突然いびきをかくようになった理由は? 更年期といびきの関係性
こんにちは、WELLMETHODライターの和重 景です。
先日初めて子どもに「いびきをかいている」といわれました。
これまでの人生のなかでいびきを指摘されたことがなかったため、自分でも驚いてしまいました。
自分でもなぜ突然いびきをかくようになったのか、まったく見当がつきません。
いびきをかいているといわれたことが気になり、自分でいびきの原因を調べていたところ「もしかして、更年期が原因?」と思うようになりました。
40代以降の女性の多くが経験する更年期障害。
更年期障害の症状に「いびきをかく」というのはあまり耳にしませんよね。
しかし、いびきは女性ホルモンと大きな関係があります。
ここでは、更年期といびきの関係性について解説していきます。
目次
1.いびきはなぜ起こるの?
いびきが起こるのには、呼吸との関わりがあります。
まずは呼吸のしくみから解説します。
鼻から吸い込まれた空気は、鼻腔・咽頭・喉頭を経て気管に流れ込み、そのあと枝分かれした気管支を経て左右の肺に入り、酸素と二酸化炭素のガス交換が行われ、逆の経路をたどって大気中に放出されます。
いびきは鼻腔内で起こっているように思われますが、実は喉の奥の口蓋垂(こうがいすい)周辺の粘膜組織での振動や摩擦で起こっているのです。
流入する空気の速度が速いと粘膜が振動し「ガー」「ゴー」といった音を発生させてしまいます。
健康な状態では、粘膜が振動するほどの速さで空気が流入することはありません。
しかし、さまざまな原因で空気の通り道である鼻から喉頭までの上気道が狭くなると、空気の流れる速度が速くなり粘膜が振動しやすくなってしまいます。
1-1.起きているときにいびきをかかないの?
いびきは寝ているときにしか起こりません。
なぜ目が覚めているとき、いびきは起こらないのか不思議ですよね。
それは目が覚めているとき気道周辺の組織が筋肉によって支えられるため、気道がある程度広く確保されるためです。
睡眠には体を休める役割があり、睡眠中は筋肉が弛緩しやすくなっているため気道が狭くなり、いびきが起こりやすくなるのです。
2.いびきの原因は更年期?
更年期にさしかかった女性の中でもとくに50歳以降の女性でいびきを突然かくようになった方は、更年期症状によって女性ホルモンが減少したことがいびきの原因の一つと考えられます。
2-1.プロゲステロンの減少
女性ホルモンのプロゲステロン(黄体ホルモン)は閉経前後を境に大幅に減少していきます。プロゲステロンには脳の呼吸中枢を刺激する作用があり、「上気道開大筋」という上気道の開きを維持しようとする筋肉の働きを活発にする役割もあります。
しかし更年期になり女性ホルモンの分泌量が減少していくことで、その筋肉の働きが弱まり、気道を確保できなくなっていきます。
その結果、いびきをかきやすくなると考えられているのです。
3.更年期以外のいびきの原因
一般的ないびきには、更年期以外にもさまざまな原因があります。
3-1.骨格的な特徴
いびきの原因の一つに元々の骨格的な特徴によるものがあります。
・首が太くて短い
・下あごが小さい、横顔を見たときに下あごが後方に引っ込んでいる
・口蓋垂が長い
・舌が大きい
・鼻中隔湾曲症(鼻が曲がっている)
3-2.体型や生活の変化
体型や生活の変化によっていびきをかくようになることもあります。
1.口呼吸
口呼吸は、鼻呼吸に比べて軟口蓋が落ち込みやすく、空気抵抗が大きくなります。睡眠時に舌の筋肉が緩んで落ち込み、気道を塞ぎやすくなります。
2.鼻づまり
花粉やほこりなどのアレルギー性鼻炎も原因の一つと考えられます。鼻が詰まると、酸素を鼻から吸い込むことができないため結果、口呼吸となり、いびきを引き起こしてしまいます。
3.疲労
仕事や人間関係で疲労やストレスをため込む女性が増えてきています。疲労を回復しようとすると、睡眠時に筋肉がより弛緩するようになります。また酸素をより多く吸入しようとして口呼吸となってしまうのです。
4.いびきが体に及ぼす影響とは?
