女性の頭皮のニオイ対策に毎日シャンプーは必要か?【ニオイ評論家解説】
皆さま、こんにちは。
医師で予防医療のスペシャリスト・桐村里紗です。
頭のニオイと言えば、世の奥様方が嫌悪するご主人のニオイNo.1「枕臭」を連想されるかも知れませんが、自分はどうでしょう?
実際には、女性にも発生している頭皮のニオイですが、特に更年期はホットフラッシュの影響で頭の蒸れが気になります。
そのための対策はどうしたら良いのでしょうか?
そもそも、そのために毎日シャンプーをするべきでしょうか?
今日は、女性の頭皮のニオイのお悩みと解決の方法を、歴史とともに紐解いてみたいと思います。
1.そもそも頭のニオイはなぜ発生する?
そもそも、頭のニオイは、なぜ発生するのでしょうか?
頭は、頭皮に覆われていますから、高温多湿です。
頭には、汗を分泌する汗腺、それから皮脂を分泌する皮脂腺の両方が備わっていますから、簡単に蒸れて、汗と皮脂の混合臭が発生します。
1-1.実は女性にも枕臭の原因「ミドル脂臭」
株式会社マンダムが発見したのが、「ミドル脂臭」と呼ばれる、枕臭の原因です。
汗の中の乳酸が、常在菌の働きで「ジアセチル」という物質になり、これと皮脂の中の中鎖脂肪酸が合体して、独特の脂臭いニオイになります。
「男性特有」とされるものの、実際に測定すると女性にもミドル脂臭の素となる「ジアセチル」が発生しているのです。
特に、40代をピークに、50代くらいまで多く発生します。
1-2.更年期、ホットフラッシュで頭が蒸れる
更年期には、ホットフラッシュの影響で、頭を中心にどっと汗が出ます。
この汗は、汗自体がニオイやすいベタベタ汗でありアンモニア成分を含みやすくなります。
「汗のニオイが変化した」と悩む更年期女性は多くいらっしゃいます。
主に、汗によるニオイが中心ですが、二次的に皮脂と併わさって独特の頭皮臭の原因になります。
こうなると、毎日シャンプーで洗いたくなりますし、どっと汗をかくと1日1回と言わず、朝に晩にシャンプーで洗う方もおられます。
ただし、洗い過ぎると逆効果になりうるのが悩みどころで、適度が良いのですが、この適度とはどんな塩梅なのでしょう?
洗髪の歴史とともに考えてみましょう。
2.頭は毎日洗うべきか議論
しばらく放置すると発生する頭皮のニオイは、男女ともに悩みの種です。
枕臭であれば家庭内の問題ですみますが、外出先で「周りの人に気づかれないかな?」と不安になってしまうものです。
本来、誰にでも発生するものですし、「気にしないで!」と言いたいところですが、清潔嗜好が強い現代日本では、そうもいきませんね。
2-1.毎日シャンプー習慣は1990年代半ばから
今や、毎日のシャンプー習慣は当たり前で、「シャンプーは毎日しなければならない」と考えている人が多い令和の日本ですが、実は、これは、1990年代半ばからだということをご存知でしょうか?
花王の調査によると、驚きます。
平安時代 | 年1回ほど |
江戸時代 | 月1〜2回(最も高頻度な江戸の女性) |
昭和戦後 | 月1〜2回 |
昭和30年頃 | 5日に1回 |
1980年代 | 週2〜3回 |
1990年代半ば | ほぼ毎日(10-20代女性) |
2015年 | ほぼ毎日(10-50代女性) |
1.古来、髪は洗うものではなく、とかすもの
平安時代には、年1回しか髪を洗わない!
