こんにちは。
医師で予防医療スペシャリストの桐村里紗です。

気温が高くなると体臭の気になりだすこの季節。
生理現象だからお互い様であるとは言え、「臭ってないかな?」と心配になってしまう人も多いのでは?

体臭を気にして行っているその対策が、実は、健康を害したり、帰って悪臭の原因になるNGな対策かも知れません。

1.気になる体臭のNG対策

多くの人がやりがちなNG対策をご紹介しましょう。

1-1. NG対策1)汗をかかないように努力している

夏の汗臭NG対策 エアコン

汗臭の原因となる汗をかかないように努力しようとしていませんか?
制汗剤を使ったり、なるべく涼しい場所を選んで過ごしたり、動かないように努力したり。
でも、汗をかかないと、熱中症のリスクがあるばかりか、むしろ汗臭が悪化するリスクが!

汗腺の機能

汗腺機能が低下している人は、機能している汗腺が少なくなっています。そのため活動している汗腺に負担がかかり大粒の汗に。また、体に戻すべきナトリウムが血液に戻せないまま汗と一緒に排出されてしまいます。

1.汗をかかないと熱中症リスクに

そもそも、全身からかく汗は、体温調節のためにかくものです。
気温が高い季節に、汗を出すことによって体の熱を下げるために汗をかきます。
ですから、汗がかけない人ほど、熱がこもって熱中症になりやすいと言えます。

普段から屋外でよくスポーツをして汗をたくさんかいている人であっても、熱中症には注意が必要ですが、屋内に引きこもっている高齢者の方であっても、汗が上手くかけずに熱中症になります。

熱中症になりかけている女性

2.ニオイやすいベトベト汗は脱水症になりやすい

汗をかかないと、汗腺の機能が弱り、ミネラル分を多く含む塩っぱいベトベト汗をかくようになります。
汗が蒸発しにくく乾きにくいために、皮膚の上の常在菌を繁殖させやすくなり、常在菌が汗臭を発生させやすくなります。

さらに、蒸発しづらいので体温調節効果が弱いために、熱中症にもなりやすいですし、体に必須の塩分を失うと、細胞から水分が血管に流れ出てしまい、脱水症にもなりやすくなります。

ベタベタのしょっぱい汗をかく人は、汗臭リスクが高い上に、脱水症、熱中症になりやすいと言えます。

3.普段からサラサラ汗をかく習慣を

汗腺の機能が高い人が健康的にかく汗は、99%が水分です。

塩分をほとんど含まず、サラサラで、蒸発して乾きやすいので、常在菌が汗臭を発生させづらい。
体温調節もしやすく、熱中症リスクも下がる上、脱水症にもなりづらいのです。

普段から汗をかく運動習慣や入浴習慣をもち、サラサラ汗をかけるようになっておきましょう。
いざ、汗をかいたときにも、ニオイづらく熱中症・脱水症リスクも下がります。

1-2. NG対策2)頭が汗で匂うから、1日に何度もシャンプーで洗う

夏の汗臭NG対策 シャンプー

頭髪に覆われた頭は、高温多湿になる上に、フケがエサとなり、ニオイの原因となる常在細菌を発生させやすくなります。

40代の枕臭は、汗の中の乳酸を常在菌がジアセチルという成分に変え、それと皮脂の中の中鎖脂肪酸が結合して、発生する汗と皮脂の混合臭です。

ただ、夏場に汗をかき、何度も、洗浄力の高いシャンプー(高級アルコール系と呼ばれる一般的なもの、界面活性剤としてラウリル酸を含む)を使って洗うと、皮脂を取り過ぎ、乾燥を招き、逆に皮膚を守ろうとして皮脂分泌が高まり、頭がベタつき、ニオイやすくなる可能性があります。
酷い場合は、「脂漏性湿疹」となり、湿疹とフケが悪化する原因にも。

シャンプーを使った洗髪は、1日1回程度とし、後は、お湯で洗う湯シャンで十分です。
40度程度のお湯であれば、皮脂は溶け出して洗い流すことができます。

油分の多い整髪料を使っている場合でなければ、洗浄力の弱い、アミノ酸系のシャンプーに切り替えると良いですね。

1-3. NG対策3)アルコール消毒剤で体を拭き取る、アルコールを含む拭き取りシートを繰り返し使う

夏の汗臭NG対策 アルコールシート

最近、アルコール消毒が日常化していますね。
アルコールのスーッとする感覚が気持ち良いと、手だけでなく、体の汗を拭き取っているという話をチラホラ聞き、少々びっくりしています。

アルコールは、確かに、ニオイの原因成分を取り除きますが、同時に、皮膚を守る常在細菌と皮脂を取り除きます。

皮膚の潤いは、皮膚の常在細菌が皮脂を食べて分解し、スクワランやグリセリンなどの保湿成分を分泌し、それと汗をミックスした乳液を作っているために保たれています。

アルコールは、これらを取り除き、皮膚を乾燥させてしまいます。
すると、皮膚の常在菌のバランスが崩れて、皮膚がアルカリ性になり、皮膚の常在菌のバランスが変わり、病原性を発揮する細菌が繁殖しやすくなります。

