WELLMETHOD監修医の桐村里紗です。

更年期障害の一つとして起こる「動悸」。

動悸といえば、「恋をして胸が高鳴った時くらい」という人は、急に心臓がバクバクすることでとても不安になるでしょう。

更年期障害の一環として起こるものであれば危険はないのですが、実は重大な病気が隠れていることもありますし、単なる不摂生で起きている場合もあります。

今日は、意外な原因や、隠れた病気を見逃さず適切な対処をとるための知恵をシェアします。

1.動悸とは何か?

そもそも、動悸とは何でしょう。

動悸とは、普段感じられない心臓の拍動が自覚される状態のことを言います。

「ドキドキ」「ドドドッ」、時には、「ゴニョッ」とすることもあります。

実際に脈が早い場合と、脈は早くないけれども心臓の拍動が大きく感じられる場合、それから一瞬だけ拍動が強く感じられたり、飛んだりする場合があります。

場合によっては、胸の痛みや不快感を感じることもあります。

多くの場合は、重症な病気ではないものの、心臓を原因とした不整脈やバセドウ病など治療すべき疾患が隠れていることもあるので、これを鑑別していきたいのです。

動悸に悩む女性

1-1.更年期に起こる動悸

更年期障害の一環で起こる動悸は、主に自律神経症状として起こると考えられています。

自律神経のうち、興奮を促す交感神経が過剰に働くと、脈が早くなります。

この神経は、野生のシマウマが、ライオンに襲われた時の状況を考えるとイメージできます。

まずい!命の危機だ!逃げろ!

そう感じたら、脈は早くなり、胸はキューっとなり、冷や汗をかきます。

更年期に起こる動悸は、まさにこのような状態です。

この時、脈は早くなるものの、乱れがないのが特徴です。

この更年期に起こる動悸と、他の原因で起こる動悸を区別する必要がありますが、そのために自分で脈をとってみましょう。

1-2.脈を自分でとってみる

脈を取るには、

1.まず、どちらかの人差し指と中指を喉仏に当てましょう。
2.そして、右手を当てたなら右へ、左手を当てたなら左へゆっくりとその手をずらしてみます。
3.すると、喉仏の2〜3cm外側に頚動脈の拍動を感じることができます。

これが、一番簡単な脈の取り方です。

脈の速さ、リズムを1分間ほど観察してみてください。

何も症状がない時に安静にした状態で、1分間ほど脈をとってみて、普段のベースの脈を知っておくことが重要です。

動悸を感じる際に、このベースとどう違うのか観察してみましょう。

普通は、リズムの乱れはありません。

1分間に60〜80回程度拍動しているのが正常ですが、

普段よく運動をする人であれば、脈は1分間に50回をきっている場合もあります。

普段運動しない人であれば、脈は90回程度になることもあります。

2.動悸を区別してみよう

脈の速さ、リズムを観察してみてください。

2-1.脈が早くリズムが乱れていない場合

リズムの乱れがないものの、脈が早い場合。

この状態を「頻脈」と言います。

1分間に100回〜ひどい場合には、数100回になる場合もあり、あまりにも早くなることで心臓から血液の拍出ができずに失神してしまうこともあります。

2-1-1.運動時や精神的な興奮時

もちろん、運動をしたり、精神的に驚いたり緊張した際は、血流や交感神経の働きで、脈は自然に早くなります。この場合は、規則正しく、リズムの乱れはありません。
落ち着くことで、自然に改善してきます。

運動している女性

2-1-2.貧血

貧血を放置している場合も、頻脈になります。

酸素を運搬するための赤血球が少ない状態なので、心臓はたくさん血液を流すことで、酸素をより多く運搬しようと頑張ります。

特に、月経のある女性に多いのは、鉄欠乏性貧血。
胃潰瘍などの消化管出血や悪性腫瘍が隠れている場合もあります。

これを放置すると、心臓にも負担がかかり、最終的には心不全になることもあります。

運動するとすぐに動悸がする場合や目の下の粘膜が白っぽい場合は貧血が疑われます。

貧血は放置せず、必ず原因を精査して治療することです。

2-1-3.甲状腺機能亢進症

女性に多く、更年期の動悸と区別しなければならない疾患に甲状腺機能亢進症があります。「亢進」とは、機能が上がるという意味で、甲状腺ホルモンが高まり過ぎる状態です。

甲状腺ホルモンは、代謝のホルモンですので、この分泌が多くなると、代謝が上がり、常に運動しているような状態になります。

バセドウ病の場合だけでなく、甲状腺機能が低下する橋本病の初期も一時的に甲状腺ホルモンが上昇して頻脈が起きることがあります。

これを見分ける方法としては、甲状腺の腫れ(喉元の膨らみ)、発汗、手の震えが特徴的です。
頻脈に加えて、これらの症状がある場合は、内科を受診し、血液検査で甲状腺ホルモンもチェックするようにしましょう。甲状腺は必ずしも腫れていないこともあります。

いずれも、女性に多いため、必ず鑑別が必要です。

2-1-4.血糖値の乱高下

頻脈の隠れた原因として注意したいのが、血糖値の乱高下です。

炭水化物ラバーやスイーツラバーの方などに多く見られる、血糖値が急に上がりやすい炭水化物オンリーメニューや甘いものを食べた後、3時間〜5時間後の動悸と発汗。

炭水化物オンリーランチ

実は、糖質の多いメニューを食べて血糖値が急に上がると、血糖値を下げるホルモンであるインスリンが大量分泌され、血糖値が急降下し、最終的に低血糖になることがしばしばあります。

