こんにちは。
医師で予防医療スペシャリストの桐村里紗です。

外出自粛が続く中、大人も子供も在宅時間の増加と共に、スマホやパソコンで、SNSや動画、ゲームなどを観る時間が増えてしまい、スマホ依存、ネット依存が問題になっています。

「常にスマホが気になって画面を開いてしまう」
「スマホがないと落ち着かない」
そんな方は、要注意。

深刻化すると、薬物中毒と同じような脳の変化を引き起こすことが分かっているスマホ依存。
お子さんでは、成績の低下や不登校にもつながる問題になります。

家族全員で、スマホ依存にならないように生活していきましょう。

1. スマホ依存症と対策

1-1. 7割が依存を自覚「スマホ依存症」とは?

スマホ依存症

スマホ依存症とは、スマホの利用者が、利用することで不具合や問題が起きているにも関わらず、スマホの利用が自分の意思ではやめられず、精神的に依存してしまう状態のことを意味します。

MMD研究所が、2020年7月に、15歳から69歳の男女560人のスマホ所有者に行った調査によると、スマホに「かなり依存している」と回答した人が17.3%、「やや依存している」と回答した人が52.5%と、約7割がスマホ依存していると回答したとしています。

「寝るとき、スマホを枕元に置いて寝る」が60.4%、「ちょっとした待ち時間にスマホをいじる」が59.3%と多く、特に気になる依存的な症状として「スマホが身近に無いと、とても不安になる」と回答した人は、27.5%でした。

1-2. スマホ依存症の危険な脳の変化

スマホ依存は、薬物依存と同様に、神経伝達物質の分泌に影響を及ぼし、脳が変化し、依存回路が形成されてしまう怖い状態です。

1. ドーパミンの基礎分泌が低下する

スマホゲーム依存症

ドーパミンは、脳のご褒美となり、やる気や集中力をもたらす神経伝達物質です。
「嬉しい」「楽しい」もドーパミンの働きです。

ところが、スマホやゲームによる強い刺激によってドーパミンが分泌され、脳がご褒美をもらうという経験が繰り返されてしまうと、少しの刺激でドーパミンが出なくなり、ドーパミンの基礎分泌が低下します。

すると、普段からイライラ・ソワソワと落ち着かず、満足感が得られなくなります。
仕事や勉強に対する集中力ややる気、達成感ももちづらくなり、学習や能率にも影響します。

2. 脳に依存症回路ができてしまう

スマホ依存症の脳の回路

脳が普段からご褒美をもらいすぎると、報酬系の神経回路が発達し、依存のループが出来上がってしまいます。
この神経が刺激されることで、回路が刺激され、脳が強い衝動を感じ、行動し、ご褒美を得て喜びを得るという一連の行動を繰り返してしまいます。

「やめられない」「止まらない」回路ができると、衝動が抑えられなくなり、自分をコントロールできなくなります。

3. 人間らしさや記憶、感情の制御「前頭前野」の抑制

記憶

脳の前頭前野は、人間らしい思考や判断、記憶や感情の制御を行う場所です。
1日2時間以上のスマホ使用で、前頭前野の働きが抑制されることが分かってきました。

人間らしさの司令塔とも呼ばれる場所で、人の気持ちを察したり、やってはいけないことを我慢したり、何かに挑戦したり、集中したり、ものを覚えたり、同時に複数のことを行ったりすることができるのは、前頭前野の働きです。

スマホを使いすぎて、「どうにも記憶力が悪くなった」「同時にたくさんのことが考えられなくなった」という話もよく聞きます。

特に、脳が発達する幼少期から、子供をおとなしくさせるためにスマホやタブレットを与えている親御さんも多いようですが、この時期に十分に前頭前野が発達しないと一生涯に関わります。

2. スマホ依存症に起こりうる症状

こうした脳の変化によって、スマホ依存症の症状が起こります。

スマホ依存症でやる気のない女性

軽度であっても
・やる気・集中力の低下
・情緒不安定
・対人能力の低下
・愛着障害
・昼夜逆転

進行してくると

・不登校やニート
・出社拒否
・適応障害
・不安神経症
・うつ

などが起こる可能性があります。

3. スマホ依存度をチェック!

スマホ依存症

アメリカのインターネット依存についての研究機関「THE CENTER FOR INTERNET AND THECHNOLOGY ADDICTION」のリリースしている「スマホ衝動テスト」をご紹介します。
15項目のチェックリストのうち、いくつ当てはまるでしょうか?

