皆さま、こんにちは。
医師で予防医療のスペシャリスト・桐村里紗です。

腸活と言えば、「ヨーグルト食べてればいいんでしょ?」という質問を、一般の方やメディア取材の担当者の方々からよく頂きます。

日本では、「腸活=ヨーグルト」というイメージが強烈に根付いていますが、これは、乳業メーカーのCMを見ることで、視聴者に「腸活」「腸内フローラ」「腸内環境」などのキーワードがインプットされているからのようです。

これまでの食生活を全く変えないで、ヨーグルトをプラスしたらOK!なんて、お気楽過ぎます。乳業メーカーも、そんなことは言っていないはず。

「腸内環境」は、「環境」ですから、環境全体を改善しないことには意味がありません。

腸内環境は、食生活によって決まりますが、それにはポイントがあります。

予防医療・ヘルスケアに意識が高いアメリカのスーパーマーケット・サプリメント売り場では、「腸活」のためのプロダクトが機能的にラインナップされています。

アメリカの腸活事情にも触れながら、ポイントをお伝えしたいと思います。

1.アメリカの最新腸活事情

どのスーパーマーケットでも、サプリメントコーナーが広い面積を占めているアメリカですが、腸活関連の棚は極めて充実しています。
ヘルシー志向の高まりから、おやつや飲料の売り場にも腸に嬉しい製品がたくさん並んでおり、日常から楽しく腸活ライフを送ることができます。

2.有用菌をそのまま摂るプロバイオティクス

プロバイオテクス

まず、冷蔵コーナーには、腸内で善玉菌として働く有用菌を生きた状態で腸まで届けるタイプのサプリメントが多数並んでいます。

有用菌そのものを摂ることができる食品のことを「プロバイオティクス」と言います。サプリメントだけでなく、ヨーグルトなどの発酵食品もこれに当たります。

2-1.生菌を腸まで届けるメリット

有用菌の多くは、胃酸の強すぎるpHで殺菌されてしまい、生きたまま腸まで届くことができませんが、「LIVE ACTIVE=生菌」タイプのサプリメントの多くは、生きたまま腸まで届けるような工夫がしてあります。

死菌であっても、腸に入ることで仲間の腸内細菌が喜んで増えるエサになり、有効に働く為、必ずしも生きたまま腸に届ける必要はありませんが、生菌にはメリットがあります。

生菌として腸に入ることで、腸内で腸内環境を整える有機酸という酸を分泌し、有用菌が元気になる酸性環境に整えてくれます。

腸内で活躍する有用菌と言えば、ビフィズス菌や乳酸菌、酢酸菌、酪酸菌などです。

これらの菌は、一様に〇〇酸という有機酸を分泌する酸性環境が好きな菌です。

腸内細菌が作る乳酸、酢酸、酪酸、プロピオン酸などの有機酸は、「短鎖脂肪酸」とも呼ばれ、腸内を有用菌が暮らしやすい酸性環境にする上に、人の体内では、免疫系や代謝系に働きかけて人の健康にも役立ちます。

2-2.発酵食品で有用菌と有機酸を取り入れる

有用菌で発酵させた発酵食品を摂るメリットは、有用菌そのものを摂るプロバイオティクスとしての役割だけではありません。
発酵過程で、有用菌が分泌した有機酸を食品として取り入れることができます。

乳酸発酵したヨーグルトや日本の漬物、酢酸発酵したお酢などはいずれも有機酸が生成されているので酸っぱいのが特徴です。

ちなみに、ビフィズス菌も乳酸などを発生させる有用菌の一種です。

2-3.ヨーグルトコーナーの充実

ヨーグルト

日本には、漬物や納豆、味噌に醤油などの発酵食品が多数ある一方で、アメリカには伝統的な発酵食品がありません。
発酵食品といえば、ヨーグルトです。

ヨーグルトコーナーはとても充実しており、一般的な牛乳以外の代替ミルクを使ったものが棚を占拠しています。

・グラスフェッドミルク(一般的な穀物を与えられた牛ではなく牧草を食べる牛のミルク)
・山羊や羊のミルク
・アーモンドやカシューナッツなどのナッツ系のミルク
・ココナッツミルク
・オーツ麦などの麦系のミルク

これらの多くは、オーガニックなプロダクトです。

一般的な牛乳に残留する懸念のある抗生剤やホルモン剤への配慮、牛の乳たんぱく(カゼイン)の起こすアレルギーや腸の炎症への配慮、また人口の多いベジタリアン対応として市場が拡大しています。