平安絵巻に出てくる様なロングヘアであれば毎日洗うのはそれはそれは大変でしょうが、年1回とは驚きです。
江戸時代であっても、結った髪を解いて髪を洗うのは、最もお洒落に気を遣っていた江戸の女性でも月1回〜2回がせいぜいだったのですね。
平安時代に洗髪に使われたのは、米のとぎ汁で、1日がかりで髪を洗って乾かしていたそうです。
この頃は日常的には、髪を洗うのではなく、クシでとかすことで、汚れを取り除き、頭皮から出る皮脂をクシで髪に拡げることで、頭皮の上で皮脂が脂肪酸に変化してニオイの原因になることを抑えていたとされています。
ただし、完全にはニオイが消えないため、香や香油などを使って香りをカムフラージュする方法が使われていました。
2.メーカー主導で作られた洗髪習慣
昭和の時代になり、庶民が銭湯ではなく、自分の家に家風呂を持つ様になってから、洗髪の頻度が上がったとされていますが、私が生まれた1980年代までは、まだ全国的には、週2〜3回が一般的だったのですね。
1983年の花王のCMで、まだ幼さの残る中森明菜さんの「信じられる?ティーンの2人に1人は、毎日シャンプーしてるって!」というセリフがあります。
私自身は1980年生まれですが、小学校の頃、東京の中心部に引っ越した際、周りの友人たちはすでに毎日洗髪をしていたのですが、我が家では戦後生まれの母親のルールによって数日に1回だったため、やや恥ずかしい思いをしたものです。
そのうち、「朝シャン」という言葉が生まれるなどして、毎日のシャンプー習慣は、シャンプーのメーカー主導で作られていきました。
2-2.洗浄力高過ぎが問題になる現代
さて、とかすことが主流でほとんど洗うことがなかった昔に比べて、洗髪が当たり前になった現代。
フケや痒みなどの頭皮のトラブルやニオイは随分と減りました。
同時に、シャンプーは改良され、米のとぎ汁で洗髪していた頃に比べて、現代では随分とシャンプーの洗浄力は高くなりました。
ところが、そこで問題になるのは、高過ぎる洗浄力です。
シャンプーも成分によって種類があり、洗浄力が違いますから、使い分けがよろしいかと思います。
1.シャンプーの分類と洗浄力の違い
シャンプーには、主に3種類あります。
1.高級アルコール系シャンプー
2.石鹸系シャンプー
3.アミノ酸系シャンプー
です。
1.高級アルコール系シャンプー
多くの市販のシャンプーは、高級アルコール系シャンプーです。
洗浄成分として、「ラウリル硫酸」「ラウレス硫酸」などの合成界面活性剤が入っているために、洗浄力、脱脂力が非常に高く、洗い上がりがスッキリとはするものの、使い過ぎると皮脂を取り過ぎて、乾燥の原因になります。
乾燥を招くと、痒みの原因になったり、逆に皮脂を増やしてしまうこともあり、注意が必要です。
2.石鹸系シャンプー
石鹸系シャンプーは、成分がアルカリ性です。
そのため、中和するために、酢酸などの酸が含まれたリンスと必ずセットで使う必要があります。
こちらも、皮脂を取りすぎる可能性がありますので、乾燥しやすい人にはあまりお勧めができません。
3.アミノ酸系シャンプー
最もマイルドに洗浄できるのは、アミノ酸系シャンプーです。
価格的には、一番お高いのが、こちらです。
合成界面活性剤よりも刺激が少ないアミノ酸を使っているもので、成分表示を確認すると「タウリン」「グルタミン」「アラニン」「サルコシン」などアミノ酸の名前があります。
「アミノ酸配合」と書いてあっても、合成界面活性剤「ラウリル硫酸」「ラウレス硫酸」を含むものもあるため、注意が必要です。
2.実際にシャンプーするならば?
