逆流性食道炎の治療に必要な知識と生活習慣の改善法5つ
こんにちは、WELLMETHODライターの廣江です。
みなさんは、脂っこい食事をした後やお酒を飲んだ翌日など
「酸っぱいげっぷが出てくる」
「胸の辺りや喉の辺りがムカムカして、不快感がある」
といった経験をしたことはありませんか。
筆者自身は、脂身が多いお肉をたくさん食べたり、お酒を飲みすぎた翌日は胸の辺りがムカムカして、ご飯が食べられなくなったりすることがありました。
症状があまりにもひどいときには、ドラッグストアに行って胸やけが改善できるような胃薬を購入することもあったほど
これらの不快感や症状は逆流性食道炎が関係している可能性があります。
逆流性食道炎の改善薬というと、胃酸の分泌を抑える薬が主流ですが、逆流性食道炎の原因は先述したことだけとは限りません。
一般的に逆流性食道炎は「胃から分泌される強い胃酸が食道へ逆流し、炎症を起こす」イメージがあります。しかし、実際は「胃酸が少ないことが原因でも逆流性食道炎を引き起こす」ケースもあります。
その際、逆流性食道炎で使われる胃薬(とくにプロトンポンプ阻害薬)は逆効果となることも。
今回は逆流性食道炎における、原因とその治療、日常生活でできる予防策についてご紹介します。
1. 逆流性食道炎とは
逆流性食道炎とは、胃から分泌される胃酸が食道に逆流することで引き起こされる病気といわれています。
胃酸とは、胃が作る酸のことで、食べ物の消化を助ける大切な役割があります。
胃酸の酸性度はpH1~2と非常に強力で、この胃酸により食道の粘膜がダメージを受けると、みぞおちの辺りにさまざまな症状が起こります。
1-1. 逆流性食道炎の主な症状
逆流性食道炎の症状は、以下のようなものがあります。
その中でも主な症状は「胸やけ」です。「胸の辺りがムカムカする」「酸っぱいものが込み上げる」「胸がしみる」などの症状を胸やけと感じる方もいるようです。
また、逆流性食道炎は胸や喉に現れる症状の他に、呼吸器症状や睡眠への影響なども報告されています。
・胸やけ、胸のムカムカ
・酸っぱいものが胃から上がってくる感じがする
・胸にピンポン玉があるような感じがする
・胃もたれ
・胃の膨満感、げっぷ
2. 逆流性食道炎が起こる原因
逆流性食道炎が引き起こされる原因として、これらが考えられます。
2-1. 原因1)胃酸過多
通常、胃に食べ物が入ると、食べ物の消化を助けるために胃酸が分泌されます。
胃酸と食べ物が混ざり合うと、強酸である胃酸のpHも中和され、その後胃の出口である幽門輪が開き、食べ物を小腸へ送り出します。
しかし、なんらかの原因で胃酸の分泌が多い胃酸過多になった場合、食べ物が胃に入っても胃酸の酸性度は中和されることなく酸性に傾いたままで幽門輪が開かなくなります。
そのため、胃の内部の圧力が上がり、逆流が起こった結果、逆流性食道炎が起こります。
2-2. 原因2)低胃酸症
胃酸の分泌が多すぎることにより引き起こされる一方で、胃酸の分泌が低下した状態の低胃酸症においても引き起こされることがあります。
低胃酸症は名前の通り、胃酸の分泌が低下した状態のことです。
本来、胃に食べ物が入ると、胃酸が分泌され、消化と同時に酸性度が中和され小腸へ送り出されます。
しかし低胃酸症では胃酸の分泌が足りず、消化に時間がかかるため、胃に食べ物が通常よりも長い時間留まることになります。
その結果、下部食道括約筋(かぶしょくどうかつやくきん)(※)が時間の経過とともに緩んだタイミングで、胃の内容物が食道へ逆流することになります。これが低胃酸症による逆流性食道炎です。
低胃酸症は、胃酸過多による逆流性食道炎に比べれば胃酸の量も少なく、食べ物を消化するために十分な酸の濃度ではありません。しかし、本来胃酸に抵抗力のない食道にとってはダメージが大きいものとなります。
(※)下部食道括約筋(かぶしょくどうかつやくきん):
食道と胃のつなぎめ、胃の入り口部分である「噴門部」の筋肉を指す。胃酸が胃から出ないように調整する役割がある。
2-3. 原因3)胃の噴門部の低下や生活習慣
胃酸の逆流症状は、必ずしも胃酸が多すぎるからとは限らず、他に噴門部の機能の低下や生活習慣なども原因になります。
ですので、必ずしも胃酸を抑えることだけで症状が解決するわけではありません。
噴門部の筋肉である下部食道括約筋は、胃酸や胃の内容物が胃から出ないように調整する役割があり、正常な状態では胃液で食道が傷つかないように逆流を防ぐよう機能しています。
