皆さま、こんにちは。
医師で予防スペシャリストの桐村里紗です。

「妊娠」にとって、このコロナ禍という社会状況は、極めて厳しいなぁと考えている今日この頃です。
生殖と妊娠は、「安心・安全」な環境の中で初めて成立するものですが、今は、自律神経が「危険」とアラートを鳴らす状況です。

「安心・安全」を確保して、愛と遊びの中で妊娠を実現するには?

1.妊活に愛と遊びを

1-1.妊活が苦痛になる不妊治療

不妊ストレスで夫婦関係が悪くなる

不妊治療に通う人にとっては、妊娠は難しいもの。
愛し合っている夫婦なのに授からないことはとても辛いですし、治療に通えば通うほど、心身も疲弊し、夫婦関係も悪くなっていくことはよくあります。

妊活外来を受診してくださる方の多くが、妊活が苦しくなって辛くて辛くて、その想いを誰にも話すことができずに悩み、まず、泣くことから始まります。
心身に蓄積したネガティブな感情と凝り固まった筋肉を緩め、「ホッ」と一息つく為に、まず涙を流すということはとても大切です。

2.ストレスは妊娠を遠ざける

不妊ストレスを抱える女性

ストレスは、妊娠を遠ざけます。

生殖行動とそれに伴う性ホルモンは、ストレス状況下では抑制されてしまうからです。
それは、自律神経に関わっています。
自律神経は、外的な環境に心身を最適化して、全身を常にコントロールする神経です。

野生動物について考えてみてください。
ライオンが襲いかかってくる状況で、シマウマは悠長に生殖行動ができるでしょうか。
それよりも、逃げる方が優先です。
生殖器に行くはずの血流を、逃げる為に必要な筋肉や心・肺に回します。

ライオンが襲いかかってくる状況とは、人間にとって、ストレスです。
今この状況では、ちょっとスーパーに出かけるだけで「ウイルスに感染するかも知れない」という危機意識からアラートが鳴ります。

テレビをつければ不安なニュースばかりが目に飛び込んできます。
心身にとっては戦時中と同じようなもので、生存することに一生懸命です。

それほどのストレス状況に今、私たちは置かれていますから、生殖器や性ホルモンの機能は低下しても仕方ありません。

2-1.ストレスが女性ホルモンの分泌を抑制する

ストレスに対抗するホルモン・コルチゾールと、女性ホルモン・エストロゲンは、同じ原料でできています。
肝臓で作られるコレステロールを原料に、副腎ではコルチゾール。卵巣では、エストロゲンが作られます。

ストレス状況下では、ストレスと闘うことを優先しますから、コルチゾールの産生を増やし、その代わり、エストロゲンの産生を抑制します。
ストレス状況が続いている今は、長期的にエストロゲンの分泌が減ってしまうことになりかねません。
子宮・卵巣への血流も抑制されますから、機能も落ちてしまいます。

2-2.危機的状況での自律神経の働き

コロナ禍 マスクとウイルス

自律神経には、活動時やストレス状況下に戦ったり逃走したりする時に活発になる「交感神経」と「副交感神経」があるのはよく知られています。

最近の新しい自律神経の理論では、実は、この副交感神経が2つに分類されることがわかりました。

1つは、社会的関わりやコミュニケーションに関連する副交感神経①(腹側迷走神経複合体)。
もう1つは、腹部の臓器の働きや内臓感覚、腸内フローラとの関わりに関連する副交換神経②(背側迷走神経複合体)。

実は、副交感神経①が、指揮者のような役割をして、交感神経と内臓を支配する副交感神経②が状況に応じてモードを切り替える為に不可欠だということがわかりました。

2-3.愛と遊びをするには安心安全が不可欠

不妊ストレス 愛と遊び

副交感神経①は、今いる環境が、安全か危険かを判断します。
「安心安全」な環境であれば、この神経は指揮者の役割を果たして、自律神経がハーモニーを奏でます。

安心安全な環境では、交感神経が働けば、ワクワクするような冒険や遊びの活動モードとして働きます。
副交感神経②は、リラックスした愛のモードとして働きます。愛する夫婦がじっと寄り添い抱き合っている時、このモードになります。

