治療しないと骨粗しょう症などのリスクが高まる「早発卵巣機能不全」の症状・治療法
こんにちは、WELLMETHODライターの和重 景です。
みなさまは、早発卵巣機能不全といった病態をご存じでしょうか。
早発卵巣機能不全とは40歳未満の女性に起こり、卵巣の正常な機能が停止してしまう病気です。
高ゴナドトロピン低エストロゲン性の無月経に至る疾患で、一般女性の1%に認められます。
早発卵巣機能不全は、どのような原因で引き起こされるのでしょうか。
治療法や改善法はあるのでしょうか。
また、早発卵巣機能不全といわれてしまったら、妊娠はできないのでしょうか。
今回は早発卵巣機能不全について、原因や症状、治療法などのご紹介をします。
目次
1.早発卵巣機能不全とは
早発卵巣機能不全は、40歳未満の女性で卵巣の正常な機能が停止します。
血中ゴナドトロピン、とくにFSH(卵胞刺激ホルモン)値が高いにも関わらず、規則的に排卵が起こらず卵巣が性ホルモン(エストロゲン・プロゲステロン・テストステロン)を十分に産生できない病態です。
では妊娠は望めないのかな? と思う人もいるでしょう。
実は早発卵巣機能不全と診断された人全てが妊娠不可能ということではありません。
早発卵巣機能不全の女性全てが必ずしも月経が停止するわけではなく、卵巣機能が完全に停止するわけではないのです。
以前この疾患は、早発閉経と呼ばれていましたが、現在は下記の5種類に分類されています。(臨床所見と血清FSH値に基づき分類)
・潜在性卵巣機能不全:原因不明の不妊および血清FSHの基礎値が正常
・生化学的卵巣機能不全:原因不明の不妊および血清FSHの基礎値上昇
・顕性卵巣機能不全:不規則な月経周期および血清FSHの基礎値上昇
・早発卵巣不全:長年にわたる不規則または希発月経・および血清FSHの基礎値上昇
・早発閉経:無月経、永久不妊、原始卵胞の完全な枯渇
2.卵巣の機能や役割
卵巣には、「排卵」と「性ホルモンの分泌」の2つの役割があります。
2-1.排卵の役割
卵巣には、卵子の元になる原始卵胞があります。
新生児の卵巣には200万個の原始卵胞が貯蔵されていますが、その後、数は増えることなく減少を続け、月経開始ごろには約30〜40万個まで減少します。
この原始卵胞は思春期になるまで休眠状態になっており、月経発来とともに活性化され発育を開始します。卵巣の中では毎月約1000個の原始卵胞が成長していき、最終的に毎月1個の成熟卵胞だけを排卵し、妊娠に至らない場合は月経が起こります。
成熟しても排卵しないそれ以外の約1000個の原始卵胞は、そのほとんどが消滅するといわれています。
このように加齢とともに卵巣内の休眠原始卵胞数は減少を続けるのですが、さまざまな原因で、残りが約1000個以下にまで減少すると、休眠原始卵胞の周期的な活性化が停止し、やがて閉経すると言われています。
2-2.ホルモン分泌の役割
本来、卵巣の機能は、初経を迎える時期から活発になり、20代後半でピークを迎え、その後は緩やかに低下しつつ50歳前後まで続きます。
卵巣の機能が徐々に低下するとともに、エストロゲン、プロゲステロンの値も徐々に低下していきますが、排卵は閉経直前まで見られます。
この現象は女性であれば全員にみられる自然な変化といえます。
卵巣の働きは、脳の視床下部と脳下垂体によって調節されています。
【視床下部〜脳下垂体〜卵巣のホルモン分泌の流れ】
(1)視床下部から、GnRH(性腺刺激ホルモン)が分泌される
(2)視床下部からのGnRHの刺激を受け、脳下垂体からFSH(卵胞刺激ホルモン)が分泌される
(3)脳下垂体からのFSHの刺激を受け、卵巣で成熟卵胞が成長する
(4)卵巣の成熟卵胞から、エストロゲン(卵胞ホルモン)が分泌される。その働きで、子宮内膜が増殖し、厚くなる
(5)卵胞が発育すると、エストロゲン(卵胞ホルモン)が視床下部に卵胞の発育を伝える
(6)卵巣から卵胞の発育が伝わると、GnRHが分泌される
(7)視床下部からのGnRHを受け、脳下垂体ではLH(黄体形成ホルモン)が分泌される
(8)LHの働きで、成熟卵胞が破裂し、卵子が卵巣の外へ排卵される。その後、卵胞は黄体へ変化し、プロゲステロン(黄体ホルモン)を分泌する。プロゲステロンの働きで、子宮内膜は妊娠しやすい柔らかい形に変わる
3.早発卵巣機能不全の原因と症状
早発卵巣機能不全にはさまざまな原因があり、その原因によって症状も異なります。
