-3.MRI・CT・PET-CT検査

体のさまざまな角度から体内の詳細な画像を連続的に撮影する検査です。

MRIは磁気共鳴装置、CTはX線撮影装置と連動したコンピュータにより画像化されます。

骨盤内の卵巣と周辺臓器の状態やリンパ節転移は、主にMRIで、肺や肝臓など遠隔転移の有無は主にCTで診断されます。

4-4.腫瘍マーカー(血液検査)

卵巣がん 血液検査イメージ

腫瘍マーカーとは血液検査の項目のことで、体内にがん細胞が潜んでいると異常値が検出されます。

卵巣がんでは組織型によってCA-125、CA19-9など特徴的な物質の量を測定しますが、卵巣がんであっても腫瘍マーカーに異常が認められない場合もあります。

がんかどうかの診断に用いられるだけでなく、治療効果や転移、再発の診断にも有効です。

5.卵巣がんのステージ

卵巣がん ステージ

がんは進行度合いを「ステージ」として分類しており、卵巣がんの自覚症状が出るのはステージⅢ~Ⅳが多いといわれています。

ステージⅠは早期がん、数字が大きくなるほど進行がんと判断されます。

・ステージⅠ:がんが片側また両側の卵巣もしくは卵管のみにある
・ステージⅡ:がんが子宮または骨盤内(内性器・膀胱および直腸)の近くの組織に広がっている
・ステージⅢ:がんが骨盤外のリンパ節または腹部の他の部位(肝臓や脾臓の表面など)に広がっている
・ステージⅣ:がんが遠隔臓器に広がっている。

卵巣は腹腔内臓器であるため、子宮がん検診のように膣から細胞を採取することができません。

そのためステージと組織型の確定は手術で摘出した病巣の組織を調べ、画像診断を元に行う必要があります。

6.卵巣がんの治療法

卵巣がんの治療はどのステージであっても手術が必要となり、手術の種類は病状によって異なります。

手術に加えて追加治療もあり、最近では新薬による治療も行われています。

6-1.手術

手術と一括りにしても、年齢やステージやその病態によってさまざまな方法があります。

手術の目的は、がん病巣を可能な限り取り除くことと、進行期と組織型を決定することです。

そのため、たとえ肉眼的に片方の卵巣だけに腫瘍があるように見えても、両側の卵巣と卵管、子宮、後腹膜リンパ節、大網を切除し、腹水の採取が必須とされています。

1.卵巣の切除

標準治療として、両側の卵巣・卵管と子宮を含めて切除する方法が進行度を確認するために必要です。

しかし、年齢がまだ若く妊娠を希望している方には、妊孕能を温存するために、子宮と一方の卵巣を残す場合があります。

必ず、病巣が片側の卵巣だけに留まっており、再発の可能性について家族も含めて十分に説明を受け理解していなければなりません。
切除しない部分は一部生検を行って、がん病巣がないことを十分に確認します。

2.大網切除(たいもうせつじょ)

大網とは胃から垂れ下がり大腸や小腸を覆っている大きな網のような脂肪組織のことです。

卵巣がんでは大網への転移がもっとも多く起こります。

切除しても機能的には大きな影響はありません。

3.後腹膜リンパ節郭清(かくせい)

後腹膜リンパ節は卵巣がんの転移が起こりやすい部位の一つです。

リンパ節郭清とは、転移が疑われるリンパ節とリンパ管すべてを切除する手術のことです。

4.合併切除

腹腔内で転移が認められた部分をできるだけ切除するために、大腸や小腸・脾臓などをがんと一緒に切除することを合併切除といいます。

5. 腫瘍減量術

卵巣がんは腹腔内に広がりやすい性質を持つため、周囲の臓器を大きく巻き込んで進展することがあり、開腹したものの切除が困難であったり、腫瘍の一部を減量することしかできない場合もあります。その場合、抗がん剤化学療法を行い、再度手術で切除を試みます。

6-2.化学療法

卵巣がん 化学療法

化学療法とは複数の抗がん剤を投与する治療法です。

卵巣がんの種類によって抗がん剤の感受性は異なります。

漿液性腺がんは抗がん剤感受性は高いですが、明細胞腺がんは抗がん剤感受性は低いといわれています。

個人差はありますが、さまざまな副作用が起こることが多いです。

6-3.放射線治療

放射線治療とは高エネルギーのX線やガンマ線でがん細胞をたたき、ガンを小さくする治療法です。

卵巣がんでは手術によって取りきれなかったがん細胞に対して以前はよく用いられていましたが、現在では卵巣がんでは抗がん剤治療が主流となっています。

6-4.新しい薬による治療

近年、がん治療において新薬である「分子標的薬」と「免疫チェックポイント阻害薬」による治療が行われています。

分子標的薬とはがん細胞の中の特定の分子に狙いを定め攻撃したり増殖を抑制する薬です。

「ベバシズマブ」や「オラパリブ」「ニラパリブ」などが分子標的薬にあたります。

免疫チェックポイント阻害薬は、免疫細胞に働きかけ、がん細胞を攻撃します。

「ペムブロリズマブ」がこの薬に該当します。ペムブロリズマブとはがん細胞を攻撃するリンパ球T細胞を活性化させ、がん細胞に対する免疫反応を亢進させる効果が期待できます。