研究では、頭皮の脂は、洗髪後24時間で元通りに回復することがわかっています。
そのため、洗髪をするならば、1日1回でも良いのですが、毎度毎度、洗浄力が高い高級アルコール系シャンプーを使ってしまうと、皮脂がとれ過ぎて乾燥を招いたり、逆に皮膚を守ろうとして皮脂が増える場合もありますし、さらに悪化すると脂漏性湿疹という湿疹を引き起こし、フケと脂で頭がベタベタになってしまうこともあります。
お勧めの方法は、以下です。
1.ヘアワックスやムースなどをつける人
ヘアワックスやムースなどを髪につける人は、アミノ酸系シャンプーだけでは落ちない場合があります。この場合は、高級アルコール系シャンプーか石鹸系シャンプーを使い、しっかり洗い流すことがベターでしょう。
ただし、せめて1日1回にすること。
1回の洗髪で2度洗いする際は、1回目は洗浄力の高いシャンプーでワックス剤などを落とし、2回目にはアミノ酸系シャンプーに切り替えて皮脂を守りましょう。
頭皮が乾燥している人は、ヘアワックスなどの使用を控えて、洗浄力の高いシャンプーを使わないようにする方が無難です。
また、最近では、頭皮の乾燥予防に使えるトリートメントや頭皮用乳液などもありますので、これらを併用してもいいですね。
2.ヘアワックスやムースなどを使わない人
この場合は、アミノ酸系シャンプーを使用することをお勧めします。
さらに、あまり頭が脂っぽくないな、と思われたら、毎日シャンプーする必要はありません。
私の場合は、夏場は毎日、アミノ酸系シャンプーで洗髪をしますが、あまり汗をかかない冬場には洗髪を1日おきにしています。
運動をして汗をかく場合には、冬場でも毎日洗髪はしますが、頭皮がベタベタしない場合には、「湯シャン」のみにしています。
3.湯シャンも併用する
湯シャンとは、シャンプーを使わずにお湯のみで洗髪をすることです。
頭がベタベタしない日に取り入れてみるといいと思います。
40度程度のお湯には、皮脂を流す効果がありますから、無理にシャンプーを使わなくても適度に皮脂が流れ落ちます。
上級テクとしては、完全に湯シャンのみにすると、皮脂の分泌が適正になり、頭皮のpHが弱酸性に維持され、常在菌のバランスも保たれます。
自分の適度な皮脂で髪が潤うため、まとまりも良くなります。
皮脂の分泌が適正化されるため、ニオイも気にならなくなるのです。
4.ホットフラッシュが気になる場合
ホットフラッシュが気になる更年期世代も、毎日シャンプーを使って洗髪する必要はありません。
ホットフラッシュは、主に汗が原因になり、皮脂は二次的なものです。
シャンプーを使わなくとも汗は落ちますから、湯シャンだけでも十分です。
ホットフラッシュで頭が蒸れてしまうからと、1日に何度も洗浄力の高いシャンプーで洗髪すると、皮脂を落とし過ぎてしまう可能性があります。
もし、シャンプーを使いたい場合は、アミノ酸系シャンプーを1日1回として、後は湯シャンにしてみることをお勧めします。
3.結論として毎日洗わなくても良い
結論として、「毎日洗わなければならない」ということは、決してありません。
そして、「洗髪の際には必ずシャンプーを使わなければならない」というわけでもありません。
自分の頭皮の状態に応じて、回数やシャンプーの種類、また是非は、人それぞれです。
私自身、季節によっては毎日洗髪はしませんが、頭に鼻をくっつけてクンクンするでもしない限りは、周囲に感じられるほどの頭臭は発生していません。
自分の体臭や口臭は、鼻が慣れてしまって感じることが難しいものですが、頭臭の場合には、常に嗅いでいるわけではありませんから、周囲が気づくほどの状態になると、自分でも感じられます。
自己管理が可能ですので、自分が心地よいと感じる頻度と方法を選択すれば良いのではないでしょうか?
この記事の執筆は 医師 桐村里紗先生

桐村 里紗
総合監修医
・内科医・認定産業医
・tenrai株式会社代表取締役医師
・東京大学大学院工学系研究科 バイオエンジニアリング専攻 道徳感情数理工学講座 共同研究員
・日本内科学会・日本糖尿病学会・日本抗加齢医学会所属
愛媛大学医学部医学科卒。
皮膚科、糖尿病代謝内分泌科を経て、生活習慣病から在宅医療、分子整合栄養療法やバイオロジカル医療、常在細菌学などを用いた予防医療、女性外来まで幅広く診療経験を積む。
監修した企業での健康プロジェクトは、第1回健康科学ビジネスベストセレクションズ受賞(健康科学ビジネス推進機構)。
現在は、執筆、メディア、講演活動などでヘルスケア情報発信やプロダクト監修を行っている。
フジテレビ「ホンマでっか!?TV」には腸内環境評論家として出演。その他「とくダネ!」などメディア出演多数。
- 新刊『腸と森の「土」を育てるーー微生物が健康にする人と環境』(光文社新書)』
- tenrai株式会社
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著作・監修一覧
- ・新刊『腸と森の「土」を育てるーー微生物が健康にする人と環境』(光文社新書)
- ・『日本人はなぜ臭いと言われるのか~体臭と口臭の科学』(光文社新書)
- ・「美女のステージ」 (光文社・美人時間ブック)
- ・「30代からのシンプル・ダイエット」(マガジンハウス)
- ・「解抗免力」(講談社)
- ・「冷え性ガールのあたため毎日」(泰文堂)
ほか