【新型コロナ】から学ぶウイルスとの付き合い方|免疫力と常在細菌の防御力を再確認
皆さま、こんにちは。
医師で予防医療のスペシャリスト・桐村里紗です。
新型コロナウイルスが、世界的にパンデミックと認定され、世界中でコロナショックが起こっています。
冬からの序盤戦が終わり、日本でも、そこはかとない不安感が社会に蔓延しています。
梅雨時から夏にかけて感染の拡大が止まるかどうかも分からず、仮に落ち着いたとしても寒い季節にはほぼ再燃するだろうと予測される新型コロナウイルスとの長期戦は続くと考えられます。
世界が感染を避けることでウイルスを封じ込めようとする一方で、あえて集団に感染させることで免疫をつける方法を目論んだイギリスの政策も論争になるなど、
健康な人では、「感染しない方が良いのか、むしろ感染して免疫力をつけた方が後々のために良いのか」という疑問の声もあがっています。
さらには、「消毒をたくさんしているけど、手を守る常在細菌まで殺菌するのはどうなのか」といった声も。
これからも続くウイルスとの生活に当たって、ここで今一度、人の免疫力や人を守る常在細菌の働きを再確認しながら、ウイルスとの付き合い方を見直してみたいと思います。
1.ウイルスとの付き合い方
誰かとお付き合いするには、その人の人となりを知ることがとても大切です。
まずは、ウイルスの「ウイルスなり」を理解していきましょう。
1-1.「ウイルスと細菌」は「自動車と家」ほど違う
そもそも、ウイルスと細菌は別もの。
同じ微生物というカテゴリーには属しますが、そのキャラクターは全く違います。まず、この大前提を理解しなければなりません。
これは、「風邪を引いたから、抗生物質を飲もう」という、一般に流布する誤った行動を防ぎ、病原性のウイルスを駆除するために消毒剤を過剰に使用することへの誤解を解くためにも必要です。
1-2.細菌は、1軒の家である
生物の細胞1個を、家と考えてみましょう。
何部屋もある豪華な家ではなく、1ルームの小屋のようなイメージです。
小屋は、細胞膜という外壁で覆われ、外側の世界と内側の自分の世界をはっきりと区別しています。
その中心となる核には、その小屋の設計図となる遺伝子の情報が仕舞われています。その情報をもとに、色々なタンパク質が作られ、小屋が存続するための生命活動を送る代謝が行われています。
生きるために、外から食料を取り込みます。そして、その食料をエネルギーに変えるキッチンのようなシステムや、生活で出るゴミを処理するシステムも備わっています。
細菌という生き物である家は、子孫を繁栄するために、自己増殖という形で小屋をコピーして増殖していきます。
1-3.ウイルスは、自動車である
一方で、ウイルスは、その小屋の中から一部の遺伝情報だけが外に飛び出したようなものです。
ウイルスの中心は、DNAもしくは、RNAです。
それらは、裸でいるわけではなく、カプシドという殻に覆われていますので、家と比較して自動車に乗ったような状態と考えてみましょう。
ウイルスには家がないので、エネルギーを作るキッチンなどのシステムを一切持ち合わせていません。
「生きる」とは、食料を食べ、エネルギーを作り自己を養い、排泄するという循環システムが回っていることを意味します。そして、子孫繁栄することができるのが、「生物」です。
これらが自分でできないウイルスは、生物学会では「生物ではない、ただの情報だ」と言われています。一部例外も見つかっていますので、一般的なウイルスについてです。
1-4.ウイルスは、ハッカーである
では、ウイルスが子孫を反映するにはどうしたら良いかというと、どこかの家に居候することです。
つまり、生物の細胞に侵入し、DNAやRNAをその生物の遺伝子の中に組み込んで、その家の一部になりすまします。
そして、その家の遺伝子という中枢をハッキングして、自分のコピーをどんどんと増やしてもらいます。
そして、どんどん増えたコピーは車に乗って外の世界に出て行き、別のハッキング先を探します。
ハッキングされた家は、システムエラーが起きてそのうち倒壊してしまう場合もあれば、ハッキングされていることに気づかず、静かにウイルスと共存する場合もあります。
コロナウイルスやインフルエンザウイルスなどは、前者です。家の倒壊時には急性の症状が起こります。
ヘルペスウイルスのように、一度感染すると普段は特に症状も起こさずにひっそりと細胞の中に潜んでいるものは、後者です。普段は特に無症状ですが、免疫力が落ちることで急に症状が出ることがあります。
1-5.細菌の増殖とウイルスの増殖の違い
細菌とウイルスの増殖の仕方を整理します。
細菌は、エサさえあれば勝手に増えます。
ですから、キッチンに放置された雑巾のように、適温多湿で高栄養の環境があれば、そこで自己増殖できます。
