こんにちは。
医師で予防医療スペシャリストの桐村里紗です。

皆さんの中に「氷の塊をガリガリと食べたい!」という衝動に駆られ、大量に食べてしまう人はいませんか?
「氷食症」と呼ばれる病態の一種で、実は鉄欠乏性貧血が原因かも知れません。

そのまま続けることで、胃腸機能の低下から不調や夏バテ・秋バテ、また、鉄欠乏と相まって、うつ症状などを引き起こして日常生活に支障が起きるかも知れません。

1.氷食症とは何か?症状と対策

1-1.氷食症とは何?

氷食症とは、強迫的に氷や凍らせたものを食べたくなる「異食症」の一種です。

1個2個の氷の塊を食べるという程度ではなく、冷蔵庫の製氷器の氷を全て食べてしまうなど、大量に食べたくなるのが一般的です。
また、かき氷など細かく削ったものではなく、「塊の氷を食べたい」「ガリガリ噛みたい」というのも、よく聞く訴えです。

氷

1-2.異食症の一種

もう1つ、時に耳にするのが「異食症」だと思います。
氷食症は、異食症の一種とされています。

異食症とは、「特定の非栄養物質を反復的、継続的、あるいは、強迫的に摂取する食行動異常」とされています。
異食するものには、氷の他に、土や毛髪、紙、ガラスなどのあらゆる食物でないものが含まれます。

異食症の病因は、栄養不足や、心理的なストレス、社会的要因など様々に論じられていますが、いまだにはっきりとは分かっていません。

ただし、危険因子としては、まず、鉄欠乏性貧血、亜鉛欠乏、妊娠、精神疾患、精神発達遅滞、家族歴などがあるとされています。

1-3.氷食症の原因は?

特に、原因として最も多いのが、「鉄欠乏性貧血」とされています。

発症機序ははっきりと分かっていませんが、鉄分不足による酵素の機能の低下により、体温調節中枢障害を引き起こし、氷によって口腔内の熱感を緩和するという説や、末梢の感覚器である口腔の粘膜や味覚を司る味蕾(みらい)の変化によるという説があります。

鉄欠乏性貧血の女性

1-4.氷食症は特に女性に多い

特に、女性に多く、月経が始まった思春期の女性、妊娠中や授乳期など鉄需要が増大する時期に、急に氷が食べたくなるという食行動パターンが現れやすくなります。

日本人の鉄摂取量は、欧米諸国と比較して少なく、必要摂取量に満たない場合が多く、鉄需要が増す時期に加えて、ダイエット思考などからますます鉄の供給が低下していることでさらに鉄欠乏を引き起こしやすくなります。

また、男女問わず、胃や小腸など上部消化管の切除手術後や、大腸がんなどで気づかない出血が起こり鉄欠乏性貧血が起こっている場合にも、氷食症が起こる可能性があります。

いったん氷食症になると,氷以外の食物摂取が減少し、鉄分の不足をさらに増悪させ、ますます状態が悪化するという悪循環になるケースも稀ではありません。

1-5.氷食症かなと思ったら

鉄欠乏性貧血のリスクがある人で、「氷食症かな?」と思ったら、まず、内科を受診して血液検査を行いましょう。
血液検査で、鉄欠乏性貧血が診断されたら、鉄を補給する治療を行うことで氷が食べたい衝動が落ち着いていきます。

ただし、氷食症患者は、自分の強迫的な食行動を「恥ずかしい」「隠したい」と思っていることも多いため、家族であっても気づかないことがあります。

また、場合によっては精神疾患を伴っている場合もありますので、医療機関受診の上、内科だけの治療で鉄を補うことで完結するのか、もしくは、精神科的な専門治療が必要なのか、判断してもらう必要があります。

多くの場合は、単純に鉄欠乏性貧血の治療のみで、症状が改善します。

鉄欠乏性貧血検査

2.隠れ貧血でも氷食症には注意

血液検査で、貧血を認め、血清鉄、貯蔵鉄である「フェリチン」が低下している場合には、「鉄欠乏性貧血」と診断されます。
ただし、貧血の重症度と氷食症の程度は、必ずしも強く相関しないとされています。

血液検査で、赤血球数・血色素量・血清鉄が正 常範囲内で、血清フェリチンだけが゙低下している鉄欠乏性貧血の前段階の「潜在性鉄欠乏(隠れ貧血)」であっても、氷食症の症状が現れる場合があります。

ただし、この「潜在性鉄欠乏(隠れ貧血)」の場合は、一般的な内科では診断が難しく、自費診療で分子整合栄養療法(オーソモレキュラー 療法)を行う医療機関で検査を行わないと、「貧血ではない」と言われてしまい、治療ができない場合があります。

2-1.かくれ貧血チェックリスト

氷食症がある人で、体内に鉄が不足している場合、全身に様々な鉄欠乏に伴う症状が現れています。

平成18年の国民健康・栄養調査によると、20〜49歳までの閉経前の女性では、69.5%もの人がフェリチン30ng/ml未満の重度のかくれ貧血と言われています。このうち、約30%は10ng/ml未満という枯渇状態であり、様々な不定愁訴を起こす可能性が高い状態と言えます。

