こんにちは、WELLMETHODライターの和重 景です。

みなさま、全身性エリテマトーデスという病気をご存じでしょうか。

もしかすると、「なんとなく聞いたことがある」という方もいるかもしれません。

全身性エリテマトーデスとは、膠原病(こうげんびょう)とよばれる疾患の一つで、全身にさまざまな症状が現れる自己免疫疾患です。

さらに、一般的に男性よりも女性に多くみられ、とくに10代後半~40代に発症しやすい疾患です。

全身性エリテマトーデスは、現在、治療の研究がどんどん進んでいます。

場合によっては腎障害を起こし、腎不全により死に至ることもある疾患でしたが、現在では、早期診断・早期治療が可能となり、5年生存率が95%までに改善するなど、目覚ましい進歩を続けています。

しかしながら、いまだ完治する方法は明らかになっておらず、この疾患を抱え、一人で悩んでいる人も少なくありません。

この全身性エリテマトーデスとは、一体どのような病気なのでしょうか。

主である皮膚症状などの特徴的な症状は、どのようなものがあるのでしょうか。

今回はこの全身性エリテマトーデスについて、症状や治療法、病気の付き合い方について解説していきたいと思います。 

1.全身性エリテマトーデス(SLE)とは

全身性エリテマトーデス(SLE)

全身性エリテマトーデスとは、自分の体で作られた抗体が自分の臓器に対して攻撃してしまう慢性的な炎症性を起こす自己免疫疾患の一種です。

自分の体で作られた自己抗体は、皮膚や関節、腎臓や肺などのさまざまな臓器に障害を起こし、発熱、倦怠感など全身にさまざまな症状を引き起こします。

英語ではsystemic(システマティック:全身性)lupus erythematosus(ループス・エリテマトーデス:皮疹が狼に噛まれたような跡)と呼ばれ、その頭の文字をとって「SLE(エスエルイー)」と呼ばれます。

1-1.国内におけるSLE患者の推定数

国内において、令和元年SLEの特定医療受給者証を受けている人(SLEと診断されて医療費助成を受けている人)は、約61,000人であることがわかっています。

実際、医療費助成を申請していない人や医療機関を受診していない人を考えると、実際は6~10万人のSLE患者がいると推定されています。

参考)
https://www.nanbyou.or.jp/wp-content/uploads/2021/03/koufu20201.pdf

1-2.若い女性に発症しやすい

SLEの男女比は約1:9であり、15~40歳の妊娠が可能な年齢の女性に発症しやすいといわれています。

参考)
https://www.nanbyou.or.jp/wp-content/uploads/pdf/ekigaku.pdf

2.SLEの原因

現在までSLEについて世界的に研究が行われていますが、明らかな原因は解明されていません。

ただし、遺伝的因子に加えて、さまざまな環境因子により自己抗体が作られると考えられており、この自己抗体が自分自身を攻撃してしまう病気であることは明らかになっています。

3.SLEを引き起こす誘因

全身性エリテマトーデス(SLE) ウイルス

SLEはさまざまな因子がきっかけで引き起こされるとされています。

強い紫外線(海水浴・日光浴・スキーなど)、ウイルス感染・怪我・外科的手術・妊娠や出産・ある特定の薬剤を使用したときなど、きっかけがあることが知られています。

遺伝的な要因や遺伝子を修飾するエピゲノム(オンオフスイッチのようなもの)、免疫系の機能障害や性ホルモンの状態などを背景に、これらのきっかけで引き起こされると考えられています。

