人と地球の持続可能なダイエット「プラネタリーヘルスダイエット」とは?〜“エシカル”な暮らしvol.2
皆さま、こんにちは。
医師で予防医療のスペシャリスト・桐村里紗です。
私自身も日々実践している、人と地球のヘルスケア。
無理なく、楽しく、自分らしく、エシカルでサスティナブルな暮らしをするヒントをお伝えしていきたいと思います。
今日は、人と地球を健康にする、全く新しい発想の持続可能なダイエット「プラネタリーヘルスダイエット」についてお話ししたいと思います。
2019年に権威あるグループからリリースされたのですが、日本ではほとんど話題になっていませんね。
これまで「〇〇式ダイエット」「科学に基づいた□□ダイエット」など、数多の健康本・ダイエット本が世の中に登場してきましたが、プラネタリーヘルスダイエットは、全くもって画期的で、異次元です。
さらに、何かのダイエット法を実践している人にとっても、この考えを取り入れることでさらに持続可能なものになります。
1. プラネタリーヘルスダイエット
前回、人を地球の一部と位置付けて、人と地球全体の健康を実現していくことを「プラネタリーヘルス」と呼ぶということをお伝えしました。
そのために、一人ひとりができるのが「エシカル消費」なのですが、私たちがとにかく毎日買うものといえば、「食べ物」です。
とにかく、プラネタリーヘルスの実現のために、日々の私たちの食の選択が、とても大切です。
1-1. これまでのダイエットは人間目線
一個人が主張する「〇〇式ダイエット」であっても、「科学に基づいた□□ダイエット」など、エビデンスに基づいた「正しい」方法であっても、これまでリリースされたほとんどのダイエット本は、「人間目線」のみで書かれています。
人間の体を最適化するための方法で、人間の生理学や生化学に基づいて、一個人の心身を如何にハイパフォーマンスにするかに特化しています。
医学やヘルスケアは、人間にフォーカスしてきたのがこれまでの時代なので、別に悪いと言っているわけではありません。
1-2. コロナが教えた人と環境の密な関係
でも、考えてみてください。
Covid-19というミクロのウイルスが環境に拡散し、世界中の人が影響を受けていること。
どんなに自分1人が健康でいようと思っても、人は社会や環境に支配され、影響を受けます。
人と人を取り巻く環境の健康は、切っても切り離せません。
人間だけを健康にしようとするアプローチを頑張っても、環境が不健康であれば、必ず影響を受けます。
自分とは遠いと考えてしまいがちな、気候変動や生物多様性の減少、砂漠化、飢餓など様々な環境問題も、巡り巡って、一人ひとりに影響を与えています。
だからこそ、ヘルスケアを、人間だけでなく、人間を地球の一部と捉え、全体に同時にアプローチしていく「プラネタリーヘルス」、そして、それを毎日の食で実現していく「プラネタリーヘルスダイエット」が画期的で、重要なのです。
2. プラネタリーヘルスダイエットとは?
