こんにちは。
医師で予防医療スペシャリストの桐村里紗です。

この度、新著『腸と森の「土」を育てるーー微生物が健康にする人と環境』が光文社新書より発売になりました。

『腸と森の「土」を育てるーー微生物が健康にする人と環境』

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WELLMETHODでは、自分と地球を一体としてその全体の健康を実現するプラネタリーヘルスについてお伝えしてきました。
本書は、プラネタリーヘルスについての理論と実践の書です。

異常気象により猛暑や大雨による土砂災害などが目立つ近年ですが、まさに、こうした地球環境の問題と現代的な病気の増加は、一つの根本原因により起こっていると言えます。

それが「土」の破壊です。
なぜ、人と地球の病気が「土」によって起きているのでしょう。

1.人と地球の健康に「土」を処方する

土壌

人と地球の「土」を改良すれば、人の病気や今起きている様々な環境問題が解決するとは、どういうことでしょう。

人が根を下ろす腸の土、地球上の植物が根を下ろす環境の土。
人の細胞の数よりも多い100兆個もの細菌が共生する腸内、そして、地球上で最も多種多様な生物が暮らす表土も活発な微生物の活動があります。

1-1.人の土は腸にある

腸

まず、人から始めましょう。
皆さんの中には健康のために「腸活」を実践している人もいらっしゃると思います。

人を植物に例えると、腸には、その根があり、その根が土を下すのが、腸内にある土。
つまりは、「便」ですね。

食べ物を口から摂取して、歯ですりつぶし、消化液でドロドロに溶かし、分解し、それを腸内細菌が食べ、発酵させることで、栄養が豊富な腸の土が出来上がります。

その土に根を下ろすのが、腸の上皮細胞という根っこです。
上皮細胞は、人を外界の病原体やアレルゲンなどから守る防御壁であると同時に、人の内側に栄養を取り込む、根でもあります。

その根から、血管という葉脈を使って、血液を通して細胞に栄養を運び、葉っぱや花、実にあたる細胞が元気に育ちます。

ですから、細胞を元気にしようと思えば、根っこまで辿ると、腸と土が大切。ということになりますね。
腸内環境が乱れて、腸内の土が腐れば、人は心身を崩し、病気になります。

1-2.腸は植物と同じ

植物を育てている方は、「根腐れ」をすると植物が枯れてしまうことをよくご存じだと思います。

土や水に腐敗菌が増えて、根腐れすると、その植物は枯れてしまいます。
葉っぱを青々と茂らせ、美しい花を咲かせ、熟れた実をつけるには、土が豊かで、その豊かな土からぐんぐんと栄養を吸収することが必要です。

植物にとって、土がとても大切です。

1-3.土は微生物によって作られる

土壌

土は、落ち葉や動物の死骸、それから糞などが落下し、それを、ミミズやダンゴムシなどの土壌動物が食べて分解します。
これは、人が、歯や消化液で食べ物をドロドロにするのと同じです。
(食べ物も、いわば、動植物の死骸ですね。)

その「土の素(もと)」を、土壌菌が食べて分解・発酵することで、腐植土となります。
この腐植土とミネラル分が混ざったものが、「土」です。

たった1gの土には、100億〜1000億個、6000〜5万種類ほどの土壌菌が暮らしているとされています。

1-4.腸内細菌の祖先は土壌菌

「汚い」でしょうか?
いえ、これら土壌菌は腸内細菌の祖先です。

人は、この微生物の楽園に後から誕生した新参者です。
ほとんどの微生物とは、共生が可能です。

腸内細菌は、その昔、人の祖先が食べ物と共に土壌菌を取り込み、腸を安住の家と決めた内細菌が、定着して受け継がれたものです。

実際に、世界の各地には、栄養豊富な土を食べるという「土食文化」があり、今でも残っていますが、それで病気になることはありません。 
最近では、いわゆる乳酸菌やビフィズス菌などのプロバイオティクスにかわる、土壌菌のサプリメントまであります。
本当に豊かな土は、植物だけでなく生命を育むものです。