治療法はさまざまですが、治療の際は担当医と十分に話し合うことが大切です。

7.卵巣がんを予防するために必要なこと

卵巣腫瘍は良性でも悪性でも初期症状が少なく、早期発見が遅れがちになる傾向があります。

見つかった時にはすでにステージが進行していた…というリスクがあります。

そのため、まずは普段の生活で、がんを予防するために生活習慣を整えることと、定期的な検診をすること、それから、少しでもお腹の張りなどの症状を感じた場合には、早急に医療機関を受診することが重要です。

7-1.生活習慣を整える

がんを予防するためには生活習慣を整えることが大切です。

禁煙や適度な飲酒を心がけるようにしましょう。

適度な飲酒とは1日「ビール中ビン1本」「日本酒1合」以内です。毎日飲まずに休肝日を設けましょう。乳製品の過剰摂取が卵巣がんの発生と関与しているとの報告もあります。
栄養バランスの良い食事や適度な運動を行うことも大切です。

7-2.定期検診の重要性と症状があった場合にはすぐに受診を

卵巣がん 検診

がん検診の目的は、がんを早期発見し適切な治療を行うことです。

厚生労働省の「がん予防重点健康教育及びがん検診実施のための指針(平成28年一部改正)」では、がん検診に関する指針が発表されていますが、卵巣がんに関しては指針として定められている検診はありません。

また卵巣がんに関する科学的証拠のある検診方法も確立されていないのが現状です。

しかし定期的な婦人科健診で、子宮がん検診に加え経腟超音波検査や腫瘍マーカーを調べるといったオプションを選択することができます。

自覚症状が少ない卵巣がんですが、急激なお腹のハリや痛みなど気になる症状がある場合は、早めに医療機関を受診しましょう。早期発見・早期治療が大切です。

参考)厚生労働省「がん予防重点健康教育及びがん検診実施のための指針(平成28年一部改正)」
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10900000-Kenkoukyoku/0000059992.pdf

8.健康診断は自分の人生をより豊かにするために欠かせないもの

卵巣がん 啓発リボン

今回、卵巣がんについてご紹介しました。

卵巣がんは早期発見が難しい病気ではありますが、早くに治療を行うことで、予後が良好になる病気でもあります。

日頃から自分の体調をしっかり観察することや毎年健康診断を受けることが、これからの人生をより豊かにするために大切なことです。

自分の体が発する小さなSOSを見逃すことがないように、忙しい毎日でもご自分にゆとりの時間を与え、体の声に耳を傾けてあげてくださいね。

この記事の監修は 医師 藤井 治子先生

【医師】藤井 治子
医師

藤井 治子

監修医

産婦人科専門医・医学博士
医療法人ハシイ産婦人科副院長
奈良女子大学非常勤講師

資格

日本産科婦人科学会専門医
母体保護法指定医
日本抗加齢医学会認定医
国際認定ラクテーション・コンサルタント
乳癌検診超音波検査判定医師A判定
マンモグラフィー撮影認定診療医師B判定
日本母体救命システム認定ベーシックインストラクター
臨床分子栄養医学研究会認定医

所属学会

日本産婦人科学会医会
日本女性医学学会
日本生殖医学会
日本産婦人科乳腺医学会
日本東洋医学会
日本超音波医学会
日本ラクテーションコンサルタント協会

学歴

高知大学医学部医学科卒業
京都大学大学院医学研究科卒業

大学卒業後産婦人科一般診療に従事し、大学院では胚着床メカニズムについて研究。
現在は地域医療を担う分娩施設で妊娠・出産を支えつつ予防医療にも力を注ぎ、
思春期から更年期まで全てのライフステージにおける女性特有の症状に、分子栄養療法や漢方療法を取り入れ診療を行なっている。

廣江 好子

【ライター】

美容・健康ライター。
ダイエッター歴○十年から脱却した、美を愛するアラフォー健康オタク。
趣味は料理と筋トレ。

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