皆さま、こんにちは。
医師で予防スペシャリストの桐村里紗です。

新著『腸と森の「土」を育てるーー微生物が健康にする人と環境』(光文社新書) がご好評をいただいております。

『腸と森の「土」を育てるーー微生物が健康にする人と環境』

https://amzn.to/3iOpEY2

今日は、腸の機能にも関わる睡眠の話です。

世界一睡眠不足な国民とされる日本人。
ですが、短時間睡眠でも健康を保つことができる「ショートスリーパー」に憧れて、それを目指してはいけません。

睡眠負債が蓄積して心身を壊してしまうかも。

1.ショートスリーパーを目指すな

ショートスリーパー 枕と時計

普段から、家事や育児、仕事に追われて、短時間睡眠に慣れている方は多いかも知れません。

掃除洗濯などを片付けながら、zoomミーティングの予定をこなす生活の中に、同じく在宅ワークになった家族や夏休み中の子供の食事作りやお世話などが加わるとあっという間に夕方です。

夕方になるとまた夕食準備、子供を寝かしつけて、明日が締め切りの仕事に手をつけ、ようやく一息ついたと思ったら、あっという間に12時前。

あら早く寝なくちゃと思いながら、スマホを開いてSNSをみてしまえば、あっという間に深夜も過ぎてしまいます。

短時間睡眠でもいろいろこなしている内に、「あら?私って、ショートスリーパー?」と思っているなら、大半は勘違いと思いましょう。

その睡眠負債は蓄積して、心身のダメージにつながります。

2.世界一の睡眠不足「日本人」

睡眠不足で居眠りをする女性

2018年のOECDの報告で、日本人の睡眠時間が7時間22分と加盟国中で最も短かったことは有名な話です。
しかし、2020年、フランスのWithingsというスマート睡眠デバイスを販売する企業が14か国を調査したところ、日本人の平均睡眠時間は、6時間22分19秒とさらに短く、やはり、調査した国の中で最も睡眠時間が少ないという結果でした。

世界平均は、7時間8分45秒で、アメリカやヨーロッパ諸国はこれ以上。
これ以下なのは、中国と日本だけで、中国は6時間32分23秒で下から二番目でした。

睡眠時間が最も長かったのは、ベルギーで、7時間24分14秒でした。

「社会人であれば6時間取ればいい方」と考える人が多いようですが、世界平均から考えても不足していますし、多くの人にとっては睡眠が足りません。

3.国民の4割は6時間未満

令和元年の厚生労働省による「国民健康・栄養調査」によると、男性の37.5%、女性の40.6%は6時間未満の睡眠時間でした。
また、睡眠の質に満足できていない人は男性21.6%、女性22.0%でした。

「慣れてるから大丈夫」と思っていても、睡眠負債が蓄積すると、本来の自分のパフォーマンスよりも随分と低下している可能性があります。

4.短時間睡眠の心身へのデメリット

睡眠不足の悪影響 うつ

大規模な調査でも、短時間睡眠によって、死亡リスクの増加や糖代謝、高血圧、脂質異常症肥満などの生活習慣病、交感神経系や免疫系への影響があることが示唆されています。

不眠ともなると、うつ病も合併しやすくなります。
睡眠ホルモン・メラトニンの原料は、うつ病を抑制する神経伝達物質・セロトニンですから、これらは常に関連しています。

※J.Natl.Inst.Public Health,61(1):2012

また、脳機能にも影響します。
脳の前頭葉の機能が低下するという研究がありますが、この領域は、意欲や感情の制御、集中力や注意力・判断力などに関わる高度な脳機能に関わります。

※PLoS One. 2010 Feb 5;5(2):e9087.

睡眠不足で、ちょっとしたことでイライラしたり、ケアレスミスが増えるなど、経験があると思います。

5.睡眠のサイクル

睡眠サイクルのイメージ

私たちの睡眠と覚醒は、体内時計による1日のリズム・サーカディアンリズムと、 時刻に関係なく覚醒時間の長さによって量と質が決まるホメオスターシス・恒常性維持機能によって、制御されています。

睡眠は、覚醒→深いノンレム睡眠(4段階の深さ)→浅いレム睡眠を1 サイクル(約 90 分)としています。
このサイクルには個人差があり、一般的には90分とされていますが、長い人は110分など、揺らぎがあります。

これを1晩のうちに3~6サイクル繰り返します。
これらが人の最適な睡眠時間の違いにもなっています。

6.睡眠に影響を与える要因

睡眠に影響を与えるスマホ

年齢と共に、睡眠の質は悪く、浅く、短くなっていくのが一般的です。

年齢以外では、うつ病などの精神疾患、痛みなどの症状で睡眠を妨げる身体疾患、睡眠時無呼吸症候群、睡眠を妨げる働きがある服薬や、代謝物が覚醒を促すアルコールの摂取、運動不足や生活スタイル、環境的ストレスなどが影響を与えます。

先の「国民健康・栄養調査」によると、睡眠確保の妨げとなる要因として、「就寝前に携帯電話、メール、ゲームなどに熱中すること」を挙げた人が、男性20代 43.2%、女性では20代 42.7%であり、若い世代でスマホやゲームなどに夢中になっている人が多く、男性では「仕事」を挙げた人が、30代 42.1%、40代 38.8%、50代 35.9%と多く、女性では「育児」を挙げた人が、30代で30.9%と多く、「家事」を挙げた人が、30代 23.5%、40代 28.8%と多かったとされています。

7.ショートスリーパーの定義は?