農作物にも、この土壌菌は付着しています。それも、表面だけでなく、全体に億単位で!
そこには、土壌にいる酵母や乳酸菌、納豆菌の仲間などもいて、発酵食品の元になったりもします。

納豆菌

1-5.土壌菌が地球環境を守っている

植物が元気に育つには、土をつくる土壌菌が欠かせません。
土壌菌の役割は、ただ、土をつくるだけではありません。

まず、植物の根は、土壌菌がいないと栄養が吸収できません。
植物の根の周りには、腸内細菌のように土壌菌が共生しています。
この土壌菌は、植物の根を病原性の微生物から守り、空気中の窒素を植物の栄養に変えて、供給しています。

さらに、菌根菌という菌類の一種は、根っこと土の中にある毛細血管のような水脈とをつなぐパイプのような役割をして、根っこの水分と栄養の吸収を助けます。

この微生物がいなければ、植物は十分な水と栄養が得られません。

1-6.生きた土には血流と呼吸がある

渓流

この菌根菌がネットワークのように張り巡らされる土は、サラサラの砂やネトネトした粘土ではなく、団粒(だんりゅう)というミネラルや微生物の団子のような構造を持つ、フカフカの土です。

人の細胞組織のような団子の間には、毛細血管のような水と空気の通り道(地下通気水脈)があり、そこに菌根菌が菌糸を伸ばして、植物に水と栄養を運んでいます。

雨が大量に降っても、この団粒構造をもった土は、水はけが良いため、ぬかるみません。
でも、水分もしっかりと保持するため、乾燥もしづらいのです。

山も里にある田畑も、これで、土の良し悪しが決まります。

2.土の破壊が温暖化や土砂崩れの原因に

土砂崩れ

今、森林、山の開発や、農業による農薬や化学肥料の使用によって、微生物のバランスが崩れ、土の中の水流が滞り、土の構造が破壊され、それによって、

・温室効果ガスの排泄
・土砂崩れ
・生物多様性の減少
・河川や海の汚染

など様々な問題に繋がっています。

2-1.森林の破壊で温室効果ガスや土砂崩れ発生

土砂崩れ

アマゾンや日本の深い森林は、二酸化炭素のもとになる炭素を土壌にたくさんため込む働きがあります。
その森林が切り開かれて植物に覆われずに土が裸になることで、温室効果ガスが放出されてしまいます。

それによって、熱帯低気圧の異常な発達などが起こり、異常気象による災害が目立っている昨今です。

元々の土の性質にもよりますから、全てがそうというわけではありませんが、近年発生している土砂崩れの事例には、森林を切り開いたことによる土の中の水脈の停滞が原因になっているものも多く見られます。

山から里の地下の水脈は全て連続しているのが本来ですから、どこかを舗装するだけでも、水流は停滞します。

地下の水脈が滞り、山の保水力がなくなることで、水が一気に溢れるリスクがあります。
また、土の中には木々や植物の根っこなどが縦横無尽に張り巡らされ、強靭なネットのようになり、土を保持しています。
こうした構造の消失が、土砂崩れの原因になります。

本来、保水力が十分にある山であれば、どんなに雨が降っても、その水源の水は濁らず、危険なほど増水することもありません。
木々や植物がしっかりと根を結び合っていれば、簡単に土砂崩れが起こることもありません。

古来、里に住む人々は、日本の奥山を侵してはいけない神域として、麓に社を建てて守ってきました。
そうした昔の人の知恵を忘れてしまったことで、ある意味人災とも言える事故が毎年起きています。