いびきをかいているとぐっすり眠っていると思われがちですが、これは大きな誤解です。
いびきをかくと睡眠中の呼吸で体内に取り込む酸素の量が大幅に減り、脳が慢性的な酸欠状態に陥ります。そうなると、脳に酸素を供給しなければいけないと自律神経のうち、交感神経が活発化し、血圧や脈拍を上げてしまいます。
その結果、眠っているにもかかわらず疲労の回復ができなくなるのです。
いびきは疲労の回復を妨げる以外にも、日常生活に支障をきたすこともあるので注意が必要です。
4-1.睡眠時無呼吸症候群
いびきはいくつかの種類に分けることができますが、眠っているときに毎回かくいびきを「習慣性のいびき」といいます。
その習慣性のいびきの中でも重症度が高いものの一つに閉塞性の「睡眠時無呼吸症候群(SAS)」があります。
睡眠時無呼吸症候群の症状として、強烈ないびきがあげられます。
その他に集中力の低下、日中の眠気、起床時の頭痛、睡眠中の呼吸停止や息苦しさ、起床後の熟眠感のなさ、口喝などの症状があります。
睡眠時無呼吸症候群は、テレビやインターネットなどでも報道される機会が増えたことにより、日常生活に支障をきたす可能性があることは広く知られるようになりました。
睡眠中に脳を十分に休めることができなくなった結果、日中に強烈な眠気に襲われ、交通事故や労働災害につながる可能性が高くなるのです。
また完全には解明されてはいないのですが、睡眠時無呼吸症候群が肥満・高血圧・糖尿病・心臓病・脳卒中などのさまざま生活習慣病の引き金になっているといわれています。
生活習慣病を引き起こす原因として、睡眠中に体内が酸欠状態になると全身に少ない酸素を送り届けようと交感神経が優位になり、一日中心臓や血管に負担がかかってしまうためと考えられています。
1.プロゲステロンの減少が無呼吸症候群の原因になることも
同じ年齢・体重の女性の閉経前と閉経後での無呼吸症候群の有病率を比べると、閉経後の方が3倍も発症する確率が高くなっていることが、多くの研究で明らかになっています。
アメリカ・ペンシルバニア州立大学が女性1,000人、男性741人を対象に行った大規模な調査では、睡眠時無呼吸症候群の有病率は閉経前の女性が0.6%にだったのに対し、閉経後の女性は2.7%と、4倍以上だったという結果が報告されています。
また閉経後にホルモン補充療法を受けている女性の無呼吸症候群の有病率は0.5%で、閉経前の女性の有病率と同等の結果が出ています。
ホルモン補給療法は、女性ホルモンの中でもエストロゲン(卵胞ホルモン)よりも、プロゲステロン製剤で効果が認められていることなどからも、呼吸を促す作用のある女性ホルモン「プロゲステロン」が、無呼吸症候群と関係していると考えられます。
※Am J Respir Crit Care Med. 2001 Mar;163:608-613.
