皆さま、こんにちは。
医師で予防スペシャリストの桐村里紗です。

新著『腸と森の「土」を育てるーー微生物が健康にする人と環境』(光文社新書) がご好評をいただいております。新しい時代を生きるヒントになれば幸いです。

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今、世界は大変な危機に直面しています。
そんな時に、「常に前向きでいなきゃ」「頑張らないといけない」「泣き言を言ってはいけない」などと、ポジティブに頑張っている方もおられるでしょう。

でも、このような時代に、常に、ポジティブでいることができるでしょうか?

常にポジティブであることが、むしろ、自分の毒になる「トキシック・ポジティビティ」と言う心理用語があります。
無理なポジティブ思考は、自分の心身を逆に傷つけてしまうかも知れません。

1.有毒なポジティブ思考とは何か?

トキシック・ポジティビティ 有毒なポジティブ思考

有毒なポジティブ思考(トキシック・ポジティビティ)とは、どんなに辛く困難な状況であっても、常に、前向きな考え方を維持する必要があるという、頑なな信念と言えます。

楽観主義であったり、常にポジティブに物事に立ち向かっていくことは、良い点もありますが、逆に、成長を妨げたり、自分のネガティブな感情を抑圧することで心身の負担になったりします。

自分の良い面ばかりを他人にみせて、ダークサイドを封印することで、他人と表面的な人間関係しか築くことができないかも知れません。

辛いものは、辛い。
それは、人間として当然です。
こんなにも不安定で混乱した時代に、どうやってポジティブを貫くことなどできるでしょうか?

1-1.ポジティブは当然大切だけど…

トキシック・ポジティビティ 有毒なポジティブ思考

人生に対してポジティブであることはとても大切な姿勢です。
前向きに進むことで、困難を乗り越えることができます。

世界をネガティブに捉える人よりも、ポジティブに捉える人の方が、当然の如く、同じ状況でもご機嫌でいられますし、「できない」「無理だ」という弱音を吐くよりも「できる」「絶対に大丈夫だ」と言える精神性は、確かに強いと言えます。

ただし、問題は、人生が常にポジティブであるとは限らないということです。
人生は、七転び八起き。
様々な困難がやって来るものです。
その際に、誰しもが、痛みを伴う感情が湧き起こります。

怒り、不安、恐怖、嫉妬など、ネガティブな感情はとても不快ですし、他人にもみせたくないものです。
でも、それらのネガティブな感情が出ることを否定したり、無かったことにしてポジティブに上書きするのではなく、素直に感じて、受け止める方が健康的です。

トキシックなポジティブ思考は、こうしたネガティブな感情が自分の中にわき起こることを認めず、他人に見せないだけではなく、自分の中でも無かったことにして無視してしまいます。

それが、トキシック、つまり有毒になってしまいます。

2.有毒なポジティブ思考の傾向

トキシック・ポジティビティ 有毒なポジティブ思考の女性

例えば、

1.自分は常にポジティブでネガティブな感情を感じることはない
2.自分の本当の気持ちを他人に伝えるのが苦手だ、隠そうとする
3.泣き言を言うことはよくないことだと思う
4.ネガティブな感情に罪悪感を覚える
5.自分の感情を認識することが苦手だ
6.問題に直面するよりも、無かったことにしようとする
7.ポジティブでない人に対して否定的な感情がある

思い当たる節があれば、注意が必要と言えるでしょう。

家族の死や大きな挫折など、辛い出来事に直面したときに「前向きにならなきゃダメだ」「良い面だけをみよう」などと、その出来事にまつわる感情と向き合うことや感情を出すことを封印していませんか?

せっかく手を差し伸べようとしてくれる周りの人に対して、弱みを見せて、涙を流してネガティブな感情を出す代わりに、「全然大丈夫!平気平気!」と、笑顔で切り返していませんか?

3.有毒なポジティブ思考が自分を傷つける

トキシック・ポジティビティ 有毒なポジティブ思考が自分を傷つける

自分のネガティブな面を他人に見せたくない場合、人は、仮面を被ります。
まるで、ピエロのように、笑っているのに、心の中では泣いている。
その笑顔の仮面の裏に隠れた本当の自分を否定してしまうことになります。

怒り、悲しみ、不安、恐れ、嫉妬などの感情は、誰しもにわき起こるものですが、これが否定されると、体の奥深くに埋もれてしまいます。

以前に、失感情症について書きましたが、有毒なポジティブ思考の場合、ネガティブな感情に対して失感情である可能性があります。

抑制された感情は、無くなったわけではなく、自分の中に蓄積します。
それは、自律神経系や内分泌系を通して、心身に影響し、不安神経症、うつ病、パニック障害、そして、身体的な病気になって現れる可能性もあります。 

体と心は、自律神経系や内分泌系などによって、双方向のネットワークを形成しています。
ですから、失った感情は、どこかの体の不具合として現れている可能性があります。

何かの感情を抑制しても、体の一部がぐっと硬くなったり、反応します。
それが持続することで、その部分に不具合が起きてしまうのです。
単純な肩こりや腰痛にも、抑圧された感情が隠されている可能性があります。

4.有毒なポジティブ過ぎる言葉が人を傷つける

また、辛い経験をした人に対して、「何とかなるさ、元気出して、明るく行こう」などと励ますことも、有毒なポジティブ思考を押し付けることになってしまいます。

アメリカのTHE PSYCHOLOGY GROUPによると、こんな有毒なポジティブ過ぎる言葉が、他人を傷つけるとしています。

トキシック・ポジティビティ 有毒なポジティブ思考の言葉

THE PSYCHOLOGY GROUP公式サイトより引用・意訳

このような言葉は、実際に耐えがたい困難な時期を経験している人に害を及ぼす可能性があります。

トキシック・ポジティビティ 有毒なポジティブ思考ではなく受け入れる

そんな人に必要なのは、今感じているリアルな感情を共有し、無条件にサポートを得ることです。
そんな感情がを否定されたり、無視されたりすることで、心を開くことができなくなってしまいます。

