【医師解説】ウィズコロナの「消毒リスク」!? 常在細菌と共に健康になるシンバイオティクスとは?
皆さま、こんにちは。
医師で予防医療のスペシャリスト・桐村里紗です。
ウィズコロナ時代は、手肌や環境の殺菌消毒が日常化しています。
1種類の病原性ウイルス「新型コロナウイルス」を消毒するために行っているこの行為は、実は感染症を防ぐ代わりに、健康のリスクにもなっています。
人を取り巻く環境や、体は、本来、私たちの健康を保つために欠かせない、共生菌、常在細菌が隙間なく覆い、暮らしています。
特に、自分の腸内に定着する常在細菌が決定される幼児期までに、多様な微生物にある程度触れておくことは、免疫を養うためにも必要とされています。
この時代に、健康的に微生物と仲良くし、腸内フローラを含む常在細菌を養うために「シンバイオティクス」を“強く”お勧めします。
1.微生物と仲良くする「シンバイオティクス」
1-1.人の共生菌は1万種以上で人の細胞数より多い
「新型コロナウイルス」の悪目立ちによって、「微生物は悪者!」「微生物は怖い!」という考えが、社会に浸透してしまっているように見えます。
もちろん、病原性微生物は、人に感染症を引き起こしますが、これは、人を取り巻く環境にいる微生物の中では、「異端」であり「少数派」です。
目を開いて見える、私たちの環境には、「びっしり」と、人と共生が可能な多様な微生物に覆われています。床、机、壁、庭、布団、それに、体の表面や外と交通する口から腸までの消化管や膣から子宮、膀胱など。
人の体に共生する常在細菌の種類は、なんと1万種類以上と言われており、一人につき、100兆個以上が暮らしています。
人の細胞の数は、最近では、37兆個と言われており、それよりも細菌の数の方が多いのです。
彼らは、私たちを病原性の微生物から守り、体の働きをサポートしてくれる健康の要です。
1-2.微生物への恐怖は、人間不信と同じ!?
それなのに、たった一種類のウイルスのせいで、「微生物は敵だ!」「怖い!」「殺さなきゃ!」と考えてしまっていませんか?
それは、例えるならば、一人の人に酷い目に合わされて、「他人は全員酷い!」「全員敵だ!」と考えて頑なになっている人間不信と同じです。
実は、注意深く見渡すと、周りには、さりげなく、そして力強くサポートしてくれている人がほとんどなのに、それに気づいていない。
そんな状況に似ていると思います。
目を開き、心を開けば、しっかりサポートが受けられるはずです。
1-3.殺菌消毒は常在細菌も死滅させる
手肌を消毒する時、病原性のウイルスを無効化する代わりに、そこを守る皮膚の常在細菌まで消毒しています。
皮膚の常在細菌は、皮膚を健康的な弱酸性に保ち、皮脂を分解して潤い成分を作り、皮膚の健康や美しさを保つ働きをしています。
病原性の微生物の侵入を阻むガードマンの役割もしています。
1-4.幼児期までの微生物との触れ合いは必須
幼児期に環境の微生物と触れ合うことは、さらに重要です。
生まれてから概ね3歳から幼稚園児くらいまでに、自分自身に定着できる常在細菌の種類は決定してしまいます。
自分の免疫が、自分自身の体の外側を守り、体の働きに協力してくれる細菌を「味方」とみなし、攻撃しなくなります。
腸内細菌は、いわゆる善玉菌と呼ばれる種類が多ければ良いわけではなく、様々な個性を持った様々な種類が多様に暮らしている「ダイバーシティ」こそが健康であると以前にお伝えしました。
「ダイバーシティ」を作るには、幼少期に多様な細菌と触れ合う必要があるのです。
『腸内環境改善に最重要!若さと健康のカギは菌の「多様性(ダイバーシティ)」にあり【医師が解説】』
https://wellmethod.jp/diversity/
常在細菌の定着を左右するのは、次のような要因です。
1-4-1.母親からもらう
母の産道を通る時に最初に膣の中の乳酸菌を皮膚や口に取り込みます。
母乳を飲んだり、母親と触れ合うことで、母親の常在細菌をもらいます。
帝王切開や粉ミルク栄養だと、腸内細菌の正常な発達が起こらず、バランスが乱れることがわかっています。
1-4-2.両親や近親者からもらう
一緒に暮らす両親やおじいちゃんおばあちゃんとの触れ合いも関係します。
一緒に食卓を囲むことで、唾液の中の常在細菌を交換し合います。
1-4-3.環境からもらう
赤ちゃんは、環境の中にあるあらゆるものを舐め回します。
本来、これを「汚い!」と言って止めてはいけません。
赤ちゃんは、こうすることで環境の細菌をお腹に取り込んでいきます。