3-1. スマホ衝動テスト

1.携帯電話やスマホに、思っているよりも多くの時間を使っていますか?
2.携帯電話やスマホを始めると無意識に時間が経っていますか?
3.携帯電話やスマホを使っていると、時間を忘れてしまいそうですか?
4.人と直接話すよりも、メッセージやツイート、メールをする方が多いですか?
5.携帯電話やスマホに費やす時間がだんだん増えていますか?
6.携帯電話やスマホに費やす時間を少しでも減らしたいと感じていますか?
7.寝ている時も、携帯電話やスマホを(電源がONの状態で)枕元やベッドサイドにおいていますか?
8.他の作業を中断してでも、昼夜問わずメッセージ、ツイート、メールを表示して返信していると思いますか?
9.注意と集中を要する、運転などの作業をしている際にも、メッセージ、ツイート、メールの返信やネットサーフィンをしていますか?
10.携帯電話やスマートフォンを使うことで、生産性が低下すると感じることがありますか?
11.少しの間でも、携帯電話やスマートフォンがないことに抵抗を感じますか?
12.誤ってスマートフォンを車内や自宅に置いたままにしたり、圏外になったり、壊れたりしたときに、気分が悪くなったり不快になったりしますか?
13.食事中であっても、携帯電話やスマートフォンをテーブルに置いていますか?
14.携帯電話やスマートフォンの着信音、通知音やバイブが鳴ったりしたときに、メッセージ、ツイート、メール、更新などを確​​認したいという強い衝動を感じますか?
15.特に、新しい情報や重要な情報が何もないとわかっていても、1日に何度も携帯電話やスマートフォンを無意識にチェックしていますか?

3-2. スマホ衝動テスト:結果

15項目中、いくつ当てはまったでしょうか?

・1~2個:スマホ依存傾向なし
・3~4個:スマホ依存の傾向あり
・5個以上:スマホ依存症の可能性が高い
・8個以上:重度のスマホ依存症の可能性あり

いかがでしょうか?
3個以上であれば、多くの人が当てはまるのでは無いでしょうか?

4. スマホ依存症にならないためにできること

スマホ依存症の子ども

在宅時間が長い今、スマホ依存症は家族の問題です。
家族全員がスマホを眺めて、会話がないという家も多いのではないでしょうか?
お子さんだけでなく、自分自身も戒めて、全員で対応する必要があります。

・夜間にはスマホを使用しない
 その代わりに、本を読んだり家族で会話をしたりオフラインで過ごす

・1日2時間未満に使用を制限する
 仕事で必要な場合を除き、惰性での利用を極力制限する
 特にお子さんの利用はしっかりと制限し、ルールを作る

・デジタルデトックスデーを作る
 土日はスマホを使わないなど、曜日を決めてオフラインで過ごす日を作る

お子さんの場合は、

・就学未満の年齢ではなるべく与えない
 与える年齢をなるべく遅らせること
 自分の手間が省けるからと言って、子供に簡単にスマホやタブレットを与えない

・外遊びでしっかり五感と体を使って遊ぶ
 神経ネットワークや脳を正常に発育させるために全身と五感をフル活用して遊ばせる

一度萎縮してしまった脳や作られた依存回路を回復させることは残念ながらできません。
一生涯の問題ですから、今、しっかりと取り組みたいところです。

この記事の執筆は 医師 桐村里紗先生

【医師/総合監修医】桐村 里紗
医師

桐村 里紗

総合監修医

・内科医・認定産業医
・tenrai株式会社代表取締役医師
・東京大学大学院工学系研究科 バイオエンジニアリング専攻 道徳感情数理工学講座 共同研究員
・日本内科学会・日本糖尿病学会・日本抗加齢医学会所属

愛媛大学医学部医学科卒。
皮膚科、糖尿病代謝内分泌科を経て、生活習慣病から在宅医療、分子整合栄養療法やバイオロジカル医療、常在細菌学などを用いた予防医療、女性外来まで幅広く診療経験を積む。
監修した企業での健康プロジェクトは、第1回健康科学ビジネスベストセレクションズ受賞(健康科学ビジネス推進機構)。
現在は、執筆、メディア、講演活動などでヘルスケア情報発信やプロダクト監修を行っている。
フジテレビ「ホンマでっか!?TV」には腸内環境評論家として出演。その他「とくダネ!」などメディア出演多数。

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著作・監修一覧

  • ・新刊『腸と森の「土」を育てるーー微生物が健康にする人と環境』(光文社新書)
  • ・『日本人はなぜ臭いと言われるのか~体臭と口臭の科学』(光文社新書)
  • ・「美女のステージ」 (光文社・美人時間ブック)
  • ・「30代からのシンプル・ダイエット」(マガジンハウス)
  • ・「解抗免力」(講談社)
  • ・「冷え性ガールのあたため毎日」(泰文堂)

ほか