放置すると他の病を招く危険も…多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)の特徴と改善方法
こんにちは、WELLMETHODライターの廣江です。
みなさまは、多嚢胞性卵巣症候群という病気はご存じでしょうか。
「ずっと生理不順が続いている」
「生理の間隔が平均より長い」
など、月経の悩みをかかえている方もいるのではないでしょうか。
しかし、月経の間隔が長くなることや月経不順であったとしても「更年期だから仕方ない」「そろそろ閉経だから」といって見過ごしてしまうことも少なくないのではないでしょうか。
実は、このような月経不順の人の中には多嚢胞性卵巣症候群の方がいます。
筆者の友人の中にも、「ずっと生理不順で悩んでおり、婦人科のクリニックを受診したら多嚢胞性卵巣症候群だといわれた」といってクリニックに通っているという方がいました。
多嚢胞性卵巣症候群というと、あまり聞きなれない名前でなんだか怖いイメージがありますが、実は女性に起こりやすい身近な病気の一つです。
発症すると、卵胞の発育に時間がかかり月経不順を起こし、妊娠を希望している人にとっては不妊の原因になり、にきび・多毛・肥満などになることがあります。
そんな女性に身近な病気の一つである多嚢胞性卵巣症候群ですが、治療は必要なのか、月経はどの位まで待っていてもいいのか、妊娠に至るまでどのような過程を辿らなくてはいけないのか、ピルは飲んでいいのかなど、さまざまな疑問があると思います。
「生理不順がある」「不正性器出血がある」「妊娠しにくい」「にきびができやすい」「肥満気味」このような症状に心当たりがある方もそうでない方も、今回は多嚢胞性卵巣症候群とその改善方法について、ぜひ知識を深めましょう。
目次
1.多嚢胞性卵巣症候群とは
多嚢胞性卵巣症候群(polycystic ovary syndrome、略してPCOSやPCOともよばれます)は、排卵障害をきたす疾患の一つです。
超音波検査で卵巣を確認すると、排卵されずに卵巣内にとどまった卵胞が多くみえるために多嚢胞性卵巣症候群と呼ばれています。
卵巣に小さな嚢胞がたくさんある・月経不順がある・男性ホルモンが高くなるなどの3つが揃うと、多嚢胞性卵巣症候群と診断されます。
定期的な排卵が起きないため無月経や月経不順、不正出血が起きることもあり不妊の原因にもなります。
2.多嚢胞性卵巣症候群の原因
多嚢胞性卵巣症候群の病態を一元的に説明することは難しく、遺伝や環境など複合的な因子により発症すると考えられています。原因がはっきり解明されたわけではありませんが、卵巣内の男性ホルモンの産生が亢進していることが深く関与しています。
この男性ホルモンの分泌が亢進する理由として、従来は脳の下垂体から卵巣に指令を送るホルモンであるLH(黄体形成ホルモン)の過剰分泌によると説明されていましたが、近年インスリン抵抗性(インスリンが効きづらい状態)の関連が重要視されています。
2-1.LH(黄体形成ホルモン)の過剰分泌
多嚢胞性卵巣症候群は、排卵に関連するホルモンバランスの崩れが原因であるといわれています。
卵胞の成長と排卵は、脳の下垂体から分泌される2つのホルモン、FSH(卵胞形成ホルモン)とLH(黄体形成ホルモン)によって促されますが、多嚢胞性卵巣症候群ではLHばかり過剰になり、FSHよりも優位な状態が続くのが特徴です。
いづれかの理由で男性ホルモンが亢進すると、男性ホルモンから女性ホルモンへの転換も増加し、この増加した女性ホルモン(エストラジオールE2)は、脳の視床下部というホルモンの中枢に刺激を送り続けます。この刺激は、あたかも排卵直前に似た刺激(「ポジティブフィードバック」という)として作用し、非周期的かつ持続的にLHの過剰分泌を招きます。
FSH作用が不足すると、卵子を取り巻く細胞(顆粒膜細胞)の成長が妨げられ、LHが過剰になると、卵胞のカプセルを形成する細胞(莢膜細胞)が増生しがたくなります。