困難に直面している人には、安心・安全な場で、そのネガティブな感情を認め、受け入れてもらい、そして、解放することが必要です。

経済的な問題、失業、病気、愛する人の喪失などの辛い状況に直面している人にとって、「人生のポジティブな面をみて、前向きに行こう!」などと励まされても、どうしようもありません。

「辛いものは、辛い!」
これは、人間として当然です。

ネガティブな出来事も感情も一通り経験し、苦しんだ末に、ようやく、その経験を糧に、人は次のステージで成長していきます。

この段階になって、後から振り返って、「ネガティブな出来事も、自分にとってためになった」ということができるものですが、苦しみの渦中には、そんな余裕はありません。

私の母親は、私が小さい頃から難病で苦しんでおり、家はずっとカーテンがひかれ、母は一晩中辛い症状に苦しみ、一睡もできない日々を送っていました。

その最中、母は私には明るい顔を見せていましたが、夜中に遺書を書くなど、かなり追い詰められていました。
そんな時に、誰かに「明るい面もある」などと励まされても、逆効果だったと思います。

今でこそ、それがきっかけとなり、私が医師となり、今皆さんにこうしてそうした経験を踏まえて情報をお伝えできていることは、ポジティブに転換できたと言えると思います。

でも、それは、後から振り返ってなのであって、その渦中にはそれどころではないのですから。

5.有毒なポジティブ思考を回避するには

5-1.ネガティブを受け入れる

トキシック・ポジティビティ 有毒なポジティブ思考ではなくネガティブを受け入れる

自分に対しても、他人に対しても、ネガティブな出来事を経験している最中にネガティブな感情が沸き起こったら、否定しないでください。

それは、当たり前です。
溜め込んでおくほうが不健康です。

ストレスの多い状況に直面しているとき、ストレスを感じたり、不安になったり、恐れたりすることは、普通のことです。
自分の感情を認めて、感じてください。

5-2.ダメでもいい失敗してもいい

人間は、みんな、いびつではないでしょうか。
完璧な人間などいません。

あまりにも反社会的であれば問題ですが、ヘンテコであっても、それは個性です。
欠点はみんなありますし、できないこともたくさんあります。
その多様性があってこそ、世界は彩り豊かです。

失敗のない人生などほとんどありませんし、失敗を経験していない人は、他人に対しても共感性がなく、痛みのわからない人間になることも珍しくありません。

5-3.白か黒かではなくグレーを受け入れる

トキシック・ポジティビティ 有毒なポジティブ思考ではなくグレーを受け入れる

白黒はっきりつけて、かつ、白しか認めない!
オールオアナッシングで、「白でなければ一切排除!」これは、危険です。
これが、トキシックなポジティブ思考です。

真っ黒な時期もあるでしょう。
さらに、世の中は、概ね、白か黒か、はっきり割り切れるものではなく、概ねグレーのグラデーションですよね。

5-4.ポジティブを押し付ける人とは距離を置く

自分が辛い時期に、共感することなく、励ましの言葉をかけたり、むしろ否定してきたりする人とは距離を置いてください。

ポジティブな投稿や自慢げな投稿ばかりが目に付くモリモリのソーシャルメディアのフォローをやめてください。
それをみて、自分の状況を卑下したりしないでください。

モリモリのきらびやかな投稿のバックヤードは、かなりの苦労がある可能性もあります。

6.まとめ

トキシック・ポジティビティ 有毒なポジティブ思考ではなくネガティブを受け入れるダイバーシティ

人間は、不完全。人生は、不完全。
そんな人と人とが、認め合い、助け合う。
これが、今、世界に求められる多様性と包括性、ダイバーシティ&インクルージョンではないでしょうか。

ポジティブもネガティブも、両方あって当然です。
これまで、否定されてきたネガティブにも光を当てて、本当の人間らしさを取り戻すことができれば、世界ももっとよくなっていくのではないでしょうか。

▼ストレス反応」を引き起こす3つの要因と日常を快適に過ごすための6つの知恵

https://wellmethod.jp/stress-reaction/

この記事の執筆は 医師 桐村里紗先生

【医師/総合監修医】桐村 里紗
医師

桐村 里紗

総合監修医

内科医・認定産業医
tenrai株式会社代表取締役医師
日本内科学会・日本糖尿病学会・日本抗加齢医学会所属

愛媛大学医学部医学科卒。
皮膚科、糖尿病代謝内分泌科を経て、生活習慣病から在宅医療、分子整合栄養療法やバイオロジカル医療、常在細菌学などを用いた予防医療、女性外来まで幅広く診療経験を積む。
監修した企業での健康プロジェクトは、第1回健康科学ビジネスベストセレクションズ受賞(健康科学ビジネス推進機構)。
現在は、執筆、メディア、講演活動などでヘルスケア情報発信やプロダクト監修を行っている。
フジテレビ「ホンマでっか!?TV」には腸内環境評論家として出演。その他「とくダネ!」などメディア出演多数。

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著作・監修一覧

  • ・新刊『腸と森の「土」を育てるーー微生物が健康にする人と環境』(光文社新書)
  • ・『日本人はなぜ臭いと言われるのか~体臭と口臭の科学』(光文社新書)
  • ・「美女のステージ」 (光文社・美人時間ブック)
  • ・「30代からのシンプル・ダイエット」(マガジンハウス)
  • ・「解抗免力」(講談社)
  • ・「冷え性ガールのあたため毎日」(泰文堂)

ほか