愛と遊びのためには、副交感神経①が、この環境は、「安心安全」と認識することが大切です。
でも、この社会的状況は、「危機」ですから、上手く働きません。

2-4.戦って防衛する交感神経

「危機」が襲ってきた時に、戦ったり、逃げたりして、環境を変化させる力があるのは、交感神経です。
ストレスがかかった時に、立ち向かう、または、そこからダッシュで逃げる時には交感神経が働きます。

この時には、生殖行動や性ホルモンは抑制されています。
ただ、まだストレスは感じながらも、「がんばらなきゃ!」と立ち向かうことはできる時期です。

2-5.さらに深刻なフリーズモード

ストレスでフリーズした女性

さらに、その危機が長期化すると、「もはや、環境は変えられない」と悟ります。
すると、今度は、「フリーズ」してしまいます。

副交感神経②が過剰に働くと、心身膠着状態となり、フリーズしてしまいます。
これを、新しい自律神経の理論では、「トラウマ」と呼んでいます。
「死んだふり」をして危機を回避するオポッサムという動物がいますが、それと同じ働きです。

このコロナ禍が長期化している今は、まさにこのフリーズモードとなるリスクがあります。
副腎疲労や過敏性腸症候群などが体に現れている人はこのモードになっています。
一度フリーズしても、野生動物は簡単に切替えができますが、複雑な人間はそうもいきません。

この状態のままだと、妊活へのやる気も体力もなくなり、抑うつ気分となり、低空飛行のまま辛く苦しい日々を過ごすことになってしまいます。
「もう頑張れない・・・」となります。

3.愛と遊びの中で楽しく妊活をするには?

では、どうやったら、自律神経の指揮者・副交感神経①が、安心して指揮棒を振り、交感神経と副交感神経②をバランスよくハーモニーを奏でることができるのでしょう。

安心・安全な環境や状況を作ることが重要です。

3-1.自律神経のプログラムは幼少期から決まる

赤ちゃんとママのスキンシップ

幼い頃、赤ちゃんは、五感を通して、母親に触れ、母親のにおいをかぎ、声を聞き、目を合わせ、おっぱいを味わいながら、大きな愛で包まれることによって、「この世界は、安心で安全な環境だ」と確認します。
ここで、健全に指揮者役が世界を認識できるようになります。
そして、「自分は価値がある存在だ」と自己肯定感が高まります。

逆に、この時期に十分に母親の愛を五感で確認できないと、指揮者役がうまく世界を認識できず、「危険」と判断し、ストレスやトラウマのモードになりやすくなります。
そして、「自分は価値のない存在だ」と、自己肯定感が低くなります。
さらに、触れ合いによって分泌される愛情ホルモンと呼ばれるオキシトシンの分泌も低下します。

オキシトシンは、母親にとっては母性を司り、分娩期や授乳期に高まります。
オキシトシンは、密着した愛情と安心感の中で育まれ、心を安定させ、ストレスホルモンを抑制する働きもあります。

養育環境は今から変えることはできませんが、この幼少期のプログラミングで、自律神経が危機に強いか弱いかが決まってしまいます。

今は、全員が危機的な環境におかれていますが、緊張しやすい人、フリーズしやすい人は、余計にケアが必要です。

3-2.スキンシップ・スローセックスを日常に

そこで、最も良いのは、パートナーとのスキンシップやスローセックスです。
もし、パートナーが協力的であれば、マッサージオイルなどを使って、優しく触れながら全身をマッサージしてもらうと最高です。

女性は、前戯で十分に五感を開くことで心身が緩んでいきます。
触覚から、そして相手の体臭をかぎ、キスをして味わい、耳元で愛の言葉をささやき、とろけるように見つめ合う。
五感をフル活用して、安心安全で愛されていると感じることがとても大切です。

そして、セックスにおいては、女性の場合、子宮腟部にある性感帯が、交感神経の緊張を解くポイントになります。
この部分で感じることで、心身がリラックスして、ストレスのリリースになります。

