皆さま、こんにちは。
医師で予防医療のスペシャリスト・桐村里紗です。

自粛生活の影響で、生活リズムが乱れて睡眠の質が落ちてしまったという声が周りから上がっています。

「上手く寝付けない」「何度も目が覚める」「起きても怠さがとれない」など、睡眠の質が低下してしまうと、日中も作業効率が落ちてしまい、せっかくの1日が無駄になってしまいます。

睡眠は、体の全てを動かすリズムであるバイオリズムの支配者。
睡眠の乱れが、内臓の働きやホルモン分泌、自律神経、全てを乱してしまうので、体調不良へとまっしぐらです。

睡眠をリセットするには、ちょっとしたコツがありますので、明日の朝から是非、実践してください。

1.睡眠ホルモンと体内時計

1-1.不眠は致命的な問題

眠っている女性

睡眠欲は、人の一番原始的な欲求である3大欲求の一つです。食欲と性欲と共に、生命維持と子孫繁栄活動をする為に不可欠な欲求です。
「人の」というより、「動物の」といった方が良いかも知れません。

睡眠が上手にとれないことは、致命的なことですが、私自身も赤ちゃんの頃から眠ることが難しく、長年苦労しています。
雑な性格なのに、睡眠にだけはナーバスで、枕が変わると眠れず、ちょっとしたストレスやイベントで眠れずという状態です。

1-2.睡眠不足で起こる様々な問題

居眠りをする女性

睡眠不足になると翌日のパフォーマンスが極端に低下することは誰しも経験があると思います。

・思考力・集中力・記憶力・認知機能低下
・免疫力低下
・内臓機能低下
・運動機能低下
・イライラ・抑うつ・不安
・倦怠感・疲労感
・めまい・頭痛・肩こり

眠れなかった翌日には、とにかく怠く、重く、頭も働かず、色々な失敗をしでかしてしまいますが、それらは全て睡眠不足のせいです。

睡眠が下手な私自身も自粛生活になってからは特に、「頑張って」睡眠の質を高めることを意識しています。

まずは、睡眠とは何かを知りましょう。

1-3.人は環境に影響される

夕暮れ時の海

文明社会に生きる私たちは、全く意識していませんが、人を含むあらゆる動植物は、常に環境の影響を受けながら生きています。

地球の自転と公転によって、1年のうちに、季節が生まれ、温度湿度が変わり、1日のうちには、太陽と月の運行によって、朝、昼、夜が生まれます。

絶え間なく変わる環境で、上手く健康を保ち生きる為に、私たちの体は、自律神経やホルモン分泌などを使って内臓や筋肉を動かしています。

中でも、太陽の影響は計り知れません。

1-4.太陽が体のリズムを支配する

太陽

太陽が生み出す、1日という時間内に起きる、朝、昼、夜の変化。人は、この時間に呼応して、自然に朝は起き、昼間には活発に活動し、夜は眠くなって体を休める。という体のリズムを生み出します。

体のリズムのことを、生体リズム=バイオリズムと言います。これを調整するのが、脳の中枢にある体内時計です。

この働きにより、太陽のリズムと人のバイオリズムがぴったりと調整され、太陽系の中で環境に適合しながら健康的に生きていくことができます。

1-5.中枢時計と体内時計

いわゆる「体内時計」と呼ばれるものは、全身の各臓器、細胞の一つ一つに備わっていることが分かっています。一つ一つがバラバラに動いてしまうと、少しずつ誤差が生まれてしまう為、その全てを調整し、1日1回リセットする「中枢時計」があります。

これが、太陽の運行を感知し、地球の24時間に体のリズムを合わせます。そして、すべての体内時計を、地球のリズムに合わせるように調整するのですね。

この中枢時計があるのが、脳の中の松果体(しょうかたい)という部分です。

1-6.松果体と睡眠ホルモン

この松果体から分泌されるのが、睡眠ホルモン・メラトニンです。
睡眠を調整し、睡眠中に体を修復する働きがある大切なホルモンで、あらゆるホルモンの支配者とされています。