こうした理由で、睡眠が確保できなかったとしても、ショートスリーパーにはなれません。

ショートスリーパーに統一的な定義はないものの、短時間の睡眠が持続しても健康に問題なく元気でいられる人のことを言います(睡眠時間6時間未満であったり、5時間未満であったり、定義は曖昧です)。
週末に寝溜めや夜間に短時間睡眠で日中にうたた寝などをして、トータルの睡眠時間を稼いでいる場合は除外されます。

睡眠不足で居眠りをする女性

睡眠障害の国際基準において、ショートスリーパーは「正常範囲だが異型」な睡眠パターンとされています。「異型」とは、病気ではなく、一般的基準内には収まらないという意味です。健康であるため、病気ではないのです。

8.ショートスリーパーの遺伝子が見つかった

ショートスリーパーの定義が曖昧なだけに、実際にどれだけの人が真のショートスリーパーであるかははっきりしませんが、全体の1%未満しかいないだろうと考えられています。

2018年のカリフォルニア大学の研究で、ADRB1:β1-adrenergic receptor geneという遺伝子に突然変異が生じると、家系的にかなりの確率でショートスリーパーになることが明らかになりました。

常染色体優性遺伝という遺伝形式で、男女関係なく、50%の確率で遺伝しますので、家系的にショートスリーパーが生まれやすいということになります。

※Neuron.2019 Sep 25;103(6):1044-1055.e7

ショートスリーパー遺伝子

家系的にショートスリーパーが多い場合、この遺伝子変異を持っている可能性もありますが、そうでない場合は、本来は十分な睡眠時間が必要なのに無理をしているということになるでしょう。

ショートスリーパーの場合は、短時間の睡眠の中でも、深い眠りであるノンレム睡眠の時間をしっかり確保できることがわかっています。

逆に、極めて長くの睡眠時間が必要なロングスリーパーは、浅い眠りであるレム睡眠の時間が長いとされています。

いかに、深い眠りを作れるかが、その人の質の良い睡眠時間を決定すると言えるかもしれません。

9.睡眠の質を高めるコツ

睡眠の質を高める アロマとハーブティ

睡眠のサイクルは、睡眠時間によっても違いがあります。
入眠時には、ノンレム睡眠は深く、明け方には浅く。
またレム睡眠は、明け方になると長くなるのが一般的です。

身体を修復し、疲労を回復する成長ホルモンは、最初の入眠の深いノンレム睡眠の時間帯に分泌されています。
入眠時の睡眠の質を良くすることで、ぐっすりと眠ったという体感が得られます。

私は、赤ちゃんの頃から眠ることが下手ですが、睡眠を7時間以上とらないと翌日から動けなくなるという厄介なタイプです。
そのため、かなり睡眠には繊細に気を遣っており、以下を心がけています。

・スマホやPCは夕食後には開かない
・寝室にはスマホを持ち込まない
・メガネやフィルムで覚醒を促すブルーライトを遮断する
・入浴は寝る1時間以上前にすませて、深部体温が下がる頃に眠る
・スリープテック・睡眠誘導音楽を活用する

特に、最近は、深海の鯨の歌(鯨の鳴き声)による睡眠誘導音楽を、骨伝導スピーカーを内蔵した睡眠用まくらに接続して聴いています。

静寂な深海に荘厳な鯨の歌が聴こえると、昂っていた神経がグッと落ち着いて、よく眠れます。人によっては、鯨の歌は怖いそうですが、私はこれが落ち着きます。

最近では、アプリと連動したスリープテックグッズが色々ありますので、自分に合ったものを見つけてみると良いと思います。

こちらの記事もご参照ください。

▼【医師が解説】“良質な睡眠”をつくるために毎日やるべき習慣・やめるべき習慣

https://wellmethod.jp/sleep_hormones

この記事の執筆は 医師 桐村里紗先生

【医師/総合監修医】桐村 里紗
医師

桐村 里紗

総合監修医

・内科医・認定産業医
・tenrai株式会社代表取締役医師
・東京大学大学院工学系研究科 バイオエンジニアリング専攻 道徳感情数理工学講座 共同研究員
・日本内科学会・日本糖尿病学会・日本抗加齢医学会所属

愛媛大学医学部医学科卒。
皮膚科、糖尿病代謝内分泌科を経て、生活習慣病から在宅医療、分子整合栄養療法やバイオロジカル医療、常在細菌学などを用いた予防医療、女性外来まで幅広く診療経験を積む。
監修した企業での健康プロジェクトは、第1回健康科学ビジネスベストセレクションズ受賞(健康科学ビジネス推進機構)。
現在は、執筆、メディア、講演活動などでヘルスケア情報発信やプロダクト監修を行っている。
フジテレビ「ホンマでっか!?TV」には腸内環境評論家として出演。その他「とくダネ!」などメディア出演多数。

続きを見る

著作・監修一覧

  • ・新刊『腸と森の「土」を育てるーー微生物が健康にする人と環境』(光文社新書)
  • ・『日本人はなぜ臭いと言われるのか~体臭と口臭の科学』(光文社新書)
  • ・「美女のステージ」 (光文社・美人時間ブック)
  • ・「30代からのシンプル・ダイエット」(マガジンハウス)
  • ・「解抗免力」(講談社)
  • ・「冷え性ガールのあたため毎日」(泰文堂)

ほか