【医師解説】どんなタイプがおすすめ?「プロテインパウダー」6種と避けたいプロテインの見分け方
皆さま、こんにちは。
医師で予防スペシャリストの桐村里紗です。
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タンパク質は、アスリートだけでなく、体の構造やホルモン、酵素、神経伝達物質、遺伝子など、様々な機能を維持するために必須です。
数万種類のタンパク質によって、全身は機能しています。
同時に、動物性のタンパク質は、環境負荷が大きいことから、環境負荷がより小さい植物性のタンパク質(プラントベースプロテイン)にスイッチしていくことが、プラネタリーヘルスにとって大切な食の選択の一つです。
今日は、運動をする人にとっても、健康を維持するためにも必須のタンパク質について。
特に、プロテインパウダーについてご紹介したいと思います。
1.プロテインパウダーの種類と選び方
タンパク質が「アスリートのため」というイメージは、少々古い。
タンパク質は、心身に必須なので、健康を維持するためにも、病気がある方が十分に治癒力を発揮するためにも大切です。
1-1.タンパク質の働き
タンパク質は、もちろん筋肉を大きくするためにも役立ちますが、全身の構造、機能のために不可欠です。
・構造タンパク:筋肉・皮膚・内臓、コラーゲン(骨、皮膚、血管等)、DNAやRNA
・機能性タンパク:ホルモン・酵素・免疫物質・受容体・神経伝達物質など
1.体の構造を作る
タンパク質が不足すると、もちろん、筋肉も維持できませんが、皮膚や内臓の構造の維持、それに、皮膚の弾力に関わるコラーゲンも維持できません。
コラーゲンは、皮膚だけでなく、骨や血管の弾力にも必要です。
さらに、細胞の核タンパクである、DNAやRNAの原料でもあります。
全身に必須であることが分かりますね。
2.ホルモンの働き
女性ホルモンやストレス時にストレスホルモンを分泌するためにも、タンパク質が不足すると、ホルモンの原料となるコレステロールを肝臓から運び出せません。
タンパク質不足だと、月経は乱れ、ストレスにも弱くなります。
3.代謝の働き
全身の細胞の働きには、酵素のサポートが欠かせません。
酵素のサポートがないと、食べ物もうまく消化できません。
代謝酵素が働かないと、細胞はエネルギーを生み出すことができません。様々な環境毒素や体内で発生した老廃物を解毒もできません。
4.免疫の働き
免疫細胞が外敵と戦うために必要な抗体もタンパク質でできています。
抗体を十分に産生しようと思えば、タンパク質が潤沢である必要があります。
感染症がある時には、タンパク質の需要は増しますから、しっかり摂取する必要があります。
5.神経伝達物質の働き
気分や集中力、やる気などに関わる神経伝達物質も、原料はタンパク質です。
不足すると抑うつに関わるセロトニン。セロトニンからできる、睡眠ホルモン・メラトニン。やる気や集中力にも脳の報酬系ドーパミンなど、全てタンパク質が原料です。
2.プロテインの種類と選び方
バランスの良い食生活をしていても、なかなかタンパク質を十分に補うのは難しいもの。
運動やストレス、感染症などによって需要が増している時には、プロテインパウダーをプラスするのが便利ですね。
2-1.タンパク質の利用効率で選ぶアミノ酸スコアとDIAAS
プロテインの栄養価を示す指標を「アミノ酸スコア」と呼びます。
タンパク質を構成するアミノ酸は、必須アミノ酸と非必須アミノ酸に区分されています。
体内で生成することのできない9種類の必須アミノ酸がどれくらい満たされているかを表す数値が、アミノ酸スコアです。100に近い数値であるほど理想的です。
必須アミノ酸は、全てがバランス良く含まれていないと活躍ができないため、アミノ酸スコアが100に近いものが理想的です。
動物性のプロテイン、大豆プロテインは、いずれもアミノ酸スコア100と遜色はありません。
ただし、食品中のアミノ酸含有量とそれぞれのアミノ酸の小腸までの消化吸収率をあらわすDIAASまで考慮すると、実際の体でのパフォーマンスがより分かります。
ホエイプロテインは、1.09。
大豆プロテインは、0.91。
パフォーマンスまで考慮すると、ホエイに軍配が上がります。
※Milk Science Vol. 67, No. 3 2018
2-2.プロテインの製造法による種類
プロテインの製造法による種類には、3種類があります。
1.タンパク質濃縮物:濃縮膜処理法
熱と酸、酵素を使用して食品全体からタンパク質を抽出することによって生成されます。
60〜80%のタンパク質を含み、20〜40%は脂肪と炭水化物で構成されています。
2.タンパク質分離物:イオン交換法
フィルタリングをすることにより、脂肪と炭水化物が除去され、タンパク質がさらに濃縮されます。