その結果、卵胞の発育が遅くなり排卵もしにくくなります。
卵胞のカプセルを形成する細胞(莢膜細胞)は男性ホルモンを産生しており、LH過剰によりさらに男性ホルモンの分泌は亢進し、悪循環に陥ります。
2-2.インスリン抵抗性の増大
インスリンとは血糖値を下げる作用のあるホルモンです。
インスリン抵抗性とは、このインスリンが分泌されても、体の反応が鈍くなり血糖を下げる働きが十分に作用しない(インスリンの効きが悪い)状態のことをいいます。
インスリン抵抗性は、生活習慣病や肥満により増大します。
インスリン抵抗性が増大すると、体はさらにインスリンを分泌することになり高インスリン血症となります。
血中インスリン値が上昇すると、 卵巣と副腎では男性ホルモンの産生が亢進します。また肝臓では、性ホルモン結合グロブリン(SHBG)産生が低下し、男性ホルモンのさらなる増加に加担します。
このようにして、インスリン抵抗性によって男性ホルモンの分泌が亢進すると、上記に記載したように、LH過剰の悪循環を招き、卵胞の発育と排卵がうまく行われなくなります。
3.多嚢胞性卵巣症候群の症状
多嚢胞性卵巣症候群は、一般的には思春期に現れ、時間とともに悪化してきます。
以下のような症状が主に現れますが、程度は人によって異なります
3-1.月経不順または無月経、不正性器出血(月経以外の出血)、不妊
多嚢胞性卵巣症候群では、思春期に月経が始まらず、排卵がないか排卵が不規則に行われます。
一般的には、多嚢胞性卵巣症候群の月経不順は、ある日突然起こるものではなく、初経の頃からずっと続くことが特徴です。
排卵が乱れるため、月経がなかなか来なかったり、月経か不正出血か判別しにくい不規則な性器出血を繰り返します。
3-2.毛深い・にきび・ふきでもの
多嚢胞性卵巣症候群の人の中には、男性ホルモンの血中濃度が高くなることで、毛深くなる(体毛が濃くなる)・にきびができる・声が低くなる・乳房が小さくなる・筋肉量が増える・こめかみの髪がうすくなるなどの症状が出ることがあります。
日本人には、これらの症状が比較的少ないと言われています。
3-3.肥満
多嚢胞性卵巣症候群では、ほとんどの女性が軽度肥満で、逆に肥満女性のおよそ半数には排卵障害があると言われています。
脂肪蓄積はインスリン抵抗性をもたらし、またインスリンの過剰分泌は体脂肪増加の一因となり肥満を増長します。
中にはやせている人もいますが、インスリン抵抗性が病態に深く関わっているため、生活習慣の改善によって高血糖の予防したりダイエットにより減量すると排卵障害は改善に向かいます。
3-4.不妊
排卵が起こりにくいため、妊娠するチャンスが減ってしまい不妊になる可能性が高くなります。
4.多嚢胞性卵巣症候群の診断
多嚢胞性卵巣症候群の検査では、はじめに妊娠の有無の検査が行われます。
日本産婦人科学会の診断基準では、「月経異常」「卵巣の多嚢胞所見」「高アンドロゲン血症またはFSHを伴わないLHの基礎分泌量高値」の条件にすべて当てはまり、他の病気ではない場合に診断されます。
この3つの基準についてご紹介します。
4-1.月経異常(月経不順、無月経)
月経異常においては、以下のいずれかの症状がある場合に診断されます。
・無月経(3ヶ月以上月経がない)
・排卵を伴わない月経(無排卵周期症ともいいます)
・稀発月経(月経周期が39日以上、3か月以内の月経)
これらを疑う場合は、放置せず産婦人科に相談しましょう。
4-2.卵巣の多嚢胞所見
多嚢胞性卵巣症候群では、超音波検査において、両側の卵巣に小卵胞(2~9mm)が多数みられ、少なくとも片側に10個以上の小卵胞がある場合を「多嚢胞性卵巣」とよびます。
この卵胞が卵巣の皮膜に沿って1列に並ぶことをたとえて「ネックレスサイン」とも呼ばれます。
4-3.高アンドロゲン血症またはFSH上昇を伴わないLHの基礎分泌高値(LH>FSH)
