こんにちは、WELLMETHODライターの和重 景です。

みなさまは、月経前に

「イライラしたり怒りやすくなる」
「甘いものが無性に食べたくなる」
「とても眠たくなる」

といった経験はありませんか。

このような症状がある方は月経前症候群(PMS)かもしれません。

実は、筆者自身も以前、PMSを経験しているひとりです。

月経前になると、普段は何も思わないことにイライラしたり、落ち込みやすくなったり、無性に甘いものが欲しくなることがありました。

このPMSですが、自分で上手に付き合える分には良いのですが、うまくコントロールできず、物事がうまく進まなかったり、周囲に影響を及ぼしてしまうようであれば問題です。

PMSは周囲からはなかなか理解されにくく、辛い思いをしている人も少なくありません。

以前は、「今日、体調悪い? 大丈夫?」なんて同僚や子供から心配され、申し訳ない気持ちになることもありました。

「生理前のイライラを抑え、毎日を穏やかに過ごす」という思いは誰しも願うことだと思います。

そこで今回ご紹介したいものがPMSにおける漢方薬についてです。

漢方医学とは、体のホルモン変化と個人の体質、現れる不調を全体的にみて、バランスを整えながら治療する方法です。

今回は、月経前症候群の原因と症状、どのような漢方薬が使用されるのかご紹介します。

1.月経前症候群(PMS)とは

月経前症候群

月経前症候群とは、Premenstrual SyndromeとよばれいわゆるPMSと呼ばれる症候群で、月経の3~10日前から起こる体のさまざまな不調を指します。

2.PMSの主な症状は?

私たち40代を過ぎた女性は更年期に入り、あらゆる体の不調を感じるようになります。

その中でも、PMSは、月経の3~10日前の黄体期に起こる精神的あるいは身体的症状のことをいいます。

あらわれる症状は人によりさまざまですが、代表的な症状には以下のようなものがあります。

PMSでは、これらの症状がいくつかまたは全てが起こるとされています。

・イライラしやすい、怒りやすくなる
・のぼせやすくなる
・体重が増加する
・お腹が張る
・下腹部痛が起こる
・腰が痛くなる、背中が痛くなる
・乳房の張りや痛み
・疲れやすくなる

中でも、PMSの場合は気分のムラ、気持ちの戸惑、判断力の低下、浮き沈みがある、疎外感、罪悪感、体の痛み、甘いものが食べたくなる、などといった変化もみられます。

とくに精神状態が強い場合には、月経前不快気分障害(premenstrual dyspholic disorder : PMDD)と呼ばれます。

月経前症候群で具合の悪い女性

2-1.PMSと更年期症状との見分け方

PMSの症状は更年期障害と非常によく似ています。

区別する方法として、イライラや不安、のぼせやすくなるなどPMSと思われる症状が出たときの日にちを記録することが効果的です。

もし、これらの症状が月経前に限って現れる場合、PMSの可能性があります。

また、月経周期と関係なく上記の症状が出たり、月経中にむしろ目立つ場合は、PMSではなく更年期障害やそれ以外の病気の可能性が大きくなります。

また、更年期であっても月経がある場合は、PMSが起こる可能性があります。

3.PMSが起こる原因

月経前症候群 生理用品と薬

PMSが起こるのは、女性ホルモンである「エストロゲン」と「プロゲステロン」の分泌が大きく関係しています。

本来、月経周期の中でエストロゲンは月経から排卵の間、プロゲステロンは排卵から月経が起こるまでの間に分泌量が増加し、この双方がバランスをとることでコントロールされています。

しかしPMSでは、黄体期に分泌量が増加するはずのプロゲステロンの量が不十分となり、エストロゲンの分泌量がプロゲステロンを上回ります。

つまり、プロゲステロンが十分にエストロゲンの作用を抑制しバランスを取れなくなることで、PMSの症状として体のあらゆる部分に不調が現れるとされています。 

参照)ジョン・R・リー(著)『医者も知らないホルモンバランス』今村光一翻訳、中央アート出版社; 最新改訂増補版 (2010/11/10)

4.PMSの漢方医学としての治療法

漢方薬

西洋医学では、PMSを治療する際、PMSの原因とされている女性ホルモンのバランスの変動に注目し、ホルモン補充および排卵を抑制する治療を行います。

一方、漢方治療では、表に現れる症状を軽減するだけではなく、陰と陽、虚と実という個人の体質、および五臓六腑、気血水といった体の機能や成分の調和をはかる考え方に基づき、体全体のバランスを整え、症状を緩和することを目標として治療を行います。