かくれ貧血を疑う症状は、以下です。
以下のリストをチェックしてみましょう。

1. 立ちくらみ・めまいがする
2. 肩こり・関節痛がある
3. 頭痛・頭重になりやすい
4. くよくよ・うつうつとする、やる気がない
5. カッとしたり、イライラしたりしやすい
6. 寝つきが悪い、眠りが浅い
7. 力が弱く、よく物を落とす
8. シミができやすい
9. アザができやすい
10. 喉につっかえ感がある(錠剤などが飲み込みにくい)
11. 冷え性である
12. 体を動かすと疲れる
13. 夕方になると疲れて横になりたくなる
14. 月経前や月経中に不調がある
15. 月経量が多い

いずれもかくれ貧血で起こりうる、鉄不足にまつわる症状です。
氷食症が疑われ、上記のチェックリストに2つ以上当てはまれば、可能性ありと考えましょう。

詳しくは、「もしかして「隠れ貧血」?医師が教えるセルフチェックで不調の意味を考えよう

https://wellmethod.jp/indefinitecomplaint_hiddenanemia/

2-2.鉄欠乏性貧血・かくれ貧血の場合の治療

鉄欠乏性貧血と病院で診断された場合は、保険診療で治療が受けられます。
鉄剤の内服、重度の場合は注射剤による治療が行われます。
主には、数ヶ月の補充によって、貧血が改善します。
しかし、病院で処方が可能な鉄剤は、胃腸障害が起こりやすくなります。

保険診療が適応できない「かくれ貧血」の場合や、処方が可能な鉄剤が副作用で内服できない場合は、胃腸障害が起こりづらく、吸収率が良い「ヘム鉄」というタイプの鉄の内服が勧められます。
こちらは、「サプリメント」の扱いになります。

鉄分サプリメント

自己判断でサプリメントを内服するよりは、自費診療で分子整合栄養療法(オーソモレキュラー 療法)を行う医療機関で、フェリチン値をしっかりと測定しながら処方してもらい、鉄を十分体に充足させられるまで内服し、再発を予防する方が良いでしょう。

また、いくら鉄を補充しても、フェリチン値が上がらない場合、子宮筋腫など大量の出血を引き起こす原因がないか、また吸収を阻害する胃の病気や腸内環境の悪化がないかを調べる必要があります。

また、鉄剤と併用して、附子理中湯,半夏瀉心湯などの漢方薬も効果がある場合があります。

2-3.食生活から鉄を補給する

レバー

同時に、食生活から鉄を十分に補給することも大切です。
動物由来の肉類に含まれる鉄分は、野菜や海藻類に含まれる鉄分と比べて吸収効率が良いため、レバーや赤身の肉なども同時に補うと良いでしょう。
また、鉄鍋を使って、煮込む(特にトマトなど酸味のあるもの)ことでも、鉄分が溶け出し、吸収の良い鉄分を補給することができます。

鉄鍋を買うのが大変だと感じる場合は、お鍋にぽんっと入れるタイプの「鉄玉子」などを購入すると便利です。

3.氷を食べ続けるリスク

胃腸の冷えを感じる女性

氷を食べ続けることで、胃腸が冷え、体が冷えてしまうと、消化機能が低下して、栄養の吸収が不良となり、ますます鉄欠乏性貧血が悪化するリスクがあります。

低体温によって免疫機能や代謝機能が低下したり、鉄欠乏と相まって慢性的な倦怠感や疲労感、抑うつ症状を引き起こすなど、心身の不調を引き起こし兼ねません。

慢性的な不調は、日常生活に支障を来たし、寝込みがちになるリスクもあります。

4.まとめ

医療機関イメージ

一連の症状が、単純に鉄を充足させることで改善する可能性も大いにありますので、もし「氷食症かな?」と疑ったら、恥ずかしがらず、怖がらず、まずは病院を受診して血液検査を行い原因を確かめましょう。

悩んでいた症状が、1ヶ月足らず、早ければ1週間で改善するケースもあります。

一人で悩んでいるともったいないですから、ぜひ、早めに相談してみてくださいね。

この記事の執筆は 医師 桐村里紗先生

【医師/総合監修医】桐村 里紗
医師

桐村 里紗

総合監修医

内科医・認定産業医
tenrai株式会社代表取締役医師
日本内科学会・日本糖尿病学会・日本抗加齢医学会所属

愛媛大学医学部医学科卒。
皮膚科、糖尿病代謝内分泌科を経て、生活習慣病から在宅医療、分子整合栄養療法やバイオロジカル医療、常在細菌学などを用いた予防医療、女性外来まで幅広く診療経験を積む。
監修した企業での健康プロジェクトは、第1回健康科学ビジネスベストセレクションズ受賞(健康科学ビジネス推進機構)。
現在は、執筆、メディア、講演活動などでヘルスケア情報発信やプロダクト監修を行っている。
フジテレビ「ホンマでっか!?TV」には腸内環境評論家として出演。その他「とくダネ!」などメディア出演多数。

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著作・監修一覧

  • ・新刊『腸と森の「土」を育てるーー微生物が健康にする人と環境』(光文社新書)
  • ・『日本人はなぜ臭いと言われるのか~体臭と口臭の科学』(光文社新書)
  • ・「美女のステージ」 (光文社・美人時間ブック)
  • ・「30代からのシンプル・ダイエット」(マガジンハウス)
  • ・「解抗免力」(講談社)
  • ・「冷え性ガールのあたため毎日」(泰文堂)

ほか