皆さま、こんにちは。
医師で予防医療のスペシャリスト・桐村里紗です。

腸活は、万人に良いはずなのですが、逆に、腸に良いはずの食事を食べて、お腹が張って苦しくなる人はいませんか?

お腹がすぐにガス腹になって苦しい、胃酸が逆流する、ゲップが出る、下痢をする、食べても体重が増えないなどの症状が日常的にある人は、要注意かも知れません。
「私ってお腹が弱いから」と、体質として片付けてしまいがちですが、最近、こうした症状がある人の中に「小腸内異常増殖症候群(SIBO:シーボ)」と呼ばれる病態があることが分かってきました。

かなり日常的に起こりうる、このSIBO。
腸活に良いはずのシンバイオティクス食品を食べると逆に悪化してしまう困った病気で、特殊な治療食が必要になります。

緊張するとお腹を下したり便秘になったりしやすい「過敏性腸症候群」の人では、SIBOを合併している人が多いことも指摘されています。

SIBOの症状や原因、その診断や治療法についてお伝えします。

1. 小腸内異常増殖症候群:SIBO(シーボ)とは?

小腸

1-1. 小腸内で腸内細菌が異常繁殖

SIBOとは、小腸の中で異常な数、そして異常な種類の腸内細菌が増える病態です。

「あら?腸の中には細菌だらけがいいのじゃ無いの?」と疑問に思われるかも知れません。

「腸内細菌」は、腸内に生息する常在細菌の総称ですが、まず、理解しなければならないのは、「腸」と一言で言っても、「小腸」と「大腸」は全く環境が違い、主に暮らしている細菌の種類や数が全く違うことです。

口から肛門まで、ひと続きになっている消化管ですが、口に近ければ近いほど、酸素が多い環境。肛門に近ければ近いほど、酸素が少なく、最終的にはほぼ真空状態になります。

小腸は、少々酸素が残っているので、乳酸菌などの酸素があっても繁殖できる腸内細菌が主に生息しています。

小腸全体では、腸内細菌は、約1兆個。

一方で、大腸になると酸素がない環境です。酸素があると生きられない腸内細菌が生息しています。この代表が、ビフィズス菌や酪酸菌などです。

大腸全体では、腸内細菌は、約100兆個とされています。

大腸と違い、小腸では通常、内容物の急速な流れと胆汁の存在により、細菌が比較的少なくなります。
SIBOでは、小腸の動きが停滞し、本来大腸で生息するはずの腸内細菌が迫り上がって来るなどして、小腸の中で異常に増殖してしまいます。

小腸内で異常増殖した大腸にいるべき細菌が、栄養素の吸収を妨害し、ガスを発生することで、SIBOの症状を引き起こします。

1-2. SIBOの症状とは?

吐き気

SIBOにおいては、主に消化器系の不調が起こります。

・常にある、もしくは食後の腹部の膨満感
・腹痛
・吐き気やゲップ、胃酸逆流
・下痢
・意図しない体重減少
・栄養失調
・食欲不振
・慢性的な疲労感
・肌荒れなど皮膚トラブル

典型的には、ガスでお腹が張りやすく、常に苦しい人で、特に、健康に良いはずのシンバイオティクス食品(発酵食品や食物繊維など腸内で発酵する食品)を食べることで、これらの症状が悪化する人は、疑ってみる必要があります。

1-3. ガス腹で苦しいのにおならが出せない

腸活の場合、腸内細菌のエサであるプレバイオティクス食品(食物繊維やオリゴ糖、難消化性デンプンなど)をしっかり摂取することをお勧めします。

この時の「腸内細菌」とは、「大腸」の腸内細菌を意味しています。

人の栄養素は、小腸までに消化され、吸収されますが、この関門を通り抜けて、大腸まで未消化で届くことで、大腸の腸内細菌のエサとなるのが、プレバイオティクス食品です。

大腸の腸内細菌が、プレバイオティクス食品を食べて、排泄物として短鎖脂肪酸など、人に有益な腸内代謝物を生み出すのと同時に、水素ガスやメタンガスなど、おならの素となるガスを生み出します。

大腸であれば、肛門と近いので、おならとして排ガスされます。

これは、正常な状態ですが、SIBOの場合は、これが大腸の手前である小腸で起こります。
出口である肛門まではかなりの距離があり、なかなかおならとして排ガスができないので、ガス腹に苦しむことになります。
小腸は、お腹の中心部に位置しており、おへそ周りがガスでぽっこりします。

このように典型症状があれば分かりやすいのですが、SIBOは、無症状であることも多い上に、「元々お腹が弱いから」「体質だから」と、本人に病識がないこともあり、これまで見過ごされがちでした。