4.SLEでみられる症状

SLEは、全身症状やあらゆる臓器でさまざまな症状がでることが知られています。

代表的なよくみられる症状として、倦怠感などの全身症状のほか、皮膚症状や関節症状があります。

さらに、腎臓や精神神経症状も比較的多くみられる症状ですが、進行度により寿命に影響がでてくるため、きちんと対応することが大切です。

頻度は高くありませんが、肺胞出血や血管障害が発症すると生命予後に影響することがあるため、注意が必要です。

4-1.全身症状

全身性エリテマトーデス(SLE) 倦怠感を感じる女性

発熱や、体がだるい、疲れが取れないなどの風邪様症状や、食事をしっかりとっているのに体重が減少するなどの全身症状が現れることがあります。

4-2.皮膚や粘膜への症状

皮膚や粘膜でもっとも特徴的な症状が蝶形紅斑(ちょうけいこうはん)です。

蝶形紅斑とは、鼻から頬にかけて蝶が羽を広げたような形でみられる皮疹です。

皮疹は触ると少し盛り上がったような形をしているものや、皮膚がうすくなったもの、またレコードのように中心部分の色素が抜けたディスコイド疹といったものも見られます。

頭皮については、円形脱毛症など頭皮の一部分もしくは、髪全体の量が減る脱毛を伴うこともあります。

また、日光過敏になりやすく、強い紫外線を受けたあとは皮疹、水ぶくれ、発熱を伴うことがあります。手や足の裏にできるしもやけのような皮疹も特徴的です。

4-3.筋肉や関節への症状

全身性エリテマトーデス(SLE) ての痛みを感じる女性

SLE患者のおよそ90%に手や指が腫れて痛みのある関節痛が起こります。

痛みは常に同じ場所に現れるとは限らず、その日ごとに痛みの場所が変わることもあります。

同じような症状に慢性関節リウマチがありますが、SLEの場合はリウマチと異なり骨破壊(※)まではみられません。

(※)骨破壊…自身の破骨細胞により、骨が分解・吸収されること

4-4.ループス腎炎

SLEにより腎臓に起こる障害を「ループス腎炎」と呼びます。

ループス腎炎はSLE患者の約50~60%にみられる代表的な疾患です。

ループス腎炎とは、血液をろ過して尿を生成する働きのある腎臓の中の糸球体という部分に、抗原と抗体からなる免疫複合体が沈着することで障害され起こります。

ループス腎炎により腎機能が低下すると、はじめは自覚症状がみられませんが、尿検査で異常(無症候性蛋白尿、血尿など)がみられるようになります。

その後症状が進行すると、むくみや全身倦怠感がでやすくなり、体の老廃物を外に排泄することができず腎不全に至ることがあるため、重症度に合わせて治療を行うことになります。

4-5.肺や心臓の異常

SLEでは、心臓や肺を包む膜に炎症がみられる心外膜炎、胸膜炎などもみられることがあります。

これらがみられると胸の痛みや息苦しさなどが起こります。

他にもループス肺炎や、間質性肺炎、肺胞出血など重い障害が起こる場合もあるため、発熱や風邪のような症状にも注意が必要です。

4-6.血液の異常

SLE患者では血球減少が起こりやすく、貧血症状・めまいや倦怠感・動悸・ふらつきなどの症状がみられます。

自分の赤血球に対する自己抗体ができると「溶血性貧血」とよばれる貧血が起こります。

さらに白血球やリンパ球が減少し、体の免疫力が低下しやすくなります。
血小板が減少すると、出血が止まりにくくなり、青痣などができやすくなります。

抗リン脂質抗体とよばれる抗体が作られると、習慣性流産・血栓症などが起こりやすくなり、この症状を抗リン脂質抗体症候群と呼んでいます。

4-7.神経の症状(NPSLE)

SLEの神経症状はNPSLEと呼ばれます。

NPSLEはループス腎炎と同じくらいSLEで注意すべき症状です。

末梢神経・中枢神経、いずれにも症状が起こることがあり、手足のしびれ、筋力の低下、頭痛、けいれんなどがあるほかに、うつや不安感、注意力や記憶力の低下、認知機能の低下、幻想や妄想、混乱などもみられることがあります。

5.検査・診断

レントゲン写真

SLEの検査・診断では、採血検査、尿検査、胸部のX線検査などの画像検査を行います。

診断ではSLEに特徴的な皮膚症状、関節症状と全身症状を確認します。

血液検査では、抗核抗体やその他の特徴的な自己抗体、血球減少や炎症、腎機能などを総合的に検査します。

さらに、尿検査では、尿中にタンパク質や血が混ざっていないかなど腎障害の程度を調べる検査を行います。必要に応じて腎生検を行うこともあります。

5-1.SLEの診断基準

SLEの分類には、米国リウマチ学会(ACR)による分類基準が広く使用される、近年は欧米のリウマチ医からなるSLICCといった、より感度の高い新しい分類基準(2012年改訂)が提唱されています。