アルコール消毒を繰り返すことで、皮膚が乾燥すると、角質層がめくりあがり、皮膚の深層に雑菌や病原菌が侵入しやすくなります。

乾燥は、皮膚を守る常在菌のバランスを変えてしまいますから、皮膚の健康にとって大敵です。
アルコール消毒は、感染対策で必要な時に最低限使用するものであり、全身に使って良いものではありません。

汗を拭き取るデオドラントシートも、殺菌成分を含まないものを使うことをお勧めします。

その後、保湿して乾燥を防ぐように心がけましょう。

1-4. NG対策4)汗をかいたら、消臭スプレーを使う

夏の汗臭NG対策 消臭スプレー

汗をかいてから消臭スプレーを使っても、すでにニオイ成分は発生しているので、周りに気づかれている可能性があります。

消臭スプレーも「予防」という発想で、汗をかく前に、臭う前に事前に振っておくと安心です。
先に衣服にスプレーをして、ニオイを分解、中和する成分が待ち構えておく状態にしておくことで、ニオイの発生を予防できます。

ちなみに、私自身は共生する微生物を大切にしたいと考えている立場です。
殺菌成分入りのものは、確かにニオイの原因となる細菌の繁殖を抑制しますが、殺菌成分を含まないニオイ成分を分解・中和するだけのタイプをお勧めしたいと思います。

消臭繊維を使ったインナーなどを着ておくのも安心です。

1-5. NG対策5)香料でカムフラージュする

夏の汗臭NG対策 香水

ニオイ成分とニオイ成分が合わさることで、「変調」と言って、思わぬニオイに変化することがあります。
場合によっては、「悪臭」になることもあると考えて下さい。

人の嗅覚は、複数のニオイ成分を同時に感知し、脳で感じています。
複数のニオイ成分が組み合わさった場合の感じ方として、

1.マスキング

強いニオイ成分があると、弱いニオイ成分を感じなくなる。
例えば、香水を振り、香料を強く感じる場合、体臭の悪臭を消す。

一方で、別の変化を起こすこともあります。

2.変調

複数のニオイ成分が組み合わさることで、A+B→Z に変化することもあります。

香水の香料と体臭のニオイ成分が合わさり、思わぬ悪臭になることも。

皮膚から発生するガスは、200〜300種類の複合臭であり、人の体内の代謝や皮膚の常在菌によって違うので、人それぞれです。
そのため、香料との相性も人それぞれであり、試してみないとわからないと言えます。

近年では、柔軟剤などに配合されている人工的な香料で、頭痛や不快感などに悩むケースがあり、「香害」と呼ばれています。

香りの快・不快の感じ方は、人それぞれであり、自分が好きな香りが他人に不快感を与えるだけでなく、不調の原因になる可能性もあるため、配慮が必要です。

夏の汗臭NG対策

嗅覚は、とても主観的な体験です。

自分が感じていなくても、周りの人が感じている場合。
自分は不快と感じても、周りの人は何も感じていない場合。
逆に、自分が「嫌だな」と思う体臭を、パートナーが「たまらなく好き!」などという場合もあります!

本来、体臭は、誰にでもあるものですし、人それぞれの個性を表現するものでもあります。

他人に不快感を与えてしまうこともありますから、配慮が必要な側面もありますが、「無臭でいなきゃダメだ!」と考えて潔癖になりすぎるのも不寛容ではないでしょうか。

健康に配慮しながら、「過ぎない」対策で、自分も周りも快適に過ごすことができると良いですね。

この記事の執筆は 医師 桐村里紗先生

【医師/総合監修医】桐村 里紗
医師

桐村 里紗

総合監修医

・内科医・認定産業医
・tenrai株式会社代表取締役医師
・東京大学大学院工学系研究科 バイオエンジニアリング専攻 道徳感情数理工学講座 共同研究員
・日本内科学会・日本糖尿病学会・日本抗加齢医学会所属

愛媛大学医学部医学科卒。
皮膚科、糖尿病代謝内分泌科を経て、生活習慣病から在宅医療、分子整合栄養療法やバイオロジカル医療、常在細菌学などを用いた予防医療、女性外来まで幅広く診療経験を積む。
監修した企業での健康プロジェクトは、第1回健康科学ビジネスベストセレクションズ受賞(健康科学ビジネス推進機構)。
現在は、執筆、メディア、講演活動などでヘルスケア情報発信やプロダクト監修を行っている。
フジテレビ「ホンマでっか!?TV」には腸内環境評論家として出演。その他「とくダネ!」などメディア出演多数。

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著作・監修一覧

  • ・新刊『腸と森の「土」を育てるーー微生物が健康にする人と環境』(光文社新書)
  • ・『日本人はなぜ臭いと言われるのか~体臭と口臭の科学』(光文社新書)
  • ・「美女のステージ」 (光文社・美人時間ブック)
  • ・「30代からのシンプル・ダイエット」(マガジンハウス)
  • ・「解抗免力」(講談社)
  • ・「冷え性ガールのあたため毎日」(泰文堂)

ほか