4-2.女性ならではの悩み
いびきは身体的な症状を引き起こすだけではなく、心にも大きな負担を与えてしまうことがあります。
いびきは男性に多いと考えられがちですが、いびきに悩む更年期の女性も多くいます。
いびきで悩む女性の多くは、恥ずかしいという思いから相談できずに一人で悩み、医療機関への受診につながらないという現状があります。
一人で悩まず、いびきがつらいと感じたときは、医療機関へ相談にいきましょう。
5.自分でできる! いびきを軽減する方法
医療機関で治療を受けることはもちろん大切なことです。
しかし、自分でいびきを軽減できる方法もあります。
その方法は睡眠時の姿勢を変えることです。
横向きで眠ることで舌が喉に落ちるのをある程度防ぐことができるため、いびきの軽減につながります。
さらに、眠るときに多くの方が使う枕も、いびきの軽減には重要な役割を果たします。
いびきをかく人の多くは、自分に合った枕を使っていません。自分に合った枕を使うだけで、いびきが改善した人もいます。
自分に合った枕を探す場合は、専門家や医師と相談するのも良いでしょう。
6.いびきの治療方法
いびきの治療を希望する場合、耳鼻咽喉科や歯科、いびき治療をしている医療機関を受診しましょう。
いびきの治療は、いびきの原因によっていくつかの方法があります。
6-1.薬物療法
更年期障害や甲状腺機能低下症などが原因の場合は、薬物療法を行うことがあります。
6-2.マウスピース
いびき治療の代表的なものの一つにマウスピースがあります。
このマウスピースは「スリープスプリント」と呼ばれ、上顎と下顎のマウスピースがつながっており、噛んだときに真ん中に隙間ができるようになっています。
寝ているときにマウスピースをつけることで、下顎が固定され顎が喉のほうに落ちないようにして気道が狭くなるのを防ぎます。
マウスピースは、装着してすぐに効果を実感する方が多いです。マウスピースを装着することで気道が開き、いびきをかかずに熟睡できるため、翌朝の目覚めがすっきりしたと感じることができます。
マウスピースは保険適用となっており、作る場合は歯科受診が必要となります。
6-3.CPAP療法
CPAP療法とは、マスクを装着し機器で酸素を送り込んで気道を確保する治療方法です。
治療効果は高く、合併症の予防や生活の質が改善されるといった例が報告されています。
このCPAP療法の難点としてあげられるのは、継続しなければ効果を得られないということです。
マスクを装着する不快感や旅行に行くときなどの持ち運びに不便であることから、治療を行っても約半数の人しか継続できないといわれています。
6-4.外科的治療
扁桃肥大やアデノイドなど、物理的に気道を狭窄させる原因がある場合には、外科的治療を行います。
また、レーザー治療で口蓋垂の一部を切除するなどの侵襲の少ない方法もあります。
7.もういびきで悩まない! いびきを改善して健やかな毎日を送りましょう
いびきで悩む女性の方はとても多いのですが、人には相談しづらいことでもありますよね。
しかし一人で悩んでいても、いびきが改善することはありません。
また、いびきのせいで熟睡できない状態が続くと、日常生活に支障をきたしてしまいます。
これでは、更年期世代の私たちは心身ともに疲れてしまいます。
更年期を迎える私たちは、体の変化とうまく付き合いながら、一つ一つ悩みを解消していくことが大切です。
これからの人生、自分の体の声をしっかりキャッチして毎日を自分らしく楽しんでいきましょう!
この記事の監修は 医師 桐村里紗先生

桐村 里紗
総合監修医
・内科医・認定産業医
・tenrai株式会社代表取締役医師
・東京大学大学院工学系研究科 バイオエンジニアリング専攻 道徳感情数理工学講座 共同研究員
・日本内科学会・日本糖尿病学会・日本抗加齢医学会所属
愛媛大学医学部医学科卒。
皮膚科、糖尿病代謝内分泌科を経て、生活習慣病から在宅医療、分子整合栄養療法やバイオロジカル医療、常在細菌学などを用いた予防医療、女性外来まで幅広く診療経験を積む。
監修した企業での健康プロジェクトは、第1回健康科学ビジネスベストセレクションズ受賞(健康科学ビジネス推進機構)。
現在は、執筆、メディア、講演活動などでヘルスケア情報発信やプロダクト監修を行っている。
フジテレビ「ホンマでっか!?TV」には腸内環境評論家として出演。その他「とくダネ!」などメディア出演多数。
- 新刊『腸と森の「土」を育てるーー微生物が健康にする人と環境』(光文社新書)』
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著作・監修一覧
- ・新刊『腸と森の「土」を育てるーー微生物が健康にする人と環境』(光文社新書)
- ・『日本人はなぜ臭いと言われるのか~体臭と口臭の科学』(光文社新書)
- ・「美女のステージ」 (光文社・美人時間ブック)
- ・「30代からのシンプル・ダイエット」(マガジンハウス)
- ・「解抗免力」(講談社)
- ・「冷え性ガールのあたため毎日」(泰文堂)
ほか
和重 景
主に、自身の出産・育児やパートナーシップといった、女性向けのジャンルにて活動中のフリーライター。
夫と大学生の息子と猫1匹の4人暮らし。
座右の銘は、「為せば成る、為さねば成らぬ何事も、成らぬは人の為さぬなりけり」。