一方で、ウイルスは、環境に放置されても増殖はできません。付着しているだけ。
ですから、机にも付着、手にも付着しているだけで、そこで増殖することはできないのです。それが、生物の細胞に侵入することで初めて増殖することができます。
新型コロナウイルスについては、手から口、喉の粘膜に運ばれ、上皮細胞に侵入し、細胞の中枢部にある遺伝情報をハッキングすることで、ようやく感染が成立して増殖することができるのです。
2.人とウイルスと細菌の共存
さて、ウイルスと細菌の違いをイメージで理解したところで、今度は人との関わりが重要です。
2-1.人と共生する常在細菌叢(そう)
「ウイルス」「細菌」いずれも「感染症を引き起こす」というイメージがある一方で、最近では、「常在細菌叢(そう)(マイクロバイオーム)」として、人の皮膚や消化器などを外界や外敵から常時守ってくれる強い味方が重要だということが知られています。
「腸内細菌」を元気にして、腸内環境を改善する「腸活」がブームですが、「腸内細菌」も「常在細菌叢(そう)」の一種ですね。
これらは、人に有用な働きをする有用菌であり、病原菌からも私たちを守ってくれる大切な存在です。
実は、環境の中の99.9%は、調和的な有用菌であり、これまで発見されてきた病原菌は、0.1%程度に過ぎないとも考えられています。
2-2.実は、人と共生する常在ウイルスもいる
ウイルスは地球上にもっとも多く存在し、その種類は、10の31乗という天文学的な数と言われています。
これまでほとんど、人に対しては病原性のウイルスしか研究されてこなかったのですが、実は、人に共生している「常在ウイルス(ヴァイローム)」がいることが明らかになりつつあります。
彼らは、人自体に感染するウイルスとは違い、人と共生する常在細菌の中に静かに共生しているというのです。
このように、細菌に感染するウイルスを「バクテリオファージ」と言いますが、人の常在細菌は、バクテリオファージの共生を許容しています。
少しトリッキーですが、常在ウイルスは、常在細菌の中に入り込むことで、常在細菌をサポートし、間接的に人の健康をサポートしていると考えられています。
人の遺伝子の進化は1世代で起こることはないものの、ウイルスは、環境に応じてコロコロと変幻自在に進化する能力を持っています。
これによって常在細菌の働きが変化することで、人の健康状態や栄養や薬などの代謝にも何らかの影響を与えていると考えられ、研究が進められています。
まだまだ未知の分野ですが、細菌の多くが病原性ではなく人と共生可能な種類であるように、ウイルスについても全てが病原性がある恐ろしいものではなく、常在ウイルスとして共生しているのです。
2-3.ウイルスや細菌の目的は“共存”
新型コロナウイルスの流行は、「ウイルスは怖い!」という恐怖のイメージを広め、同時に区別のつきづらい「細菌」もひっくるめてイメージダウンをさせてしまったように思います。
でも、彼らの目的は、別に「人を殺そう」というものではありません。
彼らの目的は、「生存」と「種の繁栄」。
ですから、その目的のためには、ハッキングする家を持つホストと共存共栄する道も選びます。実際に、常在細菌やウイルスは、このような道を選択しています。
一方で、人に死をもたらすインフルエンザウイルスや新型コロナウイルスであっても、目的は同じです。
特に、これまで人と接したことのない新規のウイルスは、さじ加減がわからないのでホストを殺してしまうこともあります。ただし、増殖をさせてもらうためにハッキングしていた細胞まで死んでしまい「種の繁栄」ができなくなると、本末転倒です。
ですから、人から人へと感染していく毎に、環境に適合可能なようにコロコロと変異し、その病原性を適度に弱め、致死的にはならない程度に生かしながら感染を維持するという方法をとることが一般的です。
彼らの目的を考えると、最終的には強毒化するよりも弱毒化する方が好都合と言えます。
2-4.新型コロナ爆発的感染は空気が読めないから起こる
今回の新型コロナウイルスについても、最終的には弱毒化して、人との共存を目指すことになるだろうと予測されています。
ただし、その過程では、感染するホストを殺してでも、爆発的に多くの人に感染して数の論理で生存と繁栄を拡大する方法をとることがあります。
これが、武漢市で起こった爆発的な感染だろうと考えられています。
いわゆる風邪を引き起こす他の種類のコロナウイルスのように、人との関わりが深い古株のウイルスであれば、人間界での立ち居振る舞いをわきまえており、風邪程度の症状ですませてくれるケースが多いのですが、新参者は、空気を読まないので困ります。