1-4. SIBOが進行すると栄養欠乏になる

寝込む女性

SIBOが進行すると、栄養欠乏による症状が起きるようになります。

1. 三大栄養素の欠乏

小腸は、人が栄養素を吸収する場所です。その場所に細菌が増えることで、消化が阻害され、細菌が栄養素を奪い、脂肪、炭水化物、タンパク質の吸収不良が起こるようになります。

脂肪を消化するために必要な胆汁酸が細菌に分解されると、脂肪が消化されず、下痢をもたらします。細菌の異常な増殖や毒素の分泌により、小腸の粘膜が傷つき、炎症を起こすと、炭水化物やタンパク質の吸収が低下します。

2. ビタミンの欠乏

脂肪の吸収が上手くいかなくなると、体に必要な脂溶性ビタミンである、ビタミンA、D、E、Kを上手に吸収することができなくなります。

粘膜や皮膚の異常、免疫機能の低下、低カルシウム血症、代謝性骨疾患などの原因になります。

小腸内細菌がビタミンB12を食べてしまうと、B-12欠乏症を引き起こします。神経系の維持や赤血球の合成に不可欠なので、痺れや痛みなど多発性の神経障害、精神的不調、貧血などの原因になります。

3. ミネラルの欠乏

不眠

腸の損傷により、ミネラル類の吸収が阻害されると、鉄欠乏性貧血や骨粗しょう症などにつながる可能性があります。
ミネラル類は、体のあらゆる代謝に不可欠なので、老化、疲労感、精神的な不調、不眠などの原因にもなります。

1-5. SIBOの原因は?

SIBOは、小腸内で異常な種類の細菌が異常な数増えてしまう病態ですが、その原因は、様々です。

小腸内の正常な腸内細菌とそのバランスを維持するために、体に備わっている働きとして、胃酸の分泌や消化液の正常な分泌、腸管の運動などがあります。

これらが働かなくなることは、いずれも原因になります。

1. 日常的な原因

ストレスを抱える女性

・ストレス
・暴飲暴食

ストレスによって、胃腸を正常に動かす副交感神経の働きが低下したり、消化力を超えるほどの食べ物を日常的に腸内に溢れさせることにより、小腸内の動きが停滞して、細菌のアンバランスが起きます。

2. 手術や基礎疾患

・胃切除など消化管を短縮する手術
・慢性胃炎などによる胃酸分泌の低下
・腹膜炎、憩室炎や術後の腸の癒着
・大腸と小腸を隔てる回盲弁の障害
  虫垂炎、クローン病や潰瘍性大腸炎、繰り返す腸閉塞などに伴う
  大腸から小腸への逆流の原因に
・小腸内やその周辺の構造上の問題
・慢性膵炎などによる消化液の低下
・その他の腸の基礎疾患
  放射線腸炎、強皮症、セリアック病、重症糖尿病の自律神経障害など
・過敏性腸症候群
・食中毒など感染性胃腸炎後

胃腸炎を起こす細菌(カンピロバクターやサルモネラなど)は、外毒素を分泌します。
胃腸炎を起こした後に、お腹が張りやすくなったり、下痢症状が続いたりする場合は、引き続いてSIBOを起こしている可能性があります。

▼感染症胃腸炎になった時の対処法・予防法

https://wellmethod.jp/infectious_disease_gastroenteritis/

夏季に多い集団食中毒。感染性胃腸炎になった時の対処法・予防法

3. 薬剤性

これらの薬剤は、腸内細菌のバランスを崩すことが知られています。

・制酸剤(プロトンポンプ阻害剤など強力に胃酸を抑える胃薬)
・抗生物質
・ステロイド
・ピル

特に、胃酸は、腸内に口から入ってくる様々な細菌を殺菌して、腸内細菌を守る働きがあります。
これを抑制することで、口の中にある歯周病菌など、本来腸内にいてはならない細菌が入り込むスキを与えることになってしまいます。

1-6. SIBOの罹患率は?

SIBOは、まだ十分に認知されていない病態なので、一般的にどれくらいの罹患率があるかは明らかになっていません。

過敏性腸症候群の診断基準を満たす人では、研究によって違いますが、30%-85%の罹患率と報告されています。

また、病的な肥満者では、17%であり、肥満でない人の2.5%と比較して明らかに多かったという研究もあります。

基礎疾患を持つ人に合併していることも多く、実は、日常的な病態だと考えられています。

1-7. SIBOの診断方法は?

