新年あけましておめでとうございます。

医師で予防スペシャリストの桐村里紗です。

現在、鳥取県米子市と東京との二拠点生活をしています。

結論からして、鳥取県米子市での生活はあまりにも快適で、最高です。

しかし、同時に、実際に二拠点生活を始めると、思いがけず大変なこともありました。

新しい生活様式で、ローカルに拠点を持ちたいと考えている人が増えてきて、「ぜひ、実際のところを聞かせて!」とお声を頂くので、今回実際のところをお話ししたいと思います。

1.二拠点生活、ここが良かった/大変だった

まず、二拠点生活で良かったことからお伝えしましょう。

1-1.ここが“良かった”二拠点生活

実際には、鳥取県米子市での生活はあまりにも快適なため、「良かった」と感じることがほとんどです。

田舎の風景

1.自然のリズムを取り戻すことができる

まず、自然のリズムを取り戻すことができる点を挙げたいと思います。

朝日が昇ったら自然に目覚め、夜は日が沈んだら眠る。

地球の天体のリズムに合わせた暮らしが、都会ではなかなかできませんね。

朝8時の町内放送と共に活動を開始して、まず、オンライン会議などの予定がなければ、畑の様子を見にいきます。

土に触れ、にんじんの葉っぱを千切って食べたり、植物や動物を観察していると心が和みます。

暖かく天気が良い日は、オープンエアでウェビナーや会議もします。屋内に引きこもって接続するより、ストレスがありません。

その後は自宅やカフェでパソコン作業をしながら日中を過ごし、夕方には早めの夜ご飯を食べます。

そして、近所の皆生温泉にある行きつけの日帰り温泉にのんびり浸かって、ゆるゆるした状態で帰宅してそのまま布団に入って21時には就寝です。

2.都会と比べてノイズがなく不眠が解消する

私の場合、最大のメリットは、米子に戻るとすぐに不眠が解消することです。

何が良いのか考えてみたのですが、都市生活と比べて、ノイズがありません。

耳をすませば、聴こえるのは、外の虫の音やカエルの声。

ナチュラルサウンドヒーリング状態で、それを聴いているだけで自然に心身が緩んで眠れるようになります。

冷蔵庫を設置しただけで、冷蔵庫の音が気になるくらいに静かなので、寝室は冷蔵庫から離れた場所にしました。

東京の家は、住宅街ではありますが、車通りの多い道路と繁華街にも近いので、車の音など都市ならではのノイズがあります。意識していたわけではなかったのですが、米子の静かな環境に暮らしてみて、改めて東京に戻ると、ノイズが多くて驚きました。

夜に少し外出しても、ライトが明るく、街が起きているので、身体は気づかずに反応していたようです。

再現性を持って、米子に帰るとぐっすり眠れるので、どうやら環境的な影響が大きいようです。

3.土に触れられる

土

土に触れられるのも大きなメリットです。

拙著『腸と森の「土」を育てる』でもご紹介したように、現在、鳥取県を拠点とするJリーグチーム・ガイナーレ鳥取の敷地内で、実験的に環境を再生する新しい農業(実際には農業を超えた生態系の拡張ですが)の取り組みを始めました。

それがきっかけで、二拠点生活をすることになったのです。

そのため、日常的にその圃場(ほじょう)で種まきをしたり、苗を植えたり、野菜を採って食べたり、土の状態を観察したりしています。

土に触れることを推奨していますが、東京では、近所の公園で裸足でアーシングするのがやっとでした。

毎日土に触れ、土からできたものを口に入れている生活は、健康的に環境の微生物とまみれるのに最適です。

ガイナーレ鳥取では、元々、Shibafull(しばふる)というプロジェクトで無農薬の芝生を作って販売しています。実験圃場の横は、チームの練習拠点で、一面、無農薬の芝生です。