今後も、新規のウイルスに人が出会った際は、今回のように一時的に重症化する場合もあるので、注意が必要です。
彼らがある程度、人間界での空気の読み方を身につけてくれるまでは、辛抱が必要です。
3.免疫力と常在細菌バリアの防御力を生かす
今回の新型コロナウイルスの感染拡大で今一度見直すべきは、人の体を内側で守る免疫細胞による免疫力、そして、人の体を外側で守る常在細菌バリアによる防御力です。
新型コロナウイルスについても、8割がたの人は、感染しても無症状の「不顕性感染」だと言われているように、人は、病原性のウイルスについて無力ではありません。
3-1.人の体を内側で守る免疫細胞による免疫力
免疫力は、人の体の内側に侵入してくる敵から私たちを守る免疫細胞という近衛兵の活躍です。
今回、多くの国が「ウイルスを避けてなるべくかからないようにする作戦」をとった一方で、イギリスが「ウイルスに意図的に接することで集団に免疫をつけようとする作戦」を打ち出しました。
集団のうち、6割程度の人数がウイルスに晒されることで抗体ができて免疫がつけば、症状が起きなくなるために人から人への伝染が起こらなくなり、ウイルスがそれ以上拡大することがなくなるというものです。
多くの人たちは軽症ですむはずだという試算がある一方で、数十万人の死者は免れないというベースの考えから、「見殺しにする気か!」と市民の反発を呼ぶことになり、結局は封鎖政策をとることになったものの、公衆衛生的には評価する声もありました。
ただし、イタリアの致死率を鑑みると、ヨーロッパでの流行は、高齢化や密接なコミュニケーションだけでなく、ウイルスの型が変異して一旦強毒化している可能性も示唆されていますので、封鎖政策が賢明であったかも知れません。
3-2.実は新型コロナだった!は日本にもいるはず
いち早く中国からウイルスが到来したにも関わらず、感染者数が欧米諸国ほど爆発していないことが評価されている日本はどうでしょうか。
レストランでの食事や電車での移動などウイルスと接触する機会を封鎖していない為に、じわじわと感染者が広がって、実は新型コロナウイルスにかかってすでに抗体ができている人が一定数いるはずだと推測されています。
3-3.8割の人への対策は風邪と一緒
8割は、無症状か風邪程度の軽症で治ると考えられる為、気づかないか、ちょっと怪しいけど程度で終わっている可能性があります。
(※こちらについても、変異によって強毒化したタイプが国内に入り込み拡散すると話が変わってくる可能性はあります、ニュースに注意して下さい。)
検査がインフルエンザのように気軽に受けられるようになると確定診断され、感染者と認定される人が急に増えるかも知れませんが、重症化しない場合は、風邪とやることは一緒。
「風邪に、細菌を殺す抗生物質は効きません」
「風邪に、特効薬はありません」
「家で、体を休め、消化に負担のかからない食事をして経過を待ちましょう」
3-4.ビタミンDも忘れずに
そして、分子整合栄養療法をおさめた医師が加えるとしたらこうです。
「免疫力を維持する為にビタミンDをしっかり摂りましょう」
ビタミンDは、太陽に含まれる紫外線UVBを浴びることで皮膚で作られ、鮭や干し椎茸などの食材に豊富に含まれます。
鮭の切り身1つを毎日の食卓に加えれば、一日の所要量を十分に賄うことができます。
外出しない、日焼け止めを全身に塗る、黒づくめで日差しを避ける、ビタミンD豊富な食材を摂らない現代人は、ビタミンDの血中濃度が低下している傾向にあります。
新型コロナウイルス は新興のウイルスですので、現状でこれに対して「直接効く!」というエビデンスがとれた食品は一つもないことをお断りしておきますが、ビタミンDの血中濃度が低下していることは免疫力を下げるリスクになりますので、これを防ぎたいのです。
在宅ワークを強いられている場合も、運動不足の解消がてら、春の日差しを浴びましょう。
3-5.皮膚には三重のバリアがある
新型コロナの拡大で、ダメージを受けているのは、人間だけでなく、人と共生する常在細菌叢です。
アルコールなどの消毒剤をこれまで以上に熱心に使うことが一般化され、手肌や環境を守る常在細菌叢が危機的状況になっています。
皮膚には、三重のバリアがあります。
1. 表皮のバリア:体内への侵入を防ぐ
2. 常在細菌のバリア:何層かに重なり合い、病原性の微生物の侵入を防ぐ
3. 皮脂のバリア:常在細菌が皮脂の中の脂肪酸を分解して皮脂ベールを作り守る
皮膚は、堅牢な防御壁です。
その外側を常在細菌が覆い尽くしています。常在細菌が隙間なく守っている皮膚は、外からやってきた微生物が入り込む隙がありません。
これらが手肌を守ることで、病原性の微生物が一時的に付着したとしても、手洗いを行うことで簡単に洗い流すことができます。