また、従来の西洋医学の診察方法とは異なり、顔つき、顔色、体格、舌の状態をみて診察する「望診」や、患者の声の大きさやにおいをもとに診察する「聞診」、現病歴や体質など患者の状態を聞き取る「問診」、そして医師が直接体に触れ、脈やお腹の抵抗感、圧痛があるかどうかを確認し診断する「切診」にて診察を行います。

4-1.五臓六腑

漢方医学では、体の機能を、五臓六腑が役割を分けて担っていると考えます。五蔵とは、中身が詰まっており精を貯蔵している実質器官5つ、六腑とは、中身が詰まっていない中空器官6つをさします。

それぞれ、五臓は肝・心・脾・肺・腎の5つ、六腑は胃・小腸・大腸・膀胱・胆嚢・三焦の6つに分け、それぞれの機能がお互いを支え、コントロールすることでバランスを保つと考えられています。

この場合の機能とは、西洋医学の肝臓、心臓などの本来の臓器がもつ機能だけではなく、他の臓器や組織と繋がり合う機能や構造なども幅広くとらえます。

例えば、PMSにおいては、原因の一つとして「肝」の乱れが考えられます。

「肝」とは、西洋医学の肝臓とは違う概念で、「気」の流れを通じて感情の調節をしたり、自律神経系によって体全体の機能を順調に調節する働きをするものです。

「肝」が乱れると「気滞」とよばれる気の巡りの滞りが起こり、全身に気がいきわたらなくなります。

「気滞」がおこることで、女性ホルモンのバランスが崩れ、落ち込みやイライラするなどの精神症状や、乳房の張り、腹部膨満感などの症状が現れます。

さらに「肝」には体の栄養を運ぶ「血」を溜め込む作用があります。

つまり、女性の月経に関係する問題は「肝」が大切な役割を担っていることが多いと考えられています。 

4-2.「気・血・水」

流れ 川に浮かぶ花

漢方医学では、「人の生命の活動は気・血・水」の3つの要素により保たれていると考えられています。

これらのバランスが崩れた際、体の不調がおこりやすくなります。

そのため、体に足りないものを補い、過剰なものを減らしてバランスをとることに着目し、治療を行います。

例えば、気力や体力など生命のエネルギーが不十分であるときは気力・体力を補う「気」の漢方を使用します。

月経やうっ血により体の血の巡りが良くないときは「血」の流れをスムーズにする漢方を、口が乾く、むくみやめまいがあるなど体内の水分に偏りがある場合は「水」を補うもしくは排泄するような漢方を使用します。

このように足りないもの、過剰なもののバランスを生薬で調節し、体を安定な状態に維持することを目的とします。

PMSでは、血の滞りがあり、さらにホルモンバランスの異常により「水」のバランスの乱れ、さらに「気」の異常が起こります。

5.PMSに使用される代表的な漢方薬

PMSの治療に用いられる婦人漢方薬として、当帰芍薬散、加味逍遙散、桂枝茯苓丸、桃核承気湯、温経湯などがあります。

それぞれ、人の体質により合う漢方薬が異なります。自分はどの漢方薬が合いそうか、ぜひチェックしてみましょう。 

5-1.当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)

貧血の女性

当帰芍薬散は比較的、顔色が悪く体力が低下した女性に用いられる代表的な漢方薬です。

当帰芍薬散は、主に「血」と「水」の巡りを良くする薬で、冷え性やむくみ、便秘、貧血傾向のある女性に適しています。

その他、不安感やイライラなどの精神症状を鎮める、お通じを良くする・体のホルモンバランスを整える効果があります。

女性の更年期障害に伴う身体的症状や、精神症状、生理不順、生理痛、月経困難症にも使用されます。 

成分:芍薬、ソウジュツ(ビャクジュツ)、タクシャ、茯苓、センキュウ、トウキ

5-2.加味逍遙散(かみしょうようさん)

加味逍遙散は、体力が虚弱で、食べても太れないような交感神経の緊張した体質の人に適しています。

主に「血」と「気」を整え、溜まった熱を冷ます薬で、不眠、不安、イライラなど精神的な症状が強く、疲れやすい、肩こり、めまい、のぼせ感、発汗など、様々な不調を訴える人に使用されます。

成分:柴胡、芍薬、ソウジュツ(ビャクジュツ)、当帰、茯苓、山梔子、牡丹皮、甘草、生姜、薄荷

5-3.桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)