「プラネタリーヘルス」を実現するための具体的な食のアクションとして、提案されたのが「プラネタリーヘルスダイエット」です。
2-1. 世界の権威ある研究者らが考案
2019年に、世界16カ国の各分野の研究者37名が科学的な根拠に基づいて、人間の健康と同時に、持続可能な食糧システムを実現する解決方法として、世界に掲示した食のガイドラインです。
権威ある英国の医学誌『Lancet(ランセット)』に発表され、地球上に生きる人間の既定食として提案されています。
これまで、ダイエット法といえば、医療やヘルスケアの専門家が提案するものでしたが、このダイエットは、環境や農業、政治学など様々な分野の研究者の視点も入っているために、人間目線だけではないのがポイントです。
※https://eatforum.org/content/uploads/2019/07/EAT-Lancet_Commission_Summary_Report.pdf
2-2. 2050年人口100億人の食糧問題
今、世界の食生活は偏っていて、世界のエネルギー消費の75%が、偏った12種類の作物(小麦・米・とうもろこし・大豆など)や5種類の家畜の肉やミルクでまかなわれているそうです。
さらに、家畜は、私たちの何倍もの穀物や大豆カスを飼料として食べるので、世界の多くの畑は、家畜のための畑です。
大量生産型の加工食品や家畜の資料として使われる作物は、単一の品種を大規模に、農薬や化学肥料を使って大量に生産するというスタイルの農業で育てられています。
そうした農業が、土地や周辺の環境、さらに川から海にも影響し、生物多様性を減少させ、砂漠化を促進し、気候変動の原因になっています。
さらに、2050年には人口が100億人を突破すると予測されていますが、多くの人がこのままの食生活を続けていては、生活習慣病が増える一方で、食糧にありつけずに飢餓に苦しむ人も増え、環境は甚大な被害を受けて、致命的になると考えられています。
2-3. 「正しい」食生活で人生100年は実現しない
とにかく、人間だけが健康になろうとしても、私たちはこのままでは地球ごと総倒れしてしまうのですから、人間にとって科学的に「正しい」食生活をするだけでは、人生100年の健康など実現しません。
2050年、私は70歳のはずですし、人生100年を目指すならば、2080年まで粘らなければならないのですが、健康長寿どころではなく、「こんな世の中に生きるのであれば、早く殺してくれ!」と叫んでいるかも知れません。
そんなわけで、人間の健康を考える医者である私が、プラネタリーヘルスについて熱心に考えています。
プラネタリーヘルスダイエットは、2050年になっても、人と地球が健康を保っていられる持続可能なダイエット方法として提案されました。
2-4. プラネタリーヘルスダイエットのお皿
プラネタリーヘルスダイエットでは、分かりやすいお皿の円グラフで、1日の食事のバランスを提案しています。
1日のエネルギーは、2500キロカロリー。
なので、カロリーを減らしましょうというわけではありません。
欧米型の食生活の場合、「肉を今の半分、植物由来の食べ物を倍に」というのが、概ねの目安です。
お肉ラバーにはキツめですし、肉の摂取が増える糖質制限派にとっても食生活をガラッと変えることが求められると思います。
が、世界的にみると、和食中心の食生活を送る日本人の方が実践がしやすくアドバンテージがあると言えますから、安心してください。
1. 1日の具体的な食品の目安
人間と地球の健康を害する赤身の肉や動物性食品、砂糖などの添加糖分を減らし、その代わりに、植物由来(プラントベース)の全粒穀物、豆類、果物、野菜を大量に摂取することが推奨されています。
1日の食事のうち、半分は野菜やキノコ類、果物など。残りの半分を、全粒粉の穀物、植物由来のタンパク質(ナッツや豆など)、不飽和脂肪酸を含む植物油、それに、少々の動物性タンパク質と乳製品、デンプン質の多い野菜、砂糖などの添加糖分という割合にします。
グラム数は細かすぎるので、あくまでも参考程度に。
【1日の食品の摂取目安】
・未精製の穀物:米、麦、とうもろこし、大麦など:232g
・でんぷん質の多い野菜:芋やキャッサバなど:50g
・野菜:300g
・果物:200g
・乳製品:250g
・ナッツ類:1日50g
・タンパク源
赤身肉:牛肉、羊肉、豚肉:14g
鶏肉やその他の家畜の肉:29g
卵:13g(1週間で1個ちょっと)
魚:28g
豆: 75g
・添加糖分:31g
・不飽和植物油: 40g
・飽和脂肪酸: 11.4g
2-5. 具体的にはどうすれば?