アメリカで拡大する「カゼインフリー」「デイリーフリー(牛乳不使用)」の流れについては、今後ご紹介していきたいと思います。

2-4.発酵飲料コンブチャ人気の高まり

コンブチャ

以前の記事でもご紹介したように、酢酸菌と酵母で発酵させたヘルシー&ビューティードリンク「コンブチャ」は、セレブの間だけでなく、一般の人たちにも拡まっています。

プロバイオティクス食品として、有用菌と菌の産生した有機酸や各種の栄養素を含むのが特徴です。

コンブチャをさらに発酵させてアルコール濃度を高めた「ハード・コンブチャ」は、ヘルシーなお酒としても人気です。

▼コンブチャについて詳しくはこちら

米国セレブ愛飲の美容発酵飲料「コンブチャ」ダイエットやクレンズに?止まらぬ進化

3.有用菌を培養するプレバイオティクス

プレバイオテクス

発酵食品やサプリメントで、有用菌自体を摂ることを「プロバイオティクス」と呼ぶ一方で、腸内の有用菌のエサとなり培養することができる食品を「プレバイオティクス」と呼びます。

この食品の代表といえば、食物繊維=ファイバー!
とにかく、これが重要です。

忘れがちになりますが、実は、プロバイオティクスよりも優先すべきは、プレバイオティクスです。

3-1.優先事項は自分の腸内細菌を活性化すること

自分の腸内に定着することができる常在細菌の種類は、幼稚園児頃までに決まってしまうとされています。
ですから、サプリメントや発酵食品で善玉菌自体を、たとえ生きた状態で腸に入れたとて、それが自分の常在細菌とは違う種類であれば、まず定着できません。

それらは、「常在細菌」と比較して「通過菌」と呼ばれていますが、摂り入れると数日間。腸の中を通過する過程で、腸内の有用菌である常在細菌と連携する形で効果を発揮します。

ですから、メリットは十分にあります。

ただし、自分の常在細菌の中の有用菌を元気にして、人に対して「善玉」に働くバランスに変えることこそが、腸活の一番最初にやるべきこと。

つまり、まずは、食物繊維をせっせと摂りましょう!

3-2.食物繊維・ファイバーは食べ物に混ぜて

食物繊維やファイバー

腸活用のサプリメントコーナーには、プロバイオティクスだけでなく、プレバイオティクスであるファイバーが並んでいます。

これらはパウダー状になっており、ヨーグルトやスムージー、スープなどの食べ物にミックスして食べるのが一般的です。

アップルファイバーやココナッツファイバー、穀物系のファイバーなどが原材料で、それらがミックスされたものもあります。

3-3.ファイバーはエサとなり寝床となる

ちなみに、食物繊維には2種類あります。

・非水溶性(難溶性)食物繊維
・水溶性食物繊維

これらは、役割が違いますが、いずれも、腸内細菌を育む重要な役割をします。

3-3-1.非水溶性(難溶性)食物繊維

腸の運動を活発にする為に、便秘がちな人には必須の栄養素です。
また、腸内細菌を育む寝床のような役割をします。

セルロース、ヘミセルロース、リグニンなどの非水溶性食物繊維が多く含まれる食品は、

・穀類(未精製のものに多く含まれる)
・豆類
・野菜類(ごぼうなど)
・微細藻類(クロレラ・スピルリナなど)

3-3-2.水溶性食物繊維

水溶性食物繊維は、人には消化されず吸収されない代わりに、大腸まで届き、腸内細菌の中でも有用菌全般の大好物のエサとなります。

これを食べた結果として、有用菌が分泌するのが、先ほどもお話しした酢酸、酪酸、プロピオン酸などの短鎖脂肪酸という有機酸です。

これらが、体内に入ることで人の免疫系や代謝系、時に脳機能にまで影響し、人の健康を保っています。

ペクチンやマンナン、アルギン酸などの水溶性食物繊維が多く含まれる食品は、

・果物(特にりんごや柑橘類、プルーンなど)
・イモ類
・野菜類(キャベツや大根など)
・海藻類(昆布やワカメなど)
・穀類(麦類)
・豆類

非水溶性、水溶性の食物繊維は、野菜や海藻類、穀類、豆類、イモ類などをバランスよく食べることでいずれも摂取することができます。
日々の食事からモリモリ食べることが大切ですね。

3-4.ハイ・ファイバーなヘルシースナックが人気

ベジチップス

おやつといえば、「不健康」で「我慢する」というイメージがつきもので、「罪悪感」が伴うものですが、最近では、「健康的」で「罪悪感がゼロ」なので「我慢しない」ものが人気です。

キーワードは、「#ギルドフリー(罪悪感ゼロ)」「#ヘルシースナッキング」です。

ジャガイモの代わりに、ケールやカリフラワー、ビーツなどの野菜や果物、玄米粉などを使ったスナック。

更には、以前に紹介したパレオダイエットにも対応した「#パレオフレンドリー」なプロダクトでは、キャッサバというハイ・ファイバーなイモやそれから作られるタピオカ粉などを使ったものが人気です。