検査

1. 血液検査の所見

血液検査では、栄養欠乏に伴う所見として、貧血やビタミンB12の低下、低アルブミン血症などがみられることがあります。

2. SIBO呼気試験

体への負担がなく実施できるのは、呼気試験です。
腸内で発生した水素やメタンなどのガスは、血流に乗って肺からも排気されます。
これを利用して、ブドウ糖やラクチュロースなどの糖分を飲んだ後に、呼気を調べるのが、この検査です。

小腸や大腸にこれらの糖が到達すると、水素やメタンなどのガスが呼気から検出されます。小腸に到達した時点で、これらのガスが一定の数値以上に高まると、SIBOの可能性があると判断されます。

ただし、この方法は、確定的でなく、間接的な診断になります。
国際的に判断の基準についての統一的な見解がまだないものの、体への負担がないため、日本では一番一般的に採用されています。

3. 内視鏡による小腸吸引液の培養

腸内細菌異常増殖症候群の直接的な診断方法は、内視鏡を使い、腸吸引液を培養して、細菌数をカウントする方法です。
細菌数が105/mLを上回る場合に、SIBOと判断するのが一般的です。

ただし、体に負担があることや腸内全般についての様子がわからないことから、あまり一般的には行われていません。

SIBOを扱う医師は、検査結果だけでなく、臨床症状やライフスタイルなど総合的な所見を踏まえて診断を行います。
気になる症状がある場合は、SIBOを扱う消化器科に相談してみましょう。

2. SIBOの治療と食事療法

食事療法

SIBOの治療は、基礎疾患など原因に合わせて、個別化な対応がまず必要になります。
その上で、SIBOの病態に対する治療と食事法があります。

・食事療法(低FODMAP食)
・薬剤治療:抗生物質、消化管運動促進薬
・抗菌性ハーブ類
・プロバイオティクス

2-1. SIBO治療食「低FODMAP食」

SIBOの治療食は、腸活の常識を覆します。
腸内細菌のエサである、プレバイオティクス(発酵性の糖類)を含む糖類を控えなければならないからです。
低FODMAP食と言います。

FODMAP(フォドマップ)とは、発酵性(fermentable)、オリゴ糖(oligosaccharides)、二糖類(disaccharides)、単糖類(monosaccharides)、多価アルコール(polyols)のことです。

・F:発酵性:細菌のエサとなる
・O:オリゴ糖
・D:二糖類 
・M:単糖類 
・A:and
・P:ポリオール類(キシリトールなど)

これらの発酵しやすい4つの糖類を控えることで、小腸で増え過ぎた細菌を兵糧攻めにして、減らそうという食事です。

これらの糖類は、通常は、大腸まで到達することで、大腸の腸内細菌のエサとなる重要なプレバイオティクス食品を含むため、多くの人の健康に役立つものですが、SIBOの人にとっては逆効果になるので、控えざるを得ません。

  低FODMAP食 高FODMAP食
穀物など 米、蕎麦、オートミール、タピオカスターチ 小麦、小麦製品(パン、パスタ、ラーメン、うどん、素麺、10割でない蕎麦)、大麦、ライ麦など
野菜・いも・きのこ・豆 なす、人参、レタス、キャベツ、きゅうり、じゃがいも、ほうれん草、もやし、きゅうり、白菜、かぶ、大根、ズッキーニ、豆腐 豆類(大豆、レンズ豆、ひよこ豆、さやえんどうなど)、納豆アスパラガス、にんにく、キムチ、玉ねぎ、ごぼう、菊芋、カリフラワー、ピーマン、ねぎ
フルーツ バナナ、いちご、ぶどう、メロン、キウイフルーツ、オレンジ、レモンなど りんご、スイカ、桃、なし、グレープフルーツ、アボカド、柿、いちじくなど

 

基本的に、主食は米が無難です。

これらの区別は、FODMAPを多く含むかどうかなのですが、かなり難しく栄養が偏りかねません。最初は、専門家に相談しながらの実施をお勧めします。

2-2. 暴飲暴食を避ける

暴飲暴食によってSIBOを引き起こしている場合は、まず、それをやめないことには治療も難しく、簡単に再発します。

滞った腸の運動を回復するには、食事の時間を空けて、空腹時間を作ることです。

空腹になるとすぐに何かをつまみ始める人がいますが、これがSIBOを悪化させます。

特に、お腹いっぱいの状態で眠ることで、消化機能が低下しやすいため、夕食時間は就寝の3時間以上前にし、夜食を控えることです。

2-3. 薬剤治療

抗生物質は、有益な腸内細菌にもダメージを与えるため、なるべく使用を控えたいものですが、SIBOを引き起こしている細菌にターゲットを絞って使用される場合があります。

消化管から全身に吸収されず、全身に影響を与えにくい抗生物質であるリファキシミン、ネオマイシンなどが主に選択されます。

また、消化管の動きを促進する薬剤(モサプリド、漢方薬等)を併用することもあります。

2-4. 抗菌性ハーブ類

ハーブ

抗生物質は、短期的な効果が高い代わりに、その他の腸内細菌へのダメージもあるため、欧米や日本の一部のクリニックでは、自然療法として天然の抗菌作用のあるハーブ療法も行われています。

「天然の抗菌成分を含むハーブ療法には、リファキシミンと同等の効果がある」との報告もあります。

※Glob Adv Health Med. 2014 May;3(3):16-24.