2-2.農業や畜産による環境破壊

農薬散布

さらに、農業も、土の破壊の原因になっています。

窒素含む化学肥料を使う農法が当たり前になり、土の中に窒素が溢れ、それを耕すことで、窒素由来の温室効果ガスが発生する原因になっています。

また、化学肥料を使うことで、畑の土壌微生物のバランスが崩れると、病原性の微生物に弱くなるため、農薬の使用も必要になります。

農薬と化学肥料をセットにした現代型の農業が、地力低下の原因になっています。
本来の微生物の活動が低下した土で育った作物は、貧弱になり栄養価を失い、人にとってもデメリットになります。

さらに、過剰な窒素が川に流れ、海に流れることで、過剰なプランクトンによる赤潮が発生するなどして、海の生態系も崩れてしまいます。

さらに、人以上に、人が食べる牛などの家畜を養うために、アマゾンが切り開かれ、農地や放牧地になることで、最終的には土が劣化し、砂漠化してしまうということが起きています。

熱帯雨林は、巨大な二酸化炭素の吸収源なので、これ以上破壊するわけにはいきません。

3.人のための農業や畜産が人と地球の土を壊す

プラネタリーヘルス

人が生きていくために、農業や畜産が不可欠になっています。
でも、今、その方法を見直さないと、現代型の化学肥料や農薬を当たり前に使う農業や、人以上に大量に食べ環境負荷が大きい家畜を養うために、環境が破壊されています。

そして、そうした現代型の農業や畜産で育った作物や家畜の肉は、本来の植物や野生肉とはかけ離れた、ひ弱で栄養価が不足しながら、炎症を起こす油を含むなど多くの隠れた課題があり、人の腸の土の破壊や不健康の原因にもなっています。

プラネタリーヘルスを実現するために、今日からできる食の選択が大切です。

まだまだ書ききれませんが、新著『腸と森の「土」を育てるーー微生物が健康にする人と環境』(光文社新書)では、こうした問題をお伝えし、「土」への理解を深めながら、身近な食の選択により一人一人が今日からできる実践方法をお伝えしています。

自分自身が無意識に、被害者かつ加害者になってしまうのではなく、能動的に自分と地球全体の健康を実現できるように、意識を変えるだけでなく、今日からできることをたくさん盛り込んでいます。

ぜひ、ご高覧頂けると幸いです。

『腸と森の「土」を育てるーー微生物が健康にする人と環境』

新著『腸と森の「土」を育てるーー微生物が健康にする人と環境』(光文社新書)

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この記事の執筆は 医師 桐村里紗先生

【医師/総合監修医】桐村 里紗
医師

桐村 里紗

総合監修医

・内科医・認定産業医
・tenrai株式会社代表取締役医師
・東京大学大学院工学系研究科 バイオエンジニアリング専攻 道徳感情数理工学講座 共同研究員
・日本内科学会・日本糖尿病学会・日本抗加齢医学会所属

愛媛大学医学部医学科卒。
皮膚科、糖尿病代謝内分泌科を経て、生活習慣病から在宅医療、分子整合栄養療法やバイオロジカル医療、常在細菌学などを用いた予防医療、女性外来まで幅広く診療経験を積む。
監修した企業での健康プロジェクトは、第1回健康科学ビジネスベストセレクションズ受賞(健康科学ビジネス推進機構)。
現在は、執筆、メディア、講演活動などでヘルスケア情報発信やプロダクト監修を行っている。
フジテレビ「ホンマでっか!?TV」には腸内環境評論家として出演。その他「とくダネ!」などメディア出演多数。

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著作・監修一覧

  • ・新刊『腸と森の「土」を育てるーー微生物が健康にする人と環境』(光文社新書)
  • ・『日本人はなぜ臭いと言われるのか~体臭と口臭の科学』(光文社新書)
  • ・「美女のステージ」 (光文社・美人時間ブック)
  • ・「30代からのシンプル・ダイエット」(マガジンハウス)
  • ・「解抗免力」(講談社)
  • ・「冷え性ガールのあたため毎日」(泰文堂)

ほか