無農薬の芝生の上で裸足で過ごしたり寝っ転がるだけで、心身がリリースされて最高の環境です。

4.快適過ぎる一軒家が格安

現在、私たちは、一軒家をお借りしています。

5SLDKで、1階は畳3間続きで縁側があり、システムキッチン付き。そして2階は洋室2間に、ドラえもんが寝られそうな広い押し入れスペースがあります。

古過ぎる古民家を借りると、かなり格安なものの手入れが大変なようですが、こちらは築30年ほど。

大家さんのご両親が暮らしていた大切な家が、数年空き家になっていたものです。

月のお家賃はなんと6万円。

入居前に大家さんが家をメンテナンスしてくださり、畳も新しく張り替えてくださいました。

畳が気持ち良すぎて、遊びに来た友人知人は、みんな畳で寝転がります。

2階の洋室はまだ持て余しており、ほとんどを畳の部屋で過ごしています。

5.ミニマムな状態から新生活をスタートできる

二拠点生活となると、いわゆる引っ越しのように、生活必需品の家電を古い家から運ぶことがありません。

そのため、ゼロからのスタート。

私たち夫婦は、スーツケースだけで乗り込みました。

生活必需品すらない状態からスタートするので、必要なものを買い足したり、東京の家で使わないものを運んだり、実家からもらったり。

長年暮らしていると不要なものがどんどん増えて断捨離が大変なものですが、ゼロからのスタートは最高のミニマムライフを可能にしてくれます。

モノがない気持ちよさを味わうことができます。

6.新鮮な天然の魚やジビエが簡単に手に入る

のどぐろ

なんといっても、新鮮な天然の魚とジビエが簡単に手に入るのがスペシャルです。

東京では、美味しくて新鮮な天然の魚がなかなか手に入らないので、伊豆の干物やシラスを食べていました。

鳥取県米子市の隣は、全国でも有数の水揚げ量を誇る、日本海イチの境港があります。

都会ではお目にかかれないたくさんの種類の魚が、格安で市場に並んでいます。

小さなのどぐろ4匹で500円!手頃な鯛1匹で300円!紅ズワイガニ2杯で1000円!

都会では数千円するであろう高級魚も、普段の食卓に毎日並ぶという贅沢さです。

天然の脂の乗った魚には、EPAやDHAもたっぷり。刺身で食べるのが一番です。

それから、地元の鹿肉や猪肉も、直売所で簡単に手に入ります。

慣行畜産の家畜の肉は、自分の健康と地球の健康、プラネタリーヘルス的な観点から控えるようにしていますが、ジビエ肉はスーパーマーケットではなかなかお目にかかることができません。

最近の我が家の定番は、猪鍋になりました。

7.ご近所さんや地元の方々との密なる交流ができる

都市では、隣の住人の顔も知らないということも珍しくはありません。

ここでは、近所の方々が野菜を持ってきてくれたり、婦人会で手作りしたケチャップや無添加のソーセージを届けてくれたりと、日常的に交流があります。

毎週月曜日には、朝、港直送の魚売りのおじさんが来ますが、どこからともなくご近所さんが集まって、賑やかになります。

お家を貸して下さっている大家さんとは、もはや家族のようなお付き合いですし、地元の方々にも声をかけて我が家に集まって鍋をつついたりと賑やかに暮らしています。

田舎の人は排他的というイメージがあるかも知れませんが、それはエリアによります。

私の地元・岡山県は、移住者が多いものの、実は結構、排他的。

鳥取県でも、歴史的に大陸に開かれている境港市や米子市の方々は、随分とオープンマインドで、変わり者の我々夫妻も暖かく迎えてくださり、本当にありがたいと感じています。

生活をするにあたって最も大切なのは人と人の繋がりですものね。

1-2.ここが大変!二拠点生活と創意工夫

さて、一方で、二拠点生活には思いがけず大変な点もありました。

1.移動で疲れがたまる

飛行機

移動するだけで疲れがたまることは計算外でした。

新幹線、飛行機、車。いずれにしても移動すると疲れるものですが、それを繰り返す二拠点生活は、思いの外疲れますし、疲れが溜まっていきます。

当初、それを考えずに、移動した日から仕事を詰め込んでいたのですが、これは失敗でした。

今では、移動日の翌日は仕事をセーブして、なるべくゆっくり環境に適応する日にあてるようにしています。

東京から米子に移動したら、すぐに行きつけの日帰り温泉に行き、温泉に入りながらのんびりしているとすぐに疲れが取れて活動できるようになります。

米子から東京の方が、東京の環境に抜きどころがないので、少し時間がかかかります。

自分のペースが見つかるまで、初めは少しゆったりめのスケジュールにしておくのが予防策だと思います。

2.移動にお金がかかる

そして、二拠点を行き来するための移動にも案外お金がかかります。

特に、東京と米子は、空路でなければ時間がかりすぎますが、地方の零細便は航空代金も高いので、夫婦二人で1回往復移動すると10万円を超える出費になることもあります。

以前はLCCがあったそうなのですが、今では無くなってしまったようです。

急な出張予定が入るため、事前に航空券が押さえられないことも多く、直前の予約になるとかなりお高くなります。

その点も加味すると、二拠点目の選択肢として、必要があってその地に行くわけではない場合、新幹線や車で気軽に移動できる距離だとフレキシブルに動きやすいかも知れません。

当然、移動するにはある程度のお金はかかりますから、それも計算の上で。

3.新生活にお金がかかる

当然、新生活にもお金がかかります。
引っ越しというわけではないので、必要なものを買い揃えるなどしていくと、ちりつもでお金がかかります。

誰かに不要な家具を譲ってもらったり、メルカリやジモティ、リサイクルショップなどを利用すると費用が抑えられると思います。

我が家も、こたつを知人から、ちゃぶ台をWELLMETHODの栗本編集長から頂きましたし、暖房器具や食器類は実家から不要なものを持ってくるなどして、なるべく買わずに済ませています。