女性ホルモン、甲状腺ホルモン、副腎のホルモンなどあらゆる内分泌臓器から分泌されるホルモンのリズムは、メラトニンがリズムよく分泌されることで調整されています。

1-7.睡眠ホルモンが調整する体の働き

睡眠時計

睡眠ホルモンは、自律神経、ホルモン分泌、各臓器や細胞の時計を調整します。

1-7-1.自律神経の調整

松果体から自律神経の中枢である視床下部に情報が伝えられ、朝、交感神経が活発になり、体が活動モードにシフトします。

1-7-2.ホルモン分泌の調整

松果体からホルモン分泌の中枢である視床下部から下垂体に情報が伝えられ、体中のホルモンの分泌が調整されます。

甲状腺、副腎、生殖器を含む、あらゆる内分泌臓器に関連します。
女性は、月経のリズムにも関連しますので、睡眠が乱れると月経に影響があるのですね。

1-7-3.末梢の臓器の体内時計・細胞の体内時計の調整

あらゆる臓器や各細胞も、環境にあわせて活動していますので、各々の時計があります。
ただし、放っておくとバラバラに狂ってしまう為、中枢時計が支配して1日のリズムを合わせます。

1-8.睡眠ホルモンのその他の作用

メラトニンの作用は、それだけではありません。
睡眠中に体のあちこちを調整し、修復してくれます。

・抗がん作用
発症予防、血管新生の抑制、腫瘍増殖抑制作用
・抗酸化作用
最も悪性度の高い活性酸素・ヒドロキシラジカルを消去
・免疫機能調整作用
リンパ球・サイトカインの分泌調整、炎症の抑制
・細胞の修復作用
成長ホルモンの分泌を助け、睡眠中に細胞を修復

1-9.メラトニン分泌を調整する太陽の光

カーテンから入る朝の光

超重要なメラトニン分泌を調整しているのが、太陽の光です。

メラトニンは、睡眠を誘導するホルモンですから夜に分泌されるのですが、朝、明るい太陽の光を感知することで、中枢時計がリセットされ、夜の決まった時間にメラトニンが分泌されるようにプログラミングされるのです。

松果体は、光刺激を感知するとメラトニン分泌をやめ、それから約15時間後にメラトニン分泌が高まるようにプログラミングされます。

例えば、朝7時に起きてカーテンを開け、明るい光が目に入ると、夜10時にはメラトニンが分泌されて自然に眠たくなるというわけです。
(注:直射日光を目に入れると危険です。明るいと感知するだけで十分です。)