野菜など植物由来の食べ物はもりもり、穀物なども普通に食べられそうですが、1番の問題は、肉です。
特に、赤身肉については、1日14gということで、1週間で約100gになりますから、週にようやく1切れというイメージですね。
チキンは1週間約200gですから、週に2回は登場しそうです。
魚も同様に、1週間に約200g。
いわゆる「主菜」として、肉や魚などの動物性タンパク質が摂れるのは、週4食程度ということになります。
後のタンパク源は、おおむね、豆類で摂りましょうというところ。
最近では、以前にご紹介したフェイクミート(代替ミート)や、未来のホールフードとして注目されている昆虫食やアミノ酸の多いクロレラやユーグレナ、スピルリナなどの微細藻類という選択肢もあるかも知れません。
もちろん、多くの畜産が持続可能な方法にシフトしたり、害獣として処理されてしまうイノシシやその他の野生肉を、生態系のバランスが維持できる程度に活用したりすると、もっと肉を食べて良いよ、となるかと思います。
現状の食のバランスは、これまでの農業や畜産の環境負荷や人間の偏った消費を踏まえた、「痛み分け」だと思ってください。
文化やライフスタイル、国や民族によって、アレンジは可能です。
2-6. 洋食より和食に
難しそうと思われるかも知れませんが、簡単にできることとしたら、洋食から和食に切り替えることです。
例えば、ベーコンエッグトーストの朝ごはんを、納豆ご飯とわかめの味噌汁にする。
ステーキランチの代わりに、一汁三菜の和定食で、汁物、お浸し、煮物を中心にする。
そこに、少々の魚と鶏肉、そして、時に赤身の肉をご馳走として登場させる。
そして、お菓子は、乳製品由来のケーキよりも、小豆を使った和菓子のあんこ。
納豆、豆腐、味噌などの大豆製品や小豆などの豆製品は大活躍ということになります。
もちろん、大豆も単一栽培で大規模農業で生産されている代表的な作物なので、なるべく「有機 JAS」認定のついたものを選びたいところです。
2-7. 世界の豆でアレンジ料理
別に和食でなくとも、レンズ豆やひよこ豆にスパイスを加えれば、オリエンタルなメニューにもアレンジが可能です。
レンズ豆は、大豆よりも浸水や茹で時間が短くて使いやすいので、私の最近の事務所料理のブームは、レンズ豆のカレーや煮込みです。
ミックスビーンズを使えば、より簡単に豆料理を作ることができますね。煮込みやサラダなどに活用できます。
豆類には、いずれもイソフラボンが含まれます。
腸内でエクオール産生菌に転換されると、女性ホルモンをサポートするエクオールに。
食物繊維もしっかり摂れるため、大いにメリットがあります。
2-8. 吸収率やアミノ酸バランスはこう補う
豆のタンパク質は吸収が悪いことが指摘されていますが、十分に煮込み、よく咀嚼して食べたり、発酵をすれば吸収が良くなります。
納豆や味噌、大豆をテンペ菌で発酵させたインドネシアの伝統的な発酵豆・テンペを使うと良いですね。
自然食品店などで手に入ります。
また、植物性の食品は、アミノ酸バランスが肉と比べて悪いとされていますが、大豆と米を合わせれば、それぞれのアミノ酸バランスの欠点を補ってパーフェクトになります。
やっぱり、朝ごはんは、納豆ごはんに味噌汁に落ち着くでしょうか。
2-9. 過剰な肉食は腸の腐敗を引き起こす
糖質制限派にとっては、肉を食べないことは不健康に感じられるかも知れません。
でも、過剰な糖質も害ですが、過剰な肉食も害になります。
特に、過剰な肉食による動物性タンパク質や動物性脂肪は、腸内環境を悪化させて腐敗菌を増やし、人間の健康をも害してしまいます。
特に、動物性食品に多く含まれる窒素化合物は、過剰になって大腸まで届くと、タンパク質をエサにする腐敗菌のエサになり、インドールやケトン等の腐敗アミン、アンモニア、硫化水素などの有毒ガスを発生させます。
これらが人間の細胞を直接障害したり、活性酸素によって傷つけます。
さらに、過剰な脂肪を摂ることで、消化液として胆汁がたくさん分泌されていたら。
腸内細菌の働きで、2次胆汁酸となり、それが大腸にまで届くと、大腸がんや肝臓がんの原因物質になります。
大腸の有用菌である酪酸菌やビフィズス菌のエサは、食物繊維や難消化性デンプンなどの多糖類であり、彼らはベジが好きです。