3-1.原因
以下のような原因があるとされていますが、多くのものが原因不明です。
・生まれたときから卵胞の数が少ない(原因不明)
・卵胞閉鎖の速度が速い(原因不明)
・遺伝子や染色体の異常(ターナー症候群、脆弱X症候群、ガラクトース血症)
・糖尿病
・自己免疫疾患(橋本病、全身性エリテマトーデス、副腎機能不全(アジソン病)など)
・ウイルス感染症
・卵巣の手術後
・卵巣の放射線療法後
・抗がん剤治療後
・ホルモン産生卵巣腫瘍
・喫煙
3-2.症状
潜在性卵巣機能不全・生化学的卵巣機能不全では、唯一の徴候が原因不明の不妊です。
顕性卵巣機能不全では、無月経や不規則な出血、エストロゲン欠乏症状(骨粗しょう症・性欲減衰・萎縮性膣炎など)やその徴候がよくみられます。抑うつのような気分の変化を訴える人もいます。
平均閉経年齢の51歳頃まで、5章で紹介する治療法(エストロゲンプロゲステロン補充療法)を受けなければ、認知症・骨粗しょう症・パーキンソン病・冠動脈疾患・抑うつのリスクが高くなります。
卵巣は通常小さくかろうじて触知できますが、ときに腫大することがあり、その場合は通常免疫疾患が原因とされています。
原因疾患の症状や徴候がみられることもあります。
・ターナー症候群による形態的特徴
脆弱X症候群による形態的特徴、知的障害、自閉症
副腎機能不全(アジソン病)による起立性低血圧、色素沈着、腋毛および陰毛の減少
4.早発卵巣機能不全の検査と診断
40歳未満で原因不明の不妊や月経異常、エストロゲン欠乏症状がみられる女性では、早発卵巣機能不全を疑い検査を行います。
4-1.子宮頸部および体部細胞診、超音波検査
早発卵巣機能不全を診断する際、まずは他の病気がないことを確認することが大切です。
例えば、卵巣がんや子宮がん、子宮内膜症、子宮筋腫、多嚢胞卵巣症候群などではないことを、子宮頸部および体部細胞診や超音波検査を行い確認します。
4-2.ホルモン検査
早発卵巣機能不全は、ホルモンの分泌異常を伴うためホルモン検査は必須です。
尿中妊娠ホルモン検査を実施し、妊娠による無月経ではないことを確認します。血液検査で、FSH(卵胞刺激ホルモン)、およびE2(エストラジオール、卵胞ホルモン)、甲状腺ホルモンの値を測定します。
卵巣予備能を予想するために、抗ミュラー管ホルモン検査を行うことがあります。
E2(卵胞ホルモン)値の低下を認める場合骨密度の測定も行われます。
1.FSH(卵胞刺激ホルモン)・E2
FSHは脳下垂体から子宮に、卵胞の発育を促すために分泌されるホルモンです。
卵巣機能が低下すると、脳下垂体は卵巣に働いてもらおうとFSHをさらに分泌させるため数値が上昇していきます。
E2は卵巣から産生される卵胞ホルモンで、エストロゲンの中でもっとも強い作用を持ちます。卵胞発育に伴い特徴的な分泌パターンを示すため、卵巣機能の評価に重要です。
早発卵巣機能不全では、血清FSHおよびE2値を2〜4週間、毎週測定します。
FSH値が高く(通常>30mlU/mL)、E2値が低ければ(通常<20pg/mL)、卵巣機能不全が確定されます。
卵巣機能不全確定後、疑われる原因についてさらに検査を進めます。
2.甲状腺ホルモン
甲状腺と卵巣の機能は一見、関係がなさそうにみえますが、実は卵胞の成長や黄体、受精卵すべてに甲状腺ホルモンレセプターが存在し、甲状腺ホルモンは卵胞の発育や黄体機能維持に必要とされています。
甲状腺ホルモンの検査は、甲状腺ホルモンであるfT4(遊離サイロキシン)、fT3(遊離トリヨードサイロニン)と、TSH(甲状腺刺激ホルモン)を測定します。
TSH(甲状腺刺激ホルモン)は、脳下垂体から分泌され甲状腺に働き、甲状腺ホルモンの分泌を促すホルモンで、TSHが高い値の場合甲状腺機能に衰えがあることになり、卵胞発育の低下や排卵障害、黄体機能不全につながるといわれています。
甲状腺ホルモンの低下またはTSHの上昇を認める場合は、自己免疫性甲状腺機能低下症の検査を追加し、抗サイログロブリン抗体および抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体を測定します。
3.AMH(抗ミュラー管ホルモン)
AMHはアンチミュラーリアンホルモンの略で、発育過程にある卵胞から分泌されるホルモンのこといいます。
この血中のAMHは、原始卵胞からどれくらい卵の数が残っているか、つまり卵巣の予備能がどれほどかを反映すると考えられています。