【ACR診断基準(SLICCによるSLE分類改訂基準)】

<診断基準>

臨床的基準
①急性皮膚ループス
頬部紅斑、中毒性表皮壊死、斑点状丘疹、光線過敏のいずれか
②慢性皮膚ループス
古典的円板状ループス、増殖性(疣贅性)ループス、深在性ループス、粘膜ループス、腫瘍性紅斑性ループス、凍瘡様ループス、円板状ループス/扁平苔癬重複のいずれ
③口腔潰瘍
④非瘢痕性脱毛
⑤滑膜炎
⑥漿膜炎(胸膜炎,心膜炎のいずれか)
⑦腎病変(尿蛋白 0.5 g/日以上,赤血球円柱のいずれか)
⑧神経学的病変(けいれん発作,精神病,多発単神経炎,脊髄炎,末梢・中枢神経障害,急性錯乱状態)
⑨溶血性貧血
⑩白血球減少(<4000/mm3)もしくはリンパ球減少(<1000/mm3)
⑪血小板減少(<10 万/mm3)

免疫学的基準

①抗核抗体陽性
②抗二本鎖DNA抗体陽性(ELISA法では基準値の2倍を超える)
③抗Sm抗体陽性
④抗リン脂質抗体陽性
⑤低補体(C3,C4,CH50)
⑥直接Coombs試験陽性(溶血性貧血なし)

<診断のカテゴリー>
臨床項目と免疫項目それぞれ1項目以上を満たし、全項目のうち4項目以上陽性であれば SLEと診断する。

5-2.SLEにみられる自己抗体

全身性エリテマトーデス(SLE) 診断する医師

SLEの検査では、自己抗体の有無の確認も重要です。

SLEでは、さまざまな自己抗体が陽性になります。

中でも、抗核抗体(※)は約95%の患者にみられ、抗核抗体の中でも抗dsDNS抗体や抗Sm抗体はSLEに特異的といわれています。

また、リウマトイド因子など、ほかの自己抗体も陽性になることがあります。

(※)抗核抗体(ANA)とは

抗核抗体(ANA)とは、細胞の核の構成成分を抗原(目印)とする自己抗体の総称です。

本来、体は細菌やウイルスなどの異物が体内に侵入したときに、それを異物と認識して抗体(こうたい)を作り、異物に対する抵抗力ができます。

一方、自分自身を構成する成分に対しては、「自己」と判断するため抗体は作られません。

しかしSLEは、自分自身を構成する細胞の核の構成成分を「自己」と判断できず、免疫系が抗体を作ります。このときに作られる抗体が、抗核抗体(ANA)とよばれる自己抗体の1つです。

抗核抗体(ANA)の種類は数十種類に及ぶといわれており、その種類によっては別の自己免疫疾患に特徴的なものもあります。

そのため、ある抗核抗体が陽性になったからといってSLEやほかの膠原病と確定診断はできません。抗核抗体が陽性ということは、「念のためにさらに詳しい検査をしましょう」という診断になります。

SLEの場合、陽性となりうる抗核抗体には、抗dsDNA抗体、抗Sm抗体、抗U1RNP抗体などがあります。

6.治療

SLEの治療では主に薬物療法を行います。

薬物療法では、症状の重症度により治療が異なります。代表的な治療方法についてご紹介します。

6-1.薬物療法

全身性エリテマトーデス(SLE) 薬物療法

薬物療法では皮疹や関節炎を中心とする軽症例では、非ステロイド系抗炎症薬(NSAIDs)と中等量以下の副腎皮質ステロイドが用いられます。

ステロイドの量は、SLEの重症度によりわけられます。

例えば、症状が軽い場合は少量で開始し、症状が重い場合は、高用量でスタートします。

急激な腎機能低下など緊急を要する場合は、パルス療法といって、3日間ステロイドを高用量使用することもあります。

また、いずれも症状が落ち着いた頃(寛解後)に徐々にステロイドの量を減らし、維持療法として、少量のステロイドを長期的に服用します。

6-2.ステロイド抵抗性の場合や、合併症などでステロイドを投与できない場合

ステロイド抵抗性や、ループス腎炎、重篤な中枢神経ループスなどステロイドが効かない場合、ステロイドに加えて免疫抑制薬(シクロホスファミド・ミコフェノール酸モフェチル・アザチオプリン・タクロリムス・シクロスポリンなど)を使用することがあります。

今後の新たな治療法として生物学的製剤の導入が期待されています。

6-3.皮疹 

皮疹に対しては、塗り薬であるステロイド剤や、タクロリムス外用薬、また、ヒドロキシクロロキン内服薬を使用することがあります。

6-4.薬物治療(ヒドロキシクロロキン)