タンパク質分離粉末には、約90〜95%のタンパク質が含まれています。
3.タンパク質加水分解物
酸または酵素によって、吸収の良いペプチドの状態にまで分解されます。加水分解物は、消化管の消化力に関わらず、体や筋肉により速く吸収されますが、価格は高めになります。
プロテインパウダーには、主にこれら3種類があります。
ビタミンやミネラル、その他の栄養素が添加されているものも多くあります。
2-3.動物性プロテイン
プロテインの原料は、動物性と植物性があります。
動物性プロテインの原料は、主に、牛乳です。
アミノ酸バランスが良く、筋肉のエネルギー源となり、筋タンパクの合成を高め同時に分解を抑制するアミノ酸・BCAA(イソロイシン、ロイシン、バリン)は、牛乳由来のプロテインに豊富です。
そのため、運動をする人たちには人気がありますが、牛を育てることの環境負荷の大きさから、最近では、植物性・プラントベースのプロテインにシフトしていこうという動きがあります。
牛乳は、牛を育てるために多くの牧草地や飼料を育てるための農地が必要となり、土地の砂漠化や生物多様性の減少などにも繋がり、土地や牛のゲップにより排出される温室効果ガスの量や製造に必要な水なども、その他のタンパク源に比べて多く、持続可能性の観点からなるべく減らして行きたい食材のひとつです。
1.ホエイプロテイン
ホエイプロテインは牛乳を原料に作られます。
ヨーグルトを置いておくと出てくる液体には、ホエイが含まれています。
ホエイは、消化がよく、分岐鎖アミノ酸(BCAA)が豊富です。BCAAの1つであるロイシンは、筋トレと有酸素運動後の筋肉の成長と回復を促進します。
激しい運動からの回復にも役立ちます。
また、過剰な食欲を減少させ、脂肪の減少を促進する働きがあることも報告されています。
一方で、濃縮物では、日本人が消化しづらい乳糖も含まれています。
ホエイプロテインを分離したタイプであれば、乳糖のほとんどが処理中に失われるため、ほとんど含まれていません。
若年男性を対象とした研究では、無酸素運動の後、ホエイプロテインが大豆プロテインより31%、カゼインプロテインより132%、筋肉タンパク合成を増加させたと報告されています。
※J Appl Physiol (1985). 2009 Sep;107(3):987-92.
2.カゼインタンパク質
ホエイと同様に、カゼインは牛乳に含まれるタンパク質です。
ただし、カゼインは、ホエイと比べて、消化と吸収がはるかに遅くなります。
カゼインは胃酸と相互作用するとゲルを形成し、胃の動きを遅らせ、アミノ酸の吸収を遅らせます。
ゆっくりと吸収されることで、筋肉に持続的にアミノ酸が吸収され、筋肉タンパク質の分解速度が低下するとされています。
カゼインは、大豆や小麦のタンパク質よりも筋タンパク質の合成と強度を高めるのに効果的ですが、ホエイタンパク質よりはその効果が劣ります。
さらに、消化が遅い分、アミノ酸にまで分解されず、タンパク質とアミノ酸の間のペプチドという状態で止まり、カソモルフィンという物質になることが問題です。
〜モルフィンという名前の通り、モルヒネと同様の構造を持っており、これが体内に吸収され、脳のオピオイド受容体に結合することで、モルヒネ様の作用を発揮する可能性が指摘されています。
ホルスタイン牛に含まれるA1カゼインと違い、ブラウンスイス種やジャージー種に含まれるA2カゼインは、消化管に炎症を起こしにくく、吸収が良いため、アメリカやオーストラリアなどでは、A2カゼインを含む牛由来の乳製品がスーパーでも販売されています。
腸に炎症を起こしやすいという点で、私たち、バイオロジカル医療に携わる医師は、A1カゼインを含むホルスタイン由来の乳製品やプロテインはお勧めしていません。
やめたら調子が良くなったという声もよく聞きます。
2-4.植物性プロテイン
最近では、環境負荷の観点から、牛乳に比べて環境負荷が少ない植物性・プラントベースのプロテインが人気です。
食物繊維が摂取できるのも嬉しいところです。
一方で、食物繊維が豊富な分、植物性タンパク質は動物性タンパク質よりも消化が遅い傾向があります。ただし、消化を促進するために酵素が組み合わせられたタイプは、吸収が良くなります。
また、牛乳に比べて、アミノ酸のバランスが悪い場合がありますが、アミノ酸のバランスを工夫したり、複数の種類の植物性プロテインを組み合わせることでバランスをよくしているものもあります。
1.ソイプロテイン・ピープロテイン
ソイプロテインの原料は、大豆です。
大豆のタンパク質部分だけをパウダーにしたものです。
アレルギーなどがあって大豆がダメ、さらに、乳製品を控えたいという人には、エンドウ豆由来のピープロテインが人気です。
菜食主義者、ビーガン、乳製品にアレルギーがある方に選ばれています。