正常値が1.5~4.0ng/mlであり、値が低い場合は卵巣予備能の低下が考えられます。
不妊症治療の領域では、AMHは卵巣予備能の目安となる評価指標として使用されることがあります。
ただし、あくまでも予備能の話であり、数値が低くても卵子の質が低下しているわけではありません。
4-3.遺伝子検査を行うことも
早発卵巣機能不全を罹患する家族がいる、知的障害がある、振戦(※)または運動失調がみられるなどの場合は、遺伝カウンセリングおよび遺伝子検査の適応になります。
(※)振戦…体の一部が自分の意志とは関係なくふるえること
また、35歳未満で卵巣機能不全が確定した場合も、遺伝子および染色体疾患を明らかにするために核型分析を行います。
核型が正常な場合または自己免疫性疾患の可能性がある場合は、副腎機能不全を合併していないか確認するために、血清抗副腎抗体と副腎の自己抗体である抗21水酸化酵素抗体を検査します。
5.早発卵巣機能不全の治療法
早発卵巣機能不全の治療方法は、その人の症状やライフステージ、妊娠希望の有無などにより異なります。
5-1.ホルモン療法
妊娠の希望がない場合は、周期的エストロゲン-プロゲステロン補充療法(カウフマン療法)や低用量ピルの内服を行います。
このホルモン療法は、とくに問題がなければ51歳頃まで継続します。
ホルモン療法は、体のホルモンバランスを整えるだけではなく、エストロゲンの欠乏症状を緩和し、骨密度の維持や、冠動脈疾患、パーキンソン病および認知症の予防にもつながります。
骨粗しょう症予防に、十分量のカルシウム、マグネシウムとビタミンDを摂取する必要があります。
5-2.不妊治療
妊娠を希望する方に対して、様々な排卵誘発法が試みられていますが、いずれも有効性を示すエビデンスに乏しいのが現状です。提供卵子の体外受精や、卵巣組織・卵子・もしくは胚の凍結保存や胚提供を検討することもあります。早発卵巣機能不全と診断されても、その後に排卵や月経が起きることもあり、生涯にわたる妊娠率は5〜10%あるとも言われます。仮に排卵が起きたとしてもその頻度は極めて低いので、ホルモン補充療法は必要になります。
6.気になる症状があるときは迷わず受診しましょう
早発卵巣機能不全は、染色体異常や免疫疾患などが主な原因であり、中には原因疾患の治療が有効なこともあります。
40歳未満で無月経であっても、早発閉経や早発卵巣不全ではない人もたくさんいますので、婦人科の受診は痛そうだし怖い…と抵抗がある人も多いと思いますが、原因を調べるためにも早期に受診しましょう。
もしあなたやご家族がが40歳未満で原因不明の月経異常や不妊に悩んでいたり、エストロゲン欠乏症状(骨粗しょう症や性欲減衰など)がみられたりするときは、迷わず婦人科を受診しましょう。
それが、早発卵巣機能不全の早期発見に繋がり改善策となります。
この記事の監修は 医師 藤井 治子先生

藤井 治子
監修医
産婦人科専門医・医学博士
医療法人ハシイ産婦人科副院長
奈良女子大学非常勤講師
資格
日本産科婦人科学会専門医
母体保護法指定医
日本抗加齢医学会認定医
国際認定ラクテーション・コンサルタント
乳癌検診超音波検査判定医師A判定
マンモグラフィー撮影認定診療医師B判定
日本母体救命システム認定ベーシックインストラクター
臨床分子栄養医学研究会認定医
所属学会
日本産婦人科学会医会
日本女性医学学会
日本生殖医学会
日本産婦人科乳腺医学会
日本東洋医学会
日本超音波医学会
日本ラクテーションコンサルタント協会
学歴
高知大学医学部医学科卒業京都大学大学院医学研究科卒業
大学卒業後産婦人科一般診療に従事し、大学院では胚着床メカニズムについて研究。
現在は地域医療を担う分娩施設で妊娠・出産を支えつつ予防医療にも力を注ぎ、
思春期から更年期まで全てのライフステージにおける女性特有の症状に、分子栄養療法や漢方療法を取り入れ診療を行なっている。
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https://hashii-hp.jp/
和重 景
主に、自身の出産・育児やパートナーシップといった、女性向けのジャンルにて活動中のフリーライター。
夫と大学生の息子と猫1匹の4人暮らし。
座右の銘は、「為せば成る、為さねば成らぬ何事も、成らぬは人の為さぬなりけり」。