血糖値の急降下と低血糖は、生命にとっての危機的状況のため、交感神経が刺激され、血糖値を上げようとします。

この交感神経の働きが、動悸と発汗を引き起こすのです。

原因がわからず、更年期障害やパニック障害かなと疑われることもありますが、実はその裏に血糖値の乱高下が隠れている可能性があります。

この場合は、食事内容や時間と関連性がありますので、症状が現れる時間と比較してみましょう。

糖質の摂りすぎを控えることで、改善ができるものです。

2-1-5.不整脈

頻脈が急に現れ、急に終わる場合。四六時中持続する場合。

いずれのケースもありますが、心臓由来の不整脈として起きている場合もあります。

頻脈性不整脈と呼ばれるこれらの不整脈の場合、1分間に数100回を超えるような頻脈が起こる場合もあります。

念の為、心電図や24時間心電図をとれば診断が可能ですので、循環器科を受診して検査をするようにしましょう。

2-2.リズムが乱れている場合

脈の速さに関わらず、リズムが乱れている場合。
この場合は、100%心臓由来の不整脈です。

心臓は、電気信号によって動いていて、規則正しい拍動のペースを決める部分がありますが、その部分が壊れてしまうことや電気の電動が上手くいかず、脈の乱れを引き起こします。

2-2-1.一瞬の脈の乱れを感じる場合

一瞬だけ脈が乱れて動悸を感じる場合。
「期外収縮」というタイプの不整脈で、一瞬だけ「ゴニョッ」と心臓が変な動きをしたように動悸を感じます。

1分間に数回続く場合もありますが、これは、ストレスや疲労、年齢的な変化で誰にでも起こるタイプの不整脈であり、通常は治療対象にはなりません。

ただし、あまりにも頻回である場合は、自己判断せずに心電図検査を受けましょう。

2-2-2.脈が常に乱れている場合

脈が全くランダムな場合は、突然に始まり、突然に終わる発作性のタイプと常に乱れている持続性のタイプがありますが、いずれにせよ心房細動などの治療対象の不整脈の可能性があります。

その原因として、狭心症や心筋梗塞などの心臓を栄養する血管のつまりが隠れている場合もあり、大変にリスキーです。

この場合、放置は絶対に禁物で、致命的になることもあると考えてください。

すぐに循環器科に電話をして受診予約をしてください。

心電図検査

2-3.脈が遅いのに動悸を感じる場合

脈が遅くても動悸を感じることがあります。

1回の拍動で血液を送り出す心臓の仕事量が増えるため、鼓動を強く感じることがあります。

脈が1分間に50回をきる場合、「徐脈」と言います。

2-3-1.甲状腺機能低下

甲状腺ホルモンが低下すると、体の代謝全体が下がるために脈も遅くなります。
この場合、脈の乱れはありません。

代謝が下がるので、太りやすい、疲れやすい、むくみやすいなどの症状も出現します。

橋本病などの甲状腺機能低下を疑う場合、甲状腺ホルモンを調べてもらいましょう。

2-3-2.スポーツ心臓

心臓は筋肉でできていますから、鍛えることで筋肉量が増えます。

普段から運動をしている長距離ランナーなどは、心臓の筋肉量が増えるので、1回の収縮でたくさんの血液が送り出せるようになるため、その分脈拍が少なくなります。

「スポーツ心臓」と言いますが、一般の人でも持久力を鍛える運動を継続的にすると、筋肉質な心臓になります。

この場合、脈の乱れはなく、脈拍が1分間で30台ということも珍しくありません。

2-3-3.徐脈性不整脈

こちらも、大変に危険な状態です。

心臓から送り出される血液の絶対量が減ってしまうので、安静にしていても息が切れることがあり、脳血流が低下すると失神します。

ペースメーカーの適応になるケースが多いので、すぐに循環器科を受診しましょう。

3.動悸の原因は軽症から重症まで

このように、更年期障害として起きる動悸の鑑別にはたくさんの原因があります。

更年期障害の自律神経症状の一環として起きているものであれば、致命的ではありませんから、まずは安心してください。

更年期への対処をこちらのサイトでは色々とご紹介していますので、ご参考になさってください。

不安になり過ぎる必要はありませんが、動悸の症状の原因には、重大な病気や治療すべき病気も隠れています。

不調を感じたら放置せずに医療機関に相談してください。

この記事の執筆は 医師 桐村里紗先生

【医師/総合監修医】桐村 里紗
医師

桐村 里紗

総合監修医

・内科医・認定産業医
・tenrai株式会社代表取締役医師
・東京大学大学院工学系研究科 バイオエンジニアリング専攻 道徳感情数理工学講座 共同研究員
・日本内科学会・日本糖尿病学会・日本抗加齢医学会所属

愛媛大学医学部医学科卒。
皮膚科、糖尿病代謝内分泌科を経て、生活習慣病から在宅医療、分子整合栄養療法やバイオロジカル医療、常在細菌学などを用いた予防医療、女性外来まで幅広く診療経験を積む。
監修した企業での健康プロジェクトは、第1回健康科学ビジネスベストセレクションズ受賞(健康科学ビジネス推進機構)。
現在は、執筆、メディア、講演活動などでヘルスケア情報発信やプロダクト監修を行っている。
フジテレビ「ホンマでっか!?TV」には腸内環境評論家として出演。その他「とくダネ!」などメディア出演多数。

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著作・監修一覧

  • ・新刊『腸と森の「土」を育てるーー微生物が健康にする人と環境』(光文社新書)
  • ・『日本人はなぜ臭いと言われるのか~体臭と口臭の科学』(光文社新書)
  • ・「美女のステージ」 (光文社・美人時間ブック)
  • ・「30代からのシンプル・ダイエット」(マガジンハウス)
  • ・「解抗免力」(講談社)
  • ・「冷え性ガールのあたため毎日」(泰文堂)

ほか