本当に心地よいスキンシップやセックスは、究極の癒しなのです。

3-3.セックスを妊活のための儀式にしない

セックス

セックスを妊活のための排卵期の儀式にしてしまうことはお勧めしません。
すると、どんどんと、この愛の行為が、ノルマになり、特に男性側の気分が下がります。
受け入れる側の女性と比べ、男性には興奮が必要ですが、ノルマとなり苦痛となると、上手くいかなくなります。
逃げたくなって当然です。

もし、まだリカバリーできるのであれば、排卵期に関係なく、触れ合い、愛し合い、リラックスできるセックスにトライしてみましょう。
相手と愛を確かめ合う行為でもありますし、自分自身の最高のストレスリリースにもなります。

体外受精や人工授精が必要な段階になっていても、妊活とは関係なく、パートナーとの日常の営みとして習慣化することは、子宮の血流をよくして機能を改善することにつながります。せっかく受精しても、それが着床するためには子宮の機能が不可欠です。

さらに、心身の健康にとってとても良いので、メリットがたくさんあります。
もし、パートナーとの関係がセックスレス状態で、またセックスを始めることが難しい場合、優しく触れ合ったり、抱き合ったりするだけでも構いません。

3-4.安心安全な環境に出かけて自然と一体になる

不妊ストレス 自然の中でリフレッシュする夫婦

もし、あまりにも触れ合いやセックスとかけ離れていて、今更再開するにはハードルが高すぎるのであれば、自然の中に出かけて、安心安全な環境で遊ぶことをお勧めします。

森や川、海など自然の中で、自然と一体になるということは、自律神経が、「安心安全」という感覚を取り戻すことでもあります。
家庭菜園などを始めて、土と触れ合うのも良いでしょう。

とにかく、閉じこもらずに、自然や土に触れられるところに出かけて、そこに身を置いて一体化してみること。

3-5.冒険が視野を広げて心と体を解放する

妊活のために基礎体温を測り、排卵に合わせて全集中してスケジュールする毎日を一旦ストップして、まず、自分の心と体の解放のために、日常から離れて自然の中に出かけてみる。

遠くに旅行に行くのも良いでしょう。
日常の範囲にいると、意識の範囲も狭くなり、どんどんと縮こまってしまいます。

普段行ったこともないところ、遠くに旅行に出かける冒険が、心と体を解放し、狭窄していた視野を広げ、妊活しか見えない苦しい日々から解き放ってくれます。

そうして囚われがなくなり、愛と遊びが取り戻されることで、自律神経系が整い、自然に妊娠することも珍しくありません。

不妊ストレス 自然の中でリフレッシュする夫婦

今、妊活が苦しいな、と感じたら、愛と遊び。
まず、これに興じてみることをお勧めします。

この記事の執筆は 医師 桐村里紗先生

【医師/総合監修医】桐村 里紗
医師

桐村 里紗

総合監修医

内科医・認定産業医
tenrai株式会社代表取締役医師
日本内科学会・日本糖尿病学会・日本抗加齢医学会所属

愛媛大学医学部医学科卒。
皮膚科、糖尿病代謝内分泌科を経て、生活習慣病から在宅医療、分子整合栄養療法やバイオロジカル医療、常在細菌学などを用いた予防医療、女性外来まで幅広く診療経験を積む。
監修した企業での健康プロジェクトは、第1回健康科学ビジネスベストセレクションズ受賞(健康科学ビジネス推進機構)。
現在は、執筆、メディア、講演活動などでヘルスケア情報発信やプロダクト監修を行っている。
フジテレビ「ホンマでっか!?TV」には腸内環境評論家として出演。その他「とくダネ!」などメディア出演多数。

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著作・監修一覧

  • ・新刊『腸と森の「土」を育てるーー微生物が健康にする人と環境』(光文社新書)
  • ・『日本人はなぜ臭いと言われるのか~体臭と口臭の科学』(光文社新書)
  • ・「美女のステージ」 (光文社・美人時間ブック)
  • ・「30代からのシンプル・ダイエット」(マガジンハウス)
  • ・「解抗免力」(講談社)
  • ・「冷え性ガールのあたため毎日」(泰文堂)

ほか