ですから、プラネタリーヘルスダイエットのバランスは、腸活と考えても、理にかなっていると言えます。
肉食は、十分に消化でき、アミノ酸にまで分解して、大腸に届く前に小腸で吸収されると、人間の大切な栄養として健康的に使えます。
それ以上は、大腸にまで流れて腐敗を引き起こしますから、適度に摂るのが良いと思われます。
3. 自分のライフスタイルに合わせて
「ベジタリアン」や「ビーガン」と聞くと、なんだかうるさく感じてしまう人もいるかも知れません。
でも、プラネタリーヘルスダイエットは、肉食NG!動物性食品NG!ではありません。
概ね、ベジですが、動物性食品も食べられます。
どちらかと言えば、基本はベジだけれども、臨機応変に動物性食品も食べる「フレキシタリアン」や「セミ・ベジタリアン」というスタイルに近いかと思います。
友人との食事や会食、記念日など、美味しく楽しく気兼ねせず食べたい時もありますよね。
プラネタリーヘルスダイエットのルールは、あくまでも目安ですから、自分自身で臨機応変にアレンジしたら良いですし、自分自身のライフスタイルの中でできるところから、楽しく、始めて行くのが良いと思います。
3-1. 美味しく楽しくプラネタリーヘルスダイエット
私自身も、自炊や外食で実践していますが、美味しく楽しく食べられます。
プラネタリーヘルスダイエットの基準を厳格に守っているわけでもありませんが、概ね頭に入れて意識のベースにはあるという感じ。
もちろん、たまにはガッツリ食べるシーンもありますが、「概ね」どうしているか、また、知ってやるのか、知らずにやってしまうのか、この違いが大きいのだと思います。
プラネタリーヘルスダイエットを提案している、人と地球にとって健康な食のあり方を追求する団体「EAT」の特別委員会のInstagram @eatfoundation やプラネタリーヘルスダイエットを世界で実践する人たちのInstagramをみると、ビジュアル的にも美しく美味しそうなメニューの写真がたくさん公開されています。
#fixfood や #foodcanfixit で検索してみてください。
https://www.instagram.com/explore/tags/foodcanfixit/
「〜べきだ」とか「〜ねばならぬ」となってしまうと楽しくなくなりますから、知識としては知った上で、食べることを日々楽しみながら、できるところから実践していきたいですね。
▼自分らしく”エシカル”な暮らしvol.1〜プラネタリーヘルスと買い物に役立つ認証マーク
https://wellmethod.jp/ethical/
この記事の執筆は 医師 桐村里紗先生

桐村 里紗
総合監修医
・内科医・認定産業医
・tenrai株式会社代表取締役医師
・東京大学大学院工学系研究科 バイオエンジニアリング専攻 道徳感情数理工学講座 共同研究員
・日本内科学会・日本糖尿病学会・日本抗加齢医学会所属
愛媛大学医学部医学科卒。
皮膚科、糖尿病代謝内分泌科を経て、生活習慣病から在宅医療、分子整合栄養療法やバイオロジカル医療、常在細菌学などを用いた予防医療、女性外来まで幅広く診療経験を積む。
監修した企業での健康プロジェクトは、第1回健康科学ビジネスベストセレクションズ受賞(健康科学ビジネス推進機構)。
現在は、執筆、メディア、講演活動などでヘルスケア情報発信やプロダクト監修を行っている。
フジテレビ「ホンマでっか!?TV」には腸内環境評論家として出演。その他「とくダネ!」などメディア出演多数。
- 新刊『腸と森の「土」を育てるーー微生物が健康にする人と環境』(光文社新書)』
- tenrai株式会社
- 桐村 里紗の記事一覧
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著作・監修一覧
- ・新刊『腸と森の「土」を育てるーー微生物が健康にする人と環境』(光文社新書)
- ・『日本人はなぜ臭いと言われるのか~体臭と口臭の科学』(光文社新書)
- ・「美女のステージ」 (光文社・美人時間ブック)
- ・「30代からのシンプル・ダイエット」(マガジンハウス)
- ・「解抗免力」(講談社)
- ・「冷え性ガールのあたため毎日」(泰文堂)
ほか