4.オーガニックな野菜が手に入る場所が少ない

オーガニックの野菜

それから、意外かも知れませんが、ローカルの方がオーガニック野菜が手に入るオーガニックスーパーが少ないのです。

ローカルなスーパーには、ほとんどオーガニックな野菜が並んでいません。

オーガニック野菜を選択する消費者は、都市部に集まっていますから、概ねそちらに流通してしまいます。

直売所に並んでいる農作物も、ほとんどが慣行農法のものです。

自分たちで作るだけでは毎日食べるほどに野菜が作れるわけではありません。

数少ない自然食品店は少し離れていますので、行けるときに行ってまとめ買いしています。

東京では、近所に何件もオーガニックスーパーやショップ、ファーマーズマーケットがあったので簡単に手に入りました。

5.横の繋がりのために曲げるべき信念もある

都市部よりもローカルの方が、人と人の繋がりが密です。

それは、都市部で失われてしまった大切なところであり、素晴らしいところでもあります。

特に、外来種としてその地域にやってきた人間としては、その地域の土着の文化やルールに合わせ、郷に入りては郷に従って行かないと、地域の人たちの安定的な暮らしを妨げてしまうこともあります。

もちろん、新たな刺激となって、より進化を遂げることもできますが、バランスが大切です。

私の場合、一軒家をお借りしています。

私が今行っている農業は、雑草も共生種として大切にします。

庭にも雑草が生えていますが、ボーボーというほどでもなく、むしろ可愛いなぁと思ってそのままにしていました。

でも、その庭の隣には、草一本生えないように必死に草を抜いているお隣のおばあちゃんの慣行農法の畑があります。

おばあちゃんにとっては、我が家の雑草が飛んでくるのは畑を脅かす恐怖の対象です。

私としては、雑草も表土を覆い、土を豊かにし、温室効果ガスを土に固定する大切なものだと考えています。

でも、雑草を悪者と考える慣行農法を行ってきたおばあちゃんにとっては、雑草は恐怖なのです。

私が信念を貫いておばあちゃんに論理的に説明をしても、おばあちゃんの信念は変わらないでしょうし、ご高齢のおばあちゃんの平穏な暮らしを脅かすことは、むしろ不本意です。

もちろん、除草剤を撒いたりはしませんが、雑草は抜くことにしました。

しかも、私が忙しくしていたら、大家さんが「これは私の仕事ですけん」と言って、1日かけて抜いてくれました。

これからは気をつけますと誓って、雑草が伸びないように、庭の周辺に石をしき、その代わりに野菜の種や蓮華の種を蒔きました。

共生できる中間点を見つけていくという工夫も、ローカルな暮らしでは大切なのだということが体験できました。

3.人を通じてご縁をいただく

つながり

二拠点生活は、総じて最高です。

仕事があるために東京にも足を運ばないわけには行きませんが、気持ちとしてはずっと米子市にいたいなぁと感じるほどに、素晴らしい土地と人に巡り会うことができました。

仕事でご縁のある土地であったため、仕事でお世話になっている地元密着の方を通じて大家さんをご紹介いただき、地元の皆さんに十分な説明をしていただいた上で拠点をお借りすることになりました。

こうしたご縁がなく、急に不動産屋さんを通じて空き家を借りても、なかなかスムーズには地元に溶け込むことはできなかったと思います。

移住や二拠点生活を検討されている方は、こうしたご縁を通じてエリアを選んだり、また移住者に開かれ、行政などがお試し生活や交流会など熱心に取り組んでいるエリアに足を運んでみるなどすると、地元の方とのご縁が結ばれ、豊かなローカル生活を送ることができるのではないかと思います。

勇気を出して、飛び込んでみたら、新しい人を通じて新しい世界が広がると思いますよ。

この記事の執筆は 医師 桐村里紗先生

【医師/総合監修医】桐村 里紗
医師

桐村 里紗

総合監修医

・内科医・認定産業医
・tenrai株式会社代表取締役医師
・東京大学大学院工学系研究科 バイオエンジニアリング専攻 道徳感情数理工学講座 共同研究員
・日本内科学会・日本糖尿病学会・日本抗加齢医学会所属

愛媛大学医学部医学科卒。
皮膚科、糖尿病代謝内分泌科を経て、生活習慣病から在宅医療、分子整合栄養療法やバイオロジカル医療、常在細菌学などを用いた予防医療、女性外来まで幅広く診療経験を積む。
監修した企業での健康プロジェクトは、第1回健康科学ビジネスベストセレクションズ受賞(健康科学ビジネス推進機構)。
現在は、執筆、メディア、講演活動などでヘルスケア情報発信やプロダクト監修を行っている。
フジテレビ「ホンマでっか!?TV」には腸内環境評論家として出演。その他「とくダネ!」などメディア出演多数。

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著作・監修一覧

  • ・新刊『腸と森の「土」を育てるーー微生物が健康にする人と環境』(光文社新書)
  • ・『日本人はなぜ臭いと言われるのか~体臭と口臭の科学』(光文社新書)
  • ・「美女のステージ」 (光文社・美人時間ブック)
  • ・「30代からのシンプル・ダイエット」(マガジンハウス)
  • ・「解抗免力」(講談社)
  • ・「冷え性ガールのあたため毎日」(泰文堂)

ほか