日本国内では、高アンドロゲン(男性ホルモン)血症の方は少数で、大半はLH(黄体形成ホルモン)の基礎分泌高値を示します。
FSH(卵胞刺激ホルモン)やLHの値は月経の周期によって変動するため、通常は月経開始3日目前後の基礎値を測定します。
そのほか、血圧・血糖値・コレステロール値などを測定し、メタボリックシンドロームの有無について調べ、クッシング症候群の可能性を除外するため血液検査を行い、がんの可能性を否定するために子宮内膜細胞診を行います。
5.多嚢胞性卵巣症候群の治療法
多嚢胞性卵巣症候群の治療法では、妊娠を望んでいるかどうかで治療法が変わります。
さらに妊娠を望むか望まないかに関係なく、肥満がみられる場合は運動療法や生活習慣の改善が優先的に求められます。
5-1.減量および運動療法
多嚢胞性卵巣症候群の治療では、妊娠の希望の有無にかかわらず、生活習慣の改善や減量・運動療法が優先的に求められます。
とくに肥満(BMI 25kg/m2以上)がある場合は、肥満を改善することで排卵障害が改善することが明らかになっています。
5-2.妊娠を希望する場合
妊娠を望んでいる場合、排卵障害を改善するために排卵誘発剤による治療を行います。
1.排卵誘発剤
排卵誘発剤には、飲み薬のクロミフェンを使用します。
クロミフェンを服用すると、約50%は排卵します。
クロミフェンが無効の場合、注射薬であるゴナドトロピン療法を行い、排卵を誘発します。
ただし、排卵誘発剤により卵胞が過剰に反応した場合、卵巣過剰刺激症候群(OHSS:ovarian hyper stimulation syndrome)に注意する必要があります。このOHSSでは、卵巣が大きく腫れあがり、お腹に水がたまり腹痛や腹部膨満感を起こします。
OHSSは重症化すると、胸にも水が溜まったり、血栓症や腎不全まで併発し入院治療が必要になることがあります。
また、多胎妊娠が起こる率が高くなります。
そのため、注射剤を使わないと排卵できないような重症の排卵障害の場合は、次に示す手術方法や体外受精などの選択肢を考慮します。
また、排卵が無効や反応がイマイチの場合は、排卵障害を引き起こす可能性のある「高プロラクチン血症」や、日中は異常がなくても夜間のみプロラクチンが異常高値を示す「潜在性高プロラクチン血症」を併発していないか、ホルモン負荷試験を行い調べます。
2.腹腔鏡下卵巣多孔術
腹腔鏡下において、卵巣表面に多数の穴をあけて排卵しやすくする手術です。
効果はゴナドトロピン療法に匹敵するといわれており、クロミフェンが効くようになるといわれていますが、この手術の効果は半年から1年程度でまた元の状態に戻ります。
3.耐糖能異常に対する治療
血液検査により、インスリン抵抗性や肥満のある方には、排卵誘発剤のクロミフェンに加えて、2型糖尿病の治療に用いられるメトホルミンを使用します。
メトホルミンは血糖値を下げてインスリンの過剰な分泌を抑えることで、卵巣の男性ホルモンの分泌も抑え、卵巣内のホルモンバランスを改善し、クロミフェン単独よりも排卵しやすくなると報告されています。
5-3.妊娠を希望しない場合
妊娠を希望しない場合は、下記のホルモン療法を行い、排卵誘発はせず月経不順の改善を図ります。
1.カウフマン療法
カウフマン療法では、女性ホルモン製剤である合成エストロゲン(卵胞ホルモン)と合成プロゲステロン(黄体ホルモン)を3~6か月間毎月周期的に補充し、規則的な月経周期を作ります。
治療後に、自然で規則的な排卵及び月経があるか基礎体温を記録します。
軽症の多嚢胞性卵巣症候群では有効な場合がありますが、効果が一時的になることもあります。
2.低用量ピル
カウフマン療法より含有量が少ない女性ホルモン製剤を用いることで副作用を軽減し、長期間にわたり服用できるようにしたものです。
さらに低用量ピルでは、月経痛や月経前症候群(PMS)を緩和する効果もあり、女性のQOL(生活の質)の向上が期待できます。