ですから、夜よく眠る為には、まず、朝しっかり同じ時間に起きて、太陽の下で明るい光を浴びることが大切です。

2.睡眠のためにやるべき習慣やめるべき習慣

不眠症の人は、睡眠のために夜に工夫をしますが、それでも眠れずに朝が起きられず、だらだらしてしまいがちです。

それでは、メラトニン分泌のリズムを戻すことはできません。

2-1.朝の大切な2つの習慣

寝起きの女性

大切なのは、朝のこの習慣です。

1. 朝は必ず同じ時間に起きること
2. 必ずカーテンを開け朝日を浴びること

この2つの習慣で、松果体が同じ時間帯に光を感知し、睡眠のリズムがプログラミングされ、体全体のバイオリズムを調整してくれるのです。

私自身は、日の出が早くなった今は、5時半から6時に起きています。
あえてカーテンを完全な遮光にしていないため、日が登ったら徐々に明るくなり自然に目が覚めます。

眠たくなるのは21時ごろ。約15時間ですね。そのまま21時台には抗わずに寝ております。

2-2.メラトニン分泌を乱す悪習慣とその対策

メラトニンの分泌を乱す悪習慣を避けることも大切です。

2-2-1.朝寝坊は厳禁

とにかく夜眠れないからといって、朝寝坊はお勧めしません。
どんなにだるくても、夜のためにしっかり起きて、カーテンを開け、朝日を浴びること。

2-2-2.夜のPC・スマホ・LEDライトのブルーライト

夜にPCのブルーライトを浴びる女性

メラトニン分泌を抑制する光の中でも、最も強いのが、ブルーライトです。

最近は、家の中の電気もLEDでブルーライトを含んでいますし、パソコンもスマホもブルーライトだらけです。

日中はいいですが、本来暗くなるべき夜に光刺激があると、松果体が昼間だと勘違いしてしまい中枢時計が乱れてしまいます。

・部屋のライトを、夜間は白色から暖色に切り替える
・ブルーライトカット眼鏡や画面用フィルムを貼る
・暗くなったらスマホやパソコンは「明るさ調整」で夜モードにする
・寝る2〜3時間前にはスマホやパソコンはオフしてゆったり過ごす

こうした工夫で、松果体に「夜だ!睡眠に誘導しなければ!」と認識してもらいましょう。

2-3.睡眠に必要な栄養素もしっかり

野菜

せっかく生活習慣を整えて睡眠ホルモンのプログラミングが上手くいっても、メラトニン合成に必要な原材料が不足しては十分に分泌もされません。

必要な原材料は、

・タンパク質
・ビタミンB群(ビタミンB6・ナイアシン)
・ミネラル(鉄・マグネシウム)

食事のバランスが偏らないことが大切です。

特に、月経がある女性の場合は鉄分が慢性的に不足し、それが睡眠の質の低下の原因になっていることも多いのです。鉄分をしっかりとりましょう。

特に、更年期では月経も乱れ、自律神経も乱れると睡眠も乱れがちです、睡眠ホルモンをしっかり整えることで、自律神経を整えることも意識してみましょう。

▼更年期における眠気の原因と予防策

https://wellmethod.jp/menopause_drowsiness/

更年期における眠気の理由とは? 毎日を快適に過ごすための6つの予防策

睡眠は、最も安上がりながら万能で効果的な最高のセラピーです。

少しの工夫で、質の良い睡眠を手に入れれば、生涯のヘルスケアに役立ちます。より良い睡眠の為に、より良く起きるを心がけてみてくださいね。

この記事の執筆は 医師 桐村里紗先生

【医師/総合監修医】桐村 里紗
医師

桐村 里紗

総合監修医

・内科医・認定産業医
・tenrai株式会社代表取締役医師
・東京大学大学院工学系研究科 バイオエンジニアリング専攻 道徳感情数理工学講座 共同研究員
・日本内科学会・日本糖尿病学会・日本抗加齢医学会所属

愛媛大学医学部医学科卒。
皮膚科、糖尿病代謝内分泌科を経て、生活習慣病から在宅医療、分子整合栄養療法やバイオロジカル医療、常在細菌学などを用いた予防医療、女性外来まで幅広く診療経験を積む。
監修した企業での健康プロジェクトは、第1回健康科学ビジネスベストセレクションズ受賞(健康科学ビジネス推進機構)。
現在は、執筆、メディア、講演活動などでヘルスケア情報発信やプロダクト監修を行っている。
フジテレビ「ホンマでっか!?TV」には腸内環境評論家として出演。その他「とくダネ!」などメディア出演多数。

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著作・監修一覧

  • ・新刊『腸と森の「土」を育てるーー微生物が健康にする人と環境』(光文社新書)
  • ・『日本人はなぜ臭いと言われるのか~体臭と口臭の科学』(光文社新書)
  • ・「美女のステージ」 (光文社・美人時間ブック)
  • ・「30代からのシンプル・ダイエット」(マガジンハウス)
  • ・「解抗免力」(講談社)
  • ・「冷え性ガールのあたため毎日」(泰文堂)

ほか