最近は、壁も床もカーテンもおもちゃも、あらゆるものが「抗菌」素材になっています。それは、本来は赤ちゃんの正常な腸内細菌の定着を阻み、免疫の発育を阻むことを、微生物の専門家は懸念しています。
1-4-4.食事からもらう
有用菌で発酵した発酵食品だけでなく、生の野菜やフルーツは、土壌の微生物を含んでいます。
滅菌された加工食品ばかりを与えていては、食事から有用菌を取り込むことがしづらくなります。
1-4-5.ペットからもらう
ペットの動物は、人よりもさらにたくさんの細菌を持っています。
多様な細菌と触れ合うことができるので、微生物学者は、子供が生まれたらあえてペットを飼うほどです。
1-4-6.抗生物質の使用は要注意
逆に、有用菌の定着を阻むのは、抗生物質の投与です。
幼い頃は、中耳炎や副鼻腔炎など多くの細菌感染症にもかかりやすいため、しょっちゅう抗生物質を使う必要がある場合もあります。
一方で、風邪はウイルスによって起こります。
ウイルスは、細菌とは違うため、抗生物質は効きませんが、慣例的に、小児科では、風邪でも重症化を防ぐためと言って抗生物質を投与してきた歴史があります。
本来は、細菌感染が起きた場合に使用する薬剤です。
不適切な使用方法をすることで、抗生物質が効果を発揮できない「耐性菌」を増やすリスクにも繋がるため、厚生労働省も注意喚起をしています。
抗生物質の投与によって、常在細菌までダメージを受けてしまい、フローラのバランスが崩れてしまいます。抗生物質を内服した後には、しっかりと食事から有用菌を補うプロバイオティクスや有用菌を育むエサであるプレバイオティクスを摂って、常在細菌を回復させないと、一生涯の腸内フローラのバランスに影響し、不調や病気に悩まされることになります。
1-5.小学校以降は有用菌を摂取しても定着はしない
幼児期以降、いかに、「乳酸菌」「ビフィズス菌」などの”善玉菌”が入った発酵食品を取ろうとも、定着はできません。
ですから、お子さんがまだ小さいご家庭は、幼児期までが「キモ」であり、一生を左右すると考えてください。
それ以降、口から入った有用菌は、数日で通過して排泄されることになります。
効果を発揮しないという意味ではありません。
常在細菌に対して、これを「通過菌」と言いますが、常在細菌と協力して通過する間は効果を発揮してくれます。
1-6.衛生的過ぎる環境がアレルギーや自己免疫疾患を増やす?
都市の衛生化は、感染症のリスクを減らす一方で、現代病であるアレルギーや自己免疫疾患を増やすと考えられています。
これを「衛生仮説」と言います。
本来、人と共生してきた細菌やウイルス、寄生虫との接触が減ることで、免疫が暴走して過剰反応をし、これらの病気が増えていくと考えられています。
さて、現在は、環境や手指をアルコール消毒することが習慣化されています。アルコール消毒のたびに、環境の共生菌や常在細菌までを殺菌しているというわけです。
新型コロナウイルスの媒介は、手にウイルスを付着させた人が、モノに触り、モノから他人の手へ・・という形で起こっていることが分かっているため、この時代に殺菌消毒はやむなしと考えざるをえません。
ただし、「微生物は敵だ!」と考えず、いかに、この時代に健康的に多様な微生物と触れ合い、仲良くするかを考えていきたいのです。
1-7.「アンチ」から「シンバイオティクス」へ
医学の世界では、抗生物質のことを「アンチバイオティクス」と言います。
「アンチ(Anti-)」は、「抗う」「戦う」を意味し、「バイオティクス」は、「微生物」を意味します。
さらに発展すると、「微生物は敵だ!」と考えるのも、「アンチバイオティクス」です。
こう考えると、環境は敵だらけ!恐怖の世界になってしまいます。
一方で、医学の世界でも、常在細菌について解明されてから、実は、「ほとんどは味方だった!」と、「シンバイオティクス」にシフトしました。
「シン(Syn-,Sym-)」は、「共に」を意味し、シンフォニー(交響)やシンパシー(共感)などに使われます。
微生物と共に生きることこそが、健康に摂って不可欠と考えられるようになり、私たちの環境はほとんどが調和的に共存可能な平和な世界に変わった、はずだったのです。
ところが、新型コロナウイルスの影響で、殺菌消毒が日常化してしまいました。
共生可能な細菌まで一網打尽にする殺菌消毒は、「アンチ」な大量破壊兵器のようなモノですが、これを泣く泣く使わざるを得ない状況になっています。
この時代に、健康的な「シンバイオティクス」を実践するには、どうしたら良いでしょう?