これらには、食物繊維も含まれています。
エンドウ豆のプロテインには、BCAAが特に豊富です。
日本では、ソイプロテインは一般的ですが、アメリカでは、大豆に含まれる「レクチン」の問題があるため、店頭から減っています。
グルテンフリーダイエットで知られる、小麦に含まれるタンパク質・グルテンも、実はレクチンの一種です。
消化が難しく、腸に炎症を起こし、リーキーガット症候群を起こしやすいことが知られています。
https://wellmethod.jp/lectin-free-diet/
2.ヘンププロテイン・麻の実プロテイン
ヘンププロテインパウダーは、人気が高いプラントベースプロテインです。
ヘンプシードと呼ばれる麻の実を、パウダー状にしたものですが、半分はアミノ酸です。
ヘンプは、いくつかの必須アミノ酸が豊富ですが、アミノ酸のリジンとロイシンのレベルが非常に低いため、アミノ酸スコアは低いものです。
ただし、なかなか取りにくい、オメガ3系脂肪酸を多く含むため、ホールフードとして考えると素晴らしい栄養素を含んでいます。
わたしは、普段からスムージーやスープにヘンププロテインを加えています。
トータルな食事で不足しがちなリジンやロイシンを補えば良いと考えています。
消化は大変よく、オメガ3系脂肪酸は、腸の炎症を抑えてくれます。
食物繊維も豊富です。
3.ライスプロテイン
玄米から作られたプロテインパウダーも、プラントベースプロテインの中では人気です。
筋肉を構築するための必須アミノ酸は、ホエイプロテインよりは劣っています。
必須アミノ酸がすべて含まれていますが、リジンが少ないため、アミノ酸スコアは低くなります。
牛乳や大豆由来のプロテインはアレルギーが多いのが難点ですが、米由来のライスプロテインは、消化がよく、アレルギーが少ないのがメリットです。ご飯と比べても、高タンパク質です。
4.プラントベースのミックスプロテイン
植物性・プラントベースのプロテインでは、必須アミノ酸をバランス良く組み合わせるために、2種類以上の植物性タンパク質が組み合わせられたものもあります。
ソイ、エンドウ豆などの豆類、ライス、ヘンプ、チアシード、亜麻仁などが組み合わせられています。
3.避けたいプロテイン
特に避けたいプロテインは、人工甘味料が入ったものです。
ゼロカロリーの人工甘味料は、以前は血糖値を上げずにダイエットに最適と考えられていましたが、最近では、血糖値を下げるインスリンというホルモンの分泌を刺激して血糖値の乱高下の原因になったり、食欲を増して肥満を促進することなどが指摘されています。
ダイエットのつもりが、どうも食欲が落ち着かないという場合、人工甘味料入りを避けてみてください。
もし甘味が欲しい場合は、腸内環境を改善するオリゴ糖や天然のゼロカロリー甘味料・羅漢果糖などを加えるといいですね。
4.まとめ
最近では、様々な種類のプロテインが販売されています。
私自身は、プラネタリーヘルスの観点からも、オーガニックのヘンププロテインやライスプロテインを選んでいます。
運動前後だけでなく、スムージーやスープなどに加えて、日常的にプロテインを補給しています。
健康のために、男女ともにプロテインは不可欠です。
自分自身も地球も持続可能な方法を選択していきたいですね。
この記事の執筆は 医師 桐村里紗先生

桐村 里紗
総合監修医
・内科医・認定産業医
・tenrai株式会社代表取締役医師
・東京大学大学院工学系研究科 バイオエンジニアリング専攻 道徳感情数理工学講座 共同研究員
・日本内科学会・日本糖尿病学会・日本抗加齢医学会所属
愛媛大学医学部医学科卒。
皮膚科、糖尿病代謝内分泌科を経て、生活習慣病から在宅医療、分子整合栄養療法やバイオロジカル医療、常在細菌学などを用いた予防医療、女性外来まで幅広く診療経験を積む。
監修した企業での健康プロジェクトは、第1回健康科学ビジネスベストセレクションズ受賞(健康科学ビジネス推進機構)。
現在は、執筆、メディア、講演活動などでヘルスケア情報発信やプロダクト監修を行っている。
フジテレビ「ホンマでっか!?TV」には腸内環境評論家として出演。その他「とくダネ!」などメディア出演多数。
- 新刊『腸と森の「土」を育てるーー微生物が健康にする人と環境』(光文社新書)』
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著作・監修一覧
- ・新刊『腸と森の「土」を育てるーー微生物が健康にする人と環境』(光文社新書)
- ・『日本人はなぜ臭いと言われるのか~体臭と口臭の科学』(光文社新書)
- ・「美女のステージ」 (光文社・美人時間ブック)
- ・「30代からのシンプル・ダイエット」(マガジンハウス)
- ・「解抗免力」(講談社)
- ・「冷え性ガールのあたため毎日」(泰文堂)
ほか