薬物治療ではステロイド以外にヒドロキシクロロキンという薬も使用されることがあります。

ヒドロキシクロロキンは、腎臓や神経性病変の進行を抑制し、生命予後を改善するといわれています。

また、脂質代謝異常や骨塩量増加、感染症の予防などの効果も知られており、SLEの症状の程度によらず、ヒドロキシクロロキンの使用が推奨されています。

熟知した医師が、起こりうる網膜障害に対して十分に対応できる眼科医と連携のもとに使用する必要があります。

日本では2015年7月に保険適応が可能になり、現在まで難治性の皮疹や、ループス腎炎、関節炎、中枢神経ループスなど、幅広く適応があります。

7.日常生活で気を付けること

SLEの病状は、良くなったり悪くなったりを繰り返します。そのため、長期的に安定した状態を維持することが大切です。

症状を悪化させないためにも、誘因となる以下のような行動には注意が必要です。

・強い紫外線を長時間浴びる(海水浴・日光浴・ウィンタースポーツ)
・風邪などの感染症
・妊娠
・手術・怪我
・薬を決められた方法で飲まない

全身性エリテマトーデス(SLE) 紫外線を浴びる女性

これらのことから、指示された薬はきちんと飲み、風邪をひかないような健康的な生活を送ることが大切です。
また、妊娠・出産にあたっては、主治医と産科医と連携の上で臨む必要があります。

また、治療で使用されるステロイドは、副作用により食欲が増大しやすくなります。糖尿病を引き起こしやすいため、食事の量と質には注意し、バランスのとれた食生活を意識しましょう。

8.SLEは正しい理解と知識が大切です

全身性エリテマトーデス(SLE) 知識

SLEでは全身に起こる炎症に加え、そのSLEの特徴的な皮疹や治療薬の副作用による容姿の変貌などがあり、悩みを抱えている人は少なくありません。

また、全身の倦怠感や病気の辛さは目で見えにくいため、周囲の理解が得られにくく苦しんでいる人もいます。

SLEは長期的に付き合っていく病気です。

そのためにも、自分を含め周囲の人もSLEに対する正しい知識を持つことが大切です。

病気のことで辛いこと、気になることは小さなことでも主治医や治療に関わる看護師、薬剤師に話してみましょう。

共感してくれるだけでなく、アドバイスや解決策など悩みを一緒に考えてくれる味方になってくれるはずです。

また、気持ちが落ち込んだりやる気がでないときなど、家族や気心知れた友人に話をするだけで軽くなるかもしれません。

これからの長い人生、ありのままの自分を受け止めることも大切です。

健やかで穏やかな毎日をすごしていけますように。

この記事の監修は 医師 桐村里紗先生

【医師/総合監修医】桐村 里紗
医師

桐村 里紗

総合監修医

・内科医・認定産業医
・tenrai株式会社代表取締役医師
・東京大学大学院工学系研究科 バイオエンジニアリング専攻 道徳感情数理工学講座 共同研究員
・日本内科学会・日本糖尿病学会・日本抗加齢医学会所属

愛媛大学医学部医学科卒。
皮膚科、糖尿病代謝内分泌科を経て、生活習慣病から在宅医療、分子整合栄養療法やバイオロジカル医療、常在細菌学などを用いた予防医療、女性外来まで幅広く診療経験を積む。
監修した企業での健康プロジェクトは、第1回健康科学ビジネスベストセレクションズ受賞(健康科学ビジネス推進機構)。
現在は、執筆、メディア、講演活動などでヘルスケア情報発信やプロダクト監修を行っている。
フジテレビ「ホンマでっか!?TV」には腸内環境評論家として出演。その他「とくダネ!」などメディア出演多数。

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著作・監修一覧

  • ・新刊『腸と森の「土」を育てるーー微生物が健康にする人と環境』(光文社新書)
  • ・『日本人はなぜ臭いと言われるのか~体臭と口臭の科学』(光文社新書)
  • ・「美女のステージ」 (光文社・美人時間ブック)
  • ・「30代からのシンプル・ダイエット」(マガジンハウス)
  • ・「解抗免力」(講談社)
  • ・「冷え性ガールのあたため毎日」(泰文堂)

ほか

和重 景

【ライター】

主に、自身の出産・育児やパートナーシップといった、女性向けのジャンルにて活動中のフリーライター。
夫と大学生の息子と猫1匹の4人暮らし。
座右の銘は、「為せば成る、為さねば成らぬ何事も、成らぬは人の為さぬなりけり」。

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