2.ウィズコロナ時代の「シンバイオティクス」
ウィズコロナ時代に、健康的に微生物と触れ合い、腸内細菌を育むために、食事の価値がより高まってきます。
食を通して、安全に微生物と触れ合うために、シンバイオティクス食品を摂取することをお勧めします。
2-1.シンバイオティクス食品を摂取する
シンバイオティクス食品とは、生きた有用菌を含む発酵食品などの「プロバイオティクス食品」と、定着している腸内細菌を育むエサとなる「プレバイオティクス食品」の両者を組み合わせて摂取することです。
2-1-1.プロバイオティクス食品
様々な発酵食品を意味します。
伝統的な発酵食品には、ビフィズス菌・乳酸菌・酢酸菌などの有用菌や麹カビ、酵母などが含まれます。
それだけでなく、生の野菜やフルーツにも土壌菌が付着しています。
りんご1個に1億個もの土壌菌が含まれており、有機農法のりんごの方が微生物多様性が豊かであるとの研究もあります。
(Front. Microbiol., 24 July 2019)
成人では、胃酸が強いために、生きて腸まで届く有用菌以外は、殺菌された状態でしか腸に届きませんし、腸内に暮らすことを許された種類以外は、定着しません。
でも、胃酸が弱い幼児期までであれば、殺菌されずお腹に入り、常在細菌として定着する可能性もあります。
加熱調理だけでなく、生の野菜やフルーツも取り入れてみましょう。
ただし、離乳食の段階では、酵素の多い生のフルーツを食べるタイミングが早すぎるとアレルギーを誘発する懸念があります。
開始を焦らず、離乳食のマニュアルや有識者の指導に則り様子を見ながら、少しずつ始めて下さい。
2-1-2.プレバイオティクス食品
定着している腸内細菌を育むには、そのエサであるプレバイオティクスを同時に摂ることが重要です。
プロバイオティクスとプレバイオティクスは両方大切ですが、プロバイオティクスを摂取しても定着しない年齢では、プレバイオティクスが最優先と考えてしっかり摂りましょう。
食物繊維を含む海藻や野菜、豆類、雑穀類、果物など。それから、小腸で消化されない糖であるオリゴ糖。もちもちしないポソポソのお米やじゃがいも、タピオカなどに含まれるデンプンが冷えてできる難消化性デンプン(レジスタントスターチ)などです。
最近では、大豆や蕎麦、酒粕などに含まれる難消化性タンパク質(レジスタントプロテイン)も、プレバイオティクスとして働くことが分かっています。
主に植物性の食品ですから、これらをしっかりと食べましょう。
詳しくは、『腸内細菌が健康を左右する! 腸を整える“シンバイオティクス”という食事法のすすめ』
https://wellmethod.jp/intestinal_bacteria/
ウィズコロナ時代は、健康的に腸内フローラを養うことがより重要になります。
特に、小さなお子さんをお持ちの方は、「シンバイオティクス食品」を意識して、食生活をより大切に考えていきたいですね。
この記事の執筆は 医師 桐村里紗先生

桐村 里紗
総合監修医
・内科医・認定産業医
・tenrai株式会社代表取締役医師
・東京大学大学院工学系研究科 バイオエンジニアリング専攻 道徳感情数理工学講座 共同研究員
・日本内科学会・日本糖尿病学会・日本抗加齢医学会所属
愛媛大学医学部医学科卒。
皮膚科、糖尿病代謝内分泌科を経て、生活習慣病から在宅医療、分子整合栄養療法やバイオロジカル医療、常在細菌学などを用いた予防医療、女性外来まで幅広く診療経験を積む。
監修した企業での健康プロジェクトは、第1回健康科学ビジネスベストセレクションズ受賞(健康科学ビジネス推進機構)。
現在は、執筆、メディア、講演活動などでヘルスケア情報発信やプロダクト監修を行っている。
フジテレビ「ホンマでっか!?TV」には腸内環境評論家として出演。その他「とくダネ!」などメディア出演多数。
- 新刊『腸と森の「土」を育てるーー微生物が健康にする人と環境』(光文社新書)』
- tenrai株式会社
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著作・監修一覧
- ・新刊『腸と森の「土」を育てるーー微生物が健康にする人と環境』(光文社新書)
- ・『日本人はなぜ臭いと言われるのか~体臭と口臭の科学』(光文社新書)
- ・「美女のステージ」 (光文社・美人時間ブック)
- ・「30代からのシンプル・ダイエット」(マガジンハウス)
- ・「解抗免力」(講談社)
- ・「冷え性ガールのあたため毎日」(泰文堂)
ほか