最終的には、手から口にウイルスを運んでしまうことで主な感染が起こることになりますので、まず第一には手洗いが有効です。
マスクの予防効果については、明確なエビデンスはないとされるものの、むやみに口を手で触らないための防御としては使うことができます。
また、集団感染(クラスター感染)を避けるためには、通気性の悪い密室で密集、密接しないことも大切です。
3-6.バリアを壊さず洗い流すには
ウイルスに効かない「殺菌」効果のある石鹸を使うと、常在細菌バリアを洗い流してしまうことになりかねず、常在細菌との共生を日頃から提唱する私としてはお勧めしたくありません。
また、アルコールなどで消毒する行為は、病原性のウイルスを消滅させるためには有効とはいえ、ウイルスだけでなく常在細菌バリアにもダメージを与えていることを念頭に入れておいて頂きたいのです。
ただし、一定時間置いておくことで、毛穴の中に残った常在細菌がたくましく復活して再度バリアを作ることができるのですが、今のように数時間おきに消毒することで回復の余地がなくなります。
さらに、手洗いや乾燥によって、表皮バリアである角質が傷んでしまうと、そこに汚れや微生物などがつきやすくなる上に、常在細菌のバランスが崩れてしまいます。
外出時にウイルスが付着しそうな場所を触った後で食事をする際に、手が洗えないシーンでは、やむなくアルコールなどで消毒することは感染防御の観点から必要かも知れません。
また、最近では、消毒をしないと入ることができない公共の施設などもあります。
感染拡大を防止するという観点から、これはやむない対策と言えます。
ただし、日常的に行うとしたら、十分な水洗いか殺菌効果のない石鹸での手洗いでウイルスを洗い流しながら、常在菌バリアへのダメージを最小限にする方法をお勧めしたいと思います。
家などのウイルスと接しない環境にいるのに、アルコール消毒を常用するなどはやり過ぎです。
環境の消毒についても、複数の人が往来する公共の場やドアノブや洗面周りなどウイルスが付着している可能性がある場所を消毒することは、感染防止の観点から現状はやむない対応と言えます。
家に感染者がいない状況で、家中を消毒して回ってもウイルス対策にはならない上に、環境に常在する有用な共生者を失うことになります。
環境の有用菌や常在細菌叢と触れ合うことは、人の健康を維持する為にもとても大切と考えられています。
新型コロナウイルスの襲来で、にわかに「ウイルスへの恐怖」「微生物への恐怖」が人の心に感染している今ですが、改めて、ウイルスや細菌と共に生きることを見直してみたいと思います。
天気の良い日は、通気性の良い屋外での散歩やランニングなどの運動で、積極的にストレス解消をしていくのも良いでしょう。
もちろん、外出が禁止にならない限りです。
新型コロナウイルスとの生活は、今後も続くと考えると、自分の免疫力や常在細菌バリアの防御力を生かし、萎縮し過ぎずに暮らしていきたいですね。
※新型コロナウイルス についての情報は、日々アップデートされています。
詳しい最新情報や対処法などは、厚生労働省のHPをご参照下さい。
この記事の執筆は 医師 桐村里紗先生

桐村 里紗
総合監修医
・内科医・認定産業医
・tenrai株式会社代表取締役医師
・東京大学大学院工学系研究科 バイオエンジニアリング専攻 道徳感情数理工学講座 共同研究員
・日本内科学会・日本糖尿病学会・日本抗加齢医学会所属
愛媛大学医学部医学科卒。
皮膚科、糖尿病代謝内分泌科を経て、生活習慣病から在宅医療、分子整合栄養療法やバイオロジカル医療、常在細菌学などを用いた予防医療、女性外来まで幅広く診療経験を積む。
監修した企業での健康プロジェクトは、第1回健康科学ビジネスベストセレクションズ受賞(健康科学ビジネス推進機構)。
現在は、執筆、メディア、講演活動などでヘルスケア情報発信やプロダクト監修を行っている。
フジテレビ「ホンマでっか!?TV」には腸内環境評論家として出演。その他「とくダネ!」などメディア出演多数。
- 新刊『腸と森の「土」を育てるーー微生物が健康にする人と環境』(光文社新書)』
- tenrai株式会社
- 桐村 里紗の記事一覧
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著作・監修一覧
- ・新刊『腸と森の「土」を育てるーー微生物が健康にする人と環境』(光文社新書)
- ・『日本人はなぜ臭いと言われるのか~体臭と口臭の科学』(光文社新書)
- ・「美女のステージ」 (光文社・美人時間ブック)
- ・「30代からのシンプル・ダイエット」(マガジンハウス)
- ・「解抗免力」(講談社)
- ・「冷え性ガールのあたため毎日」(泰文堂)
ほか