フレイバーもたくさんあって、飽きずに美味しく食べられます。

3-5.コールドプレスよりスムージーをチョイス

スムージー

人気があるプロテインスムージーも、ファイバーリッチでプレバイオティクスが入っていることが明記されています。

よく、「コールドプレスジュース」と「スムージー」、どちらが健康的かと聞かれますが、腸活という観点なら、圧倒的にスムージーです。

コールドプレスジュースは、残念ながら低温圧搾機で搾る際に、食物繊維をこしてしまうので、食物繊維がゼロになります。

せっかくの腸内細菌のエサを捨てるなんて、「勿体無い!」というのが正直なところです。

ジュースクレンズをする際に、一時的にコールドプレスジュースを使うなら良いですが、日常的にはファイバーリッチなスムージーの方がお勧めです。

4.シン・バイオティクスで有用菌と仲良く

さて、「腸活=ヨーグルト」ではないということがお分り頂けたでしょうか。

ポイントは、日々の食事からプロバイオティクスとプレバイオティクスを両方摂ることです。

生活に応用できるようにおさらいをしましょう。

4-1.プロバイオティクス食材

有用菌そのものを摂ることができる食品のことです。

・発酵食品
・有用菌のサプリメント:乳酸菌・ビフィズス菌・酪酸菌などを配合したもの

発酵食品は、ヨーグルトだけではありません。

日本にはたくさんの伝統的な発酵食品があります。
漬物(ぬか漬けなど)、納豆、味噌・醤油などの発酵調味料の他、全国各地の伝統的な発酵食品がたくさんあります。

発酵食品は、先人の知恵であり、スーパーフードです。

4-2.プレバイオティクス食材

有用菌を育む食品のことで、主には食物繊維です。

野菜や海藻類、穀類、豆類、イモ類をバランスよく食べましょう。

食物繊維の摂取目標量は、成人男性が1日20g以上、女性が18g以上とされていますが、現代人はこの半分以下しか摂れていないとされています。

食物繊維が不足した食生活を送りながら、ヨーグルトだけ追加しても全く意味がありません。

難しく考えなくとも、おしゃれじゃなくとも構いません。

朝は、白いパンとスクランブルエッグにベーコンのようなアメリカンブレックファーストではなく、納豆ご飯にワカメの味噌汁といった和食にする。

白いご飯に、雑穀を混ぜてみる。

おやつをクッキーではなく、ふかし芋にする。

こんな素朴な工夫で、弱っていた腸内細菌が元気になります。

4-3.シンバイオティクスで有用菌と共生を

プロバイオティクスとプレバイオティクスを合わせて、シンバイオティクスと言います。

「シン」とは、シンフォニーとかシンパシーという単語にも使われ、「共に」という意味です。

この対義語は、「アンチ」。
「争う」「戦う」という意味です。

アンチバイオティクスとは、医学用語で、抗生物質(菌を殺す薬)を意味します。

病原菌と戦う為に、治療としては必要な抗生物質ですが、これらを使うことで腸内細菌などの常在細菌にもダメージを与えているのも事実です。

最近の研究では、環境にいる99.9%は、病原性はなく、人とも共生できる菌であることが明らかになっています。

腸内細菌を含めた人と共生する常在細菌も、元々は自然環境にいる菌と同じ種類です。

有用菌と共に生きるシンバイオティクスを意識することは、私たちが健康を維持するだけでなく、他の生物と調和しながら持続可能な地球を維持する為に、とても大切な考え方だと思います。

「新型コロナウイルス」の影響で、病原性のウイルスだけでなく、「菌は怖い!」「微生物は悪者!」という誤ったイメージが流布していることを危惧する今日この頃。

今こそ、私たちと共生する常在細菌を大切にする生き方を見直してみたいと思うのです。

この記事の執筆は 医師 桐村里紗先生

【医師/総合監修医】桐村 里紗
医師

桐村 里紗

総合監修医

・内科医・認定産業医
・tenrai株式会社代表取締役医師
・東京大学大学院工学系研究科 バイオエンジニアリング専攻 道徳感情数理工学講座 共同研究員
・日本内科学会・日本糖尿病学会・日本抗加齢医学会所属

愛媛大学医学部医学科卒。
皮膚科、糖尿病代謝内分泌科を経て、生活習慣病から在宅医療、分子整合栄養療法やバイオロジカル医療、常在細菌学などを用いた予防医療、女性外来まで幅広く診療経験を積む。
監修した企業での健康プロジェクトは、第1回健康科学ビジネスベストセレクションズ受賞(健康科学ビジネス推進機構)。
現在は、執筆、メディア、講演活動などでヘルスケア情報発信やプロダクト監修を行っている。
フジテレビ「ホンマでっか!?TV」には腸内環境評論家として出演。その他「とくダネ!」などメディア出演多数。

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著作・監修一覧

  • ・新刊『腸と森の「土」を育てるーー微生物が健康にする人と環境』(光文社新書)
  • ・『日本人はなぜ臭いと言われるのか~体臭と口臭の科学』(光文社新書)
  • ・「美女のステージ」 (光文社・美人時間ブック)
  • ・「30代からのシンプル・ダイエット」(マガジンハウス)
  • ・「解抗免力」(講談社)
  • ・「冷え性ガールのあたため毎日」(泰文堂)

ほか