しかし、加齢や暴飲暴食、肥満、姿勢(腹圧の上がるような前かがみの姿勢)、脂肪分の多い食事、就寝前の食事や不規則な食事により、この機能が弱まってしまいます。
3. 治療法
逆流性食道炎の治療では、胃酸過多を防ぐために胃酸の分泌を抑える制酸薬が使用されることがあります。
その中でもプロトンポンプ阻害薬(PPI)と呼ばれる種類の制酸薬は、胃酸の分泌を強力に抑える働きをもつため、医療機関でも多く用いられます。
4. 制酸剤の使用で知っておきたい5つのリスク
逆流性食道炎の治療には制酸剤がよく使用されますが、制酸剤を飲んだからといってすべての逆流性食道炎が治療できるとは限りません。
ここでは、制酸剤を使用する前に知っておきたい5つの注意点についてご紹介します。
4-1. その1:低胃酸症の逆流性食道炎に制酸剤は逆効果
制酸剤は胃酸の分泌を抑える働きがあるため、逆流性食道炎の治療ではよく用いられますが、逆流性食道炎の原因は胃酸の過剰分泌だけではないため、必ずしも治るというわけではありません。
それどころか、胃酸が少ない低胃酸症が原因で引き起こされる逆流性食道炎では、制酸剤を服用すると胃酸の分泌はさらに低下し、症状が悪化するリスクが高まります。
この場合は、消化を促す治療で症状が改善するため、制酸剤で症状が悪化する場合は治療を切り替えることが必要です。
4-2. その2:制酸剤(プロトンポンプ阻害薬)は腸内細菌を乱すことも
近年では制酸剤(プロトンポンプ阻害薬)を服用し、胃酸を低下させることが、腸内細菌の乱れを引き起こし、SIBO(小腸内細菌異常増殖症)につながる要因の一つであることが報告されています。
また、SIBOが原因で、小腸がガスで張り、胃の内容物が逆流することもあります。
▼【医師解説】腸活が逆効果になる腸内フローラの異常「SIBO(シーボ)」
1. SIBO(小腸内細菌異常増殖症)とは
SIBO(小腸内細菌異常増殖症)は、小腸内に存在する細菌が異常に増殖した病態です。
症状には、お腹が張る・げっぷ・腹痛・下痢・便秘などの消化器症状や不快感などがあり、逆流性食道炎の症状を悪化させる原因になることがあります。
2. SIBO(小腸内細菌異常症)の原因
SIBO(小腸内細菌異常症)になる原因はストレスや他の病気の合併症などさまざまです。
その原因の一つに制酸剤(プロトンポンプ阻害薬)の使用があります。
本来、小腸内は大腸に比べて細菌の棲息数は非常に少なく、食べ物は大腸内の細菌が発酵させ、ガスを発生させます。
しかし制酸剤(プロトンポンプ阻害薬)を長く使用することで、胃酸の分泌が低下し、胃酸による殺菌効果が低下するため、小腸内の殺菌が異常に増殖します。
増殖した細菌は発酵し、ガスを発生させるためにSIBOになると考えられています。
4-3. その3:制酸剤及び低胃酸症で不足する栄養素
制酸剤を長期使用する場合や、低胃酸症で胃酸の分泌が不足すると、十分に食べ物を消化することができなくなるため、体は栄養素を十分に吸収できなくなるため注意が必要です。
不足しやすい栄養素として、以下のようなものがあります。
<低胃酸症及び制酸剤により不足しやすい栄養素>
・ミネラル類(カルシウム・マグネシウム・亜鉛・鉄など)
・ビタミンB12、葉酸
・たんぱく質(アミノ酸)
4-4. その4:胃酸の分泌低下は、感染症のリスクを高める
胃酸による殺菌効果の低下は、腸内への歯周病菌の侵入などに伴う腸内細菌の乱れを引き起こし、腸の炎症や大腸がんなどの原因になる可能性があるといわれており、最近では、特に強い制酸作用のあるプロトンポンプ阻害薬の投与を慎重にする医師が増えています。
4-5. その5:低胃酸症と関係のあるその他の病気
SIBOのほかにも、低胃酸症と関係のあるとされる病気があります。
・貧血(鉄欠乏性貧血・大球性貧血)
・骨粗鬆症
・ホルモンバランスの異常
・精神障害
・神経障害
制酸剤を長期間使用している方で貧血や骨粗しょう症を伴う方は、制酸剤による鉄やビタミンB12、葉酸、またカルシウムやマグネシウムの吸収不良の可能性があります。
症状が長期的に緩和している場合は、内服継続の是非を担当医に相談してみることをおすすめします。
5. 生活習慣の見直しによる5つの改善策
逆流性食道炎を改善するためには、お薬に頼るだけではなく、生活習慣を見直すことにより症状を軽減させることも可能です。
5-1. 夕食を少なめに。よく噛んで食べる
寝る前に食事を摂ると、胃に食べ物が停滞する原因となります。