生薬である黄蓮(オウレン)などにも含まれるベルベリンを含むハーブ類、オレガノ、ローズマリー、タイムなどのオイルなども使用されます。

中鎖脂肪酸オイル(MCTオイル)に含まれる脂肪酸にも抗菌作用があるので、食事療法に活用されます。

2-5. プロバイオティクスは慎重に

サプリメント

生きた有用菌を含むプロバイオティクス食品は、小腸内で細菌を増殖させる働きがあるので、SIBOの場合は避けるべき食品です。

発酵食品に含まれる乳酸菌や酵母、コウジカビなど、全般的に腸内細菌を増やす働きがあるので、SIBOがコントロールできていないうちは避けるべき食品になります。

つまり、SIBOにおいては、プロバイオティクスもプレバイオティクスもNGとなり、腸活に必須のシンバイオティクス食品を控えなければならないのです。

ある程度SIBOのコントロールがついてきた段階で、小腸内で働く乳酸菌を含むサプリメントなどの活用によってより早い腸内細菌のバランスの回復に役立つとして、プロバイオティクスのサプリメントを併用する医師もいます。

これらも、手探りで行っていくことになりますので、やはり、専門家のアドバイスを受けながらの方が無難です。

2-6. ストレスを減らす

ガーデニング

胃腸は、リラックス時に活発になる自律神経・副交感神経によって動いています。

ストレスは、副交感神経の活動を低下させる、最もパワフルな原因です。
日常的なストレスが昂じると、下痢や便秘をするのは、そのためです。

SIBOを合併しやすい過敏性腸症候群の人は、ストレスに敏感で、すぐに下痢をしたり便秘をしたりします。

ストレスを抱えやすい現代人は、努めて、リラクゼーションを意識することが大切です。

・休養や睡眠
・ゆったりした入浴
・軽い有酸素運動
・ヨガや瞑想
・愛する人やペットとの触れ合い
・好きなアロマを嗅ぐ
・歌を歌う、踊る
・海や山など自然に触れる
・土いじりをする
・スマホやパソコンから意図的に離れる

などなど、ストレスリリースの方法はたくさんありますので、自分に合う方法を選んで日常に取り入れたらいいですね。

これまで、「腸活には、シンバイオティクス 」と口すっぱくお伝えしてきましたが、それが逆効果になるのが、SIBOです。

健康に良いはずの方法が禁止されてしまうことは、かなりのデメリットですし、腸は、体の健康の土壌となる一番大切な場所ですから、いち早く治したいところです。

ちなみに、健康食に正解はなく、他人に良い健康食が、必ずしも自分に合うとは限りません。
健康に良いはずの食事をしているはずなのに、何か不調があるならば、それは自分に合っていないサインかも知れません。
自分の体の変化を観察することは、自分に合うヘルスケアを見つけるために大切な方法です。

慢性的な症状がある人は、やはり、まずはSIBOの診断を行なっている消化器内科に相談してみることをお勧めします。

全編参照:
1)”World J Gastroenterol. “2010 Jun 28; 16(24): 2978–2990.
2) Mayo Clinic “SIBO”

この記事の執筆は 医師 桐村里紗先生

【医師/総合監修医】桐村 里紗
医師

桐村 里紗

総合監修医

・内科医・認定産業医
・tenrai株式会社代表取締役医師
・東京大学大学院工学系研究科 バイオエンジニアリング専攻 道徳感情数理工学講座 共同研究員
・日本内科学会・日本糖尿病学会・日本抗加齢医学会所属

愛媛大学医学部医学科卒。
皮膚科、糖尿病代謝内分泌科を経て、生活習慣病から在宅医療、分子整合栄養療法やバイオロジカル医療、常在細菌学などを用いた予防医療、女性外来まで幅広く診療経験を積む。
監修した企業での健康プロジェクトは、第1回健康科学ビジネスベストセレクションズ受賞(健康科学ビジネス推進機構)。
現在は、執筆、メディア、講演活動などでヘルスケア情報発信やプロダクト監修を行っている。
フジテレビ「ホンマでっか!?TV」には腸内環境評論家として出演。その他「とくダネ!」などメディア出演多数。

続きを見る

著作・監修一覧

  • ・新刊『腸と森の「土」を育てるーー微生物が健康にする人と環境』(光文社新書)
  • ・『日本人はなぜ臭いと言われるのか~体臭と口臭の科学』(光文社新書)
  • ・「美女のステージ」 (光文社・美人時間ブック)
  • ・「30代からのシンプル・ダイエット」(マガジンハウス)
  • ・「解抗免力」(講談社)
  • ・「冷え性ガールのあたため毎日」(泰文堂)

ほか