お血イメージ 赤いインク

血液の濃度が上がりドロドロした状態を「お血」といいます。

桂枝茯苓丸は、この「お血」を改善し滞った「血」の巡りを良くする効果があります。

体力が中等度以上の女性で、顔が赤くなり、頭重、下腹部痛、のぼせるが足は冷える傾向がある女性に使用される漢方薬です。

精神的な症状よりも身体的な症状に効果があるといわれています。

桂枝茯苓丸は、PMS以外にも、生理痛、生理不順、更年期障害、婦人科腫瘤性疾患、しみ、打ち身、下腹痛、肩こり、頭痛、めまい、冷えにも処方されます。

成分:桂皮、芍薬、桃仁、茯苓、牡丹皮

5-4.桃核承気湯(とうかくじょうきとう)

桃核承気湯は、比較的体力のある方の「お血」を改善する薬です。

血液の流れを良くする他、不安感やイライラなど精神症状を鎮めたり、お通じを良くする効果もあります。

のぼせて便秘しがちの人に適しており、PMSの頭痛、肩こり、めまい、腰痛や月経不順、月経困難症を便秘の解消とともに改善します。

成分:大黄、ボウショウ、桃仁、桂皮、甘草

5-5.温経湯(うんけいとう)

足の冷え

温経湯は、「血」「水」を補い、「経絡を温める」との名前通り、体をあたためてくれる漢方薬です。

女性の月経不順やPMS、更年期障害など月経トラブルなどの「血」に関する異常を整える働きがあります。

体中の血液循環を良くすることで、手足の冷えをとり、体全体をあたため、皮膚をうるおします。卵巣の血流を改善することで、女性ホルモンを整えてくれることが知られており、不妊治療にも効果を発揮します。

体力が比較的低下した冷え性の人、皮膚や唇の乾燥がある方に適している、一般的に女性向けの漢方薬です。

月経のトラブルをはじめ女性特有の治療に用いられます。

冷えやのぼせに効果がある他、不妊治療にも使用されることもあります。

5-6.PMSに使用される代表的な漢方一覧

PMSで使用される漢方薬

6.体質に合わせた漢方で、毎日を穏やかにすごしていきましょう

漢方薬

PMSは症状の出方に個人差がある一方で、辛い思いをしていても見た目ではわかりづらく、一人悩みを抱えている人も少なくありません。

「機嫌が悪いけど、どうしたのだろう」「元気がないけど、何かあったかな」そんな心配をかけたくないと思いつつも、「我慢すればどうにかなる」と思う人もいるのではないでしょうか。

しかし、小さなことでイライラしたり不安になったりすると、気持ちが乱れる上に物事が思うように進まないこともよくあります。

そんなPMSの症状を和らげるために、漢方の力に頼る方法も一つです。

「本当に効くのかな」と不安に思う人もいるかもしれませんが、まずは自分の体質に合った漢方薬に出会うことが大切です。

もし、気になるようであれば、婦人科や漢方治療を得意とする医師に相談してみましょう。

毎日を穏やかにすごしていくために、これからも自分自身を大切にしていきましょう。

この記事の監修は 医師 藤井 治子先生

【医師】藤井 治子
医師

藤井 治子

監修医

産婦人科専門医・医学博士
医療法人ハシイ産婦人科副院長
奈良女子大学非常勤講師

資格

日本産科婦人科学会専門医
母体保護法指定医
日本抗加齢医学会認定医
国際認定ラクテーション・コンサルタント
乳癌検診超音波検査判定医師A判定
マンモグラフィー撮影認定診療医師B判定
日本母体救命システム認定ベーシックインストラクター
臨床分子栄養医学研究会認定医

所属学会

日本産婦人科学会医会
日本女性医学学会
日本生殖医学会
日本産婦人科乳腺医学会
日本東洋医学会
日本超音波医学会
日本ラクテーションコンサルタント協会

学歴

高知大学医学部医学科卒業
京都大学大学院医学研究科卒業

大学卒業後産婦人科一般診療に従事し、大学院では胚着床メカニズムについて研究。
現在は地域医療を担う分娩施設で妊娠・出産を支えつつ予防医療にも力を注ぎ、
思春期から更年期まで全てのライフステージにおける女性特有の症状に、分子栄養療法や漢方療法を取り入れ診療を行なっている。

和重 景

【ライター】

主に、自身の出産・育児やパートナーシップといった、女性向けのジャンルにて活動中のフリーライター。
夫と大学生の息子と猫1匹の4人暮らし。
座右の銘は、「為せば成る、為さねば成らぬ何事も、成らぬは人の為さぬなりけり」。

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