そのため、食事量は夕食を控えめにし、朝食や昼食を中心に食べるようにしましょう。
早食いやドカ食いも逆流性食道炎を引き起こす原因となるため、よく噛んで、ゆっくり少しずつ食べてください。夕食の時間としては、就寝の4時間前までに済ませることがおすすめです。
また、逆流を防ぐために、食後にすぐ横にならないことも大切です。
5-2. 食事のバランスを整える
逆流性食道炎の症状を抑えるために、消化に負担のかかる脂質は控えめにするなど食事のバランスを心がけましょう。
カフェイン、チョコレート、炭酸飲料などを中心に、また、タバコのニコチンは、胃の動きを抑制させるためなるべく控えるようにしましょう。
これらは、食道と胃のつなぎ目(噴門部)の働きを抑える働きがあり、胃酸を逆流させ症状を悪化させるおそれがあります。
香辛料の効いた食事、かんきつ類、酢、たまねぎ、にんにく、アルコールなども逆流症状を悪化させることがあるので、なるべく控えるようにしましょう。
5-3. 運動習慣をつける
適度な運動は、消化管の蠕動(ぜんどう)運動を促します。食べ物を胃に停滞させないためにも、定期的な運動習慣は大切です。食後に運動をするとより効果的です。
5-4. ウエストをしめつけない服装を心がける
ファッションや補正下着の中には、ウエストをしめつけるデザインのものもありますが、きつくしめつけすぎると、食べた内容物が胃から小腸に移動しづらくなります。
そのため、逆流性食道炎の症状を軽くするためにはウエストをきつくしめすぎないゆったりとしたラインの服装を心がけましょう。
5-5. ストレスマネジメントをしましょう(ヨガ、瞑想など)
健康な人の胃は、食べ物の消化に必要である「胃酸」と胃酸から胃粘膜を守る「胃粘液」がバランスよく保たれています。
しかしストレスによる刺激は、胃粘液の分泌を減少させ、胃粘膜の抵抗力を弱めてしまい、胃酸が自身の胃を攻撃してしまい胃炎を起こす恐れがあります。
症状を和らげるためにも、受けたストレスを上手に解消できるように意識しましょう。ヨガやマインドフルネス瞑想などストレスマネジメントができる生活習慣を取り入れてみましょう。
6. 毎日の習慣を見直すことが大切
胃の辺りがムカムカしたり胸焼けがしたりすると、ついつい胃酸を抑える薬に頼りがちですよね。
しかし、胃酸が少ないからこそ逆流性食道炎になるケースもあり、制酸剤が腸内環境のバランスを崩す可能性もあることから、安易な自己判断で制酸剤を飲み続けると逆効果になることもあります。
気になる症状がある際は、医療機関を受診するようにしましょう。
生活環境や食生活の改善でも症状を軽くすることは可能です。胃への負担を少しでも軽くするために、まずは身近な環境を整えるなどできることから始めてみましょう。
まずはご自身の体を大切にし、ご家族や周囲の人たちと共に輝ける未来につながるようにしましょう。
この記事の監修は 医師 桐村里紗先生

桐村 里紗
総合監修医
・内科医・認定産業医
・tenrai株式会社代表取締役医師
・東京大学大学院工学系研究科 バイオエンジニアリング専攻 道徳感情数理工学講座 共同研究員
・日本内科学会・日本糖尿病学会・日本抗加齢医学会所属
愛媛大学医学部医学科卒。
皮膚科、糖尿病代謝内分泌科を経て、生活習慣病から在宅医療、分子整合栄養療法やバイオロジカル医療、常在細菌学などを用いた予防医療、女性外来まで幅広く診療経験を積む。
監修した企業での健康プロジェクトは、第1回健康科学ビジネスベストセレクションズ受賞(健康科学ビジネス推進機構)。
現在は、執筆、メディア、講演活動などでヘルスケア情報発信やプロダクト監修を行っている。
フジテレビ「ホンマでっか!?TV」には腸内環境評論家として出演。その他「とくダネ!」などメディア出演多数。
- 新刊『腸と森の「土」を育てるーー微生物が健康にする人と環境』(光文社新書)』
- tenrai株式会社
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著作・監修一覧
- ・新刊『腸と森の「土」を育てるーー微生物が健康にする人と環境』(光文社新書)
- ・『日本人はなぜ臭いと言われるのか~体臭と口臭の科学』(光文社新書)
- ・「美女のステージ」 (光文社・美人時間ブック)
- ・「30代からのシンプル・ダイエット」(マガジンハウス)
- ・「解抗免力」(講談社)
- ・「冷え性ガールのあたため毎日」(泰文堂)
ほか