6.放置すると子宮内膜増殖症や子宮体がん発生リスクが高くなる
多嚢胞性卵巣症候群を治療せずに放っておくと、原因となる血中の男性ホルモンの高値がずっと続き、メタボリックシンドローム(高血圧、脂質代謝異常症、糖尿病)や心臓と血管の病気になるリスクが高まります。
また、男性ホルモンの一部はエストロゲン(女性ホルモン)に転換され、エストロゲンの濃度が高くなります。
一方で、エストロゲンとバランスをとるプロゲステロンが十分に分泌されずバランスが崩れます。
この状態が長く続くと、子宮内膜が異常に厚くなる子宮内膜増殖症をおこすことがあり、子宮体がんのリスクも高くなります。
そのため、不正出血がある場合などは、必ず産婦人科で子宮体がん検診を受けましょう。
7.多嚢胞性卵巣症候群の予防
肥満でインスリンが効きにくい体質の場合、生活習慣を見直し、運動習慣を取り入れることで、多嚢胞性卵巣症候群の予防につながります。
また、すでに多嚢胞性卵巣症候群である方でも、薬による治療と並行して、規則正しい生活、十分な睡眠・運動不足の解消・バランスのとれた食生活など生活習慣の見直しを行うことで症状の軽減が期待できます。
実際に肥満を解消すると、排卵障害も改善につながることがわかっています。
若年者でインスリン抵抗性が生じている場合は、ミネラル・食物繊維の不足に加えて運動不足が大きな原因と考えられ、生活習慣の指導が大切です。
▼【医師解説】ホルモンバランスの乱れの原因と整えるための対策とは?医師が教える今日からできる備え
https://wellmethod.jp/hormonebalance_cause/
8.生活習慣の改善は肥満だけでなく、生活の質の向上へつながる
多嚢胞性卵巣症候群は、妊娠を希望していないのであれば、生活への影響は少なく、治療もついつい後回しにしがちです。
とくに私たち40~50歳代の年齢は、仕事や家事、育児、介護など自分のことは後回しにしてしまいがちですよね。ともすれば、更年期だから月経が不順で当たり前と思っていたり、月経が少なくてむしろ楽でいいなどと思っている女性もいるかもしれません。
しかし、この多嚢胞性卵巣症候群を放っておくと、子宮内膜増殖症や子宮体がんの発生率が上がることがあります。
さらにメタボリックシンドローム、糖尿病、高血圧のリスクも高くなります。
そのようなリスクを避けるため、これを機会に生活習慣や運動習慣を見直してみましょう。
食生活や運動習慣の見直しは、自分の体との向きあうだけではなく、生活の質への向上へもつながります。
毎日を笑顔で輝く自分でいるために、自分自身を大切に過ごしていきましょう。
この記事の監修は 医師 藤井 治子先生

藤井 治子
監修医
産婦人科専門医・医学博士
医療法人ハシイ産婦人科副院長
奈良女子大学非常勤講師
資格
日本産科婦人科学会専門医
母体保護法指定医
日本抗加齢医学会認定医
国際認定ラクテーション・コンサルタント
乳癌検診超音波検査判定医師A判定
マンモグラフィー撮影認定診療医師B判定
日本母体救命システム認定ベーシックインストラクター
臨床分子栄養医学研究会認定医
所属学会
日本産婦人科学会医会
日本女性医学学会
日本生殖医学会
日本産婦人科乳腺医学会
日本東洋医学会
日本超音波医学会
日本ラクテーションコンサルタント協会
学歴
高知大学医学部医学科卒業京都大学大学院医学研究科卒業
大学卒業後産婦人科一般診療に従事し、大学院では胚着床メカニズムについて研究。
現在は地域医療を担う分娩施設で妊娠・出産を支えつつ予防医療にも力を注ぎ、
思春期から更年期まで全てのライフステージにおける女性特有の症状に、分子栄養療法や漢方療法を取り入れ診療を行なっている。
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https://hashii-hp.jp/