ゴミがお宝になる「アップサイクル」実は日本の伝統だった!“エシカル”な暮らしvol.3
皆さま、こんにちは。
医師で予防医療のスペシャリスト・桐村里紗です。
私自身も日々実践している、人と地球のヘルスケア。
無理なく、楽しく、自分らしく、エシカルでサスティナブルな暮らしをするヒントをお伝えしていきたいと思います。
世界の先進国で最も環境意識が低いと言われている日本人ですが、実は、日本の伝統的な精神はとてもサスティナブルと言えます。
それは「もったいない精神」。
もったいない精神を応用したとも言える「アップサイクル」という言葉が、最近急にホットになっています。
目次
1.もったいない精神「アップサイクル」
1-1.「もったいないお化け」は神様の教え
アラサー以上の年代ですと、小さな頃に「もったいないお化けが出るぞ〜」というACジャパンの広告を目にしたことがあるのではないでしょうか?
子供たちが「大根嫌いじゃ」「豆嫌いじゃ」と言いながら、食べ物を残してしまうと、その夜に子供たちの元に「もったいね〜」「もったいね〜」と言いながら、巨大な野菜のお化けが訪れて怖がらせます。
その後、子供たちは食べ物を残さず食べるようになりました、とさ。
これは、「たべものを大切に」というメッセージと共に、「食べ物を粗末にしない」ことを啓発するCMです。
野菜を売る商店のことを「八百屋」と言いますが、これは「八百万の神」が宿るという日本の伝統的な神々の捉え方に由来しているとされています。
万物に神が宿る、つまり、野菜や果物などの食べ物、一つ一つにも神が宿るという考え方です。
もったいないお化けも、野菜の神様が祟り神になるという、とても日本らしいCMだったのではないでしょうか。
1-2.もったいない精神に反するフードロス
でも、最近では、お子さんが食べ切れないほどの食べ物を目の前にした時に「残しちゃいなさい」と簡単に言う親御さんも増えているようです。
これでは、フードロスに繋がってしまいます。
日本で発生するフードロス(食品ロス)は、年間 632万トン。そのうち、食品産業からの発生量は 330万トンとその過半を占めていると推計されています。
300万トンという量は、世界食糧基金による世界全体の食料援助量と同じで量だと言う事実があります。
『食料品買い占め騒動をみて考えるーフードバンクが救う先進国の飢餓・貧困-』
https://wellmethod.jp/foodbank/
1-3.日用品・食品は全てゴミを生む
もったいない精神を忘れて食べ残しをしなくても、食品産業からは大量の産業廃棄物が出ています。
不揃いの農作物は、消費者が喜ばないからと捨てられます。
加工食品を作った後のへたや皮、搾りかすも使い道がないからと捨てられます。
アパレルや日用品なども同様で、私たちが日常的に使う工業製品は、大量生産と同時に、大量の廃棄物を生み出しています。
こうしたゴミを「もったいない精神」で救済した上に、さらに価値のあるお宝に変えてしまおうと言うのが「アップサイクル」なのです。
1-4.アップサイクルとリサイクルは違う
これまで「リサイクル」という言葉はよく聞いてきたと思います。
ゴミのリサイクルは、当たり前に行われています。
リサイクルには、ダウンサイクルとアップサイクルという2つの考え方があります。
ダウンサイクルは、例えば、紙ゴミを溶かして再生紙にし、トイレットペーパーにすること。この場合、素材そのものの価値や品質は、低くなります。また、その後にまたリサイクルはできず、ゴミになります。
一方で、アップサイクルは、捨てられてゴミになるはずのものをクリエイティブな発想によってより価値の高いものに生まれ変わらせることを言います。
ダウンサイクルであっても、アップサイクルであっても、単に捨てずにリサイクルすることはとても大切ですが、アップサイクルは、そのモノに宿る神様が、より光り輝き、有り難みを増すというイメージでしょうか。
1-5.ファッション分野がアツい!
特に、ファッションの分野では、アップサイクル製品をリリースするファッションブランドが増えています。
ファッション業界は、エネルギー産業の次に環境に負担をかけていると国連に名指しされてから業界を挙げてこの問題に取り組んでいます。
この問題に先進的に取り組んできたパタゴニアは別格として、ナイキやビームス、アーバンリサーチ、H&Mなどの大手も一部の製品をアップサイクル製品にする取り組みに積極的です。
最近では、アップサイクルな製品しか作らないという信念を持った新しいブランドも増えてきて、スタイルとしてサスティナブルなファッションを楽しむことが「お洒落」と考えるファッショニスタも増加中。
ゴミとしてリサイクルされたペットボトルや、海のプラスチックゴミから作られた繊維、場合によっては、誰かが噛んで吐き捨てたガムで作られたゴム底スニーカー、トラックの幌で作られたバッグなど、様々なゴミが心ときめくお宝に変わっています。
2.日本伝統のアレもアップサイクル食品に
アップサイクルは、私たちに最も身近な食品にも応用されています。
アップサイクル食品とは、本来食用とされずに捨てられていた食品の廃棄物を活用してより価値のある食品に変えたモノです。
2-1.アメリカではおからがアップサイクル食品に
日本では、豆腐の搾りかすである「おから」は、古くから食品として食べられてきました。
でもアメリカでは、「ソイミルク」は活用しても、その搾りかすであるおからは、価値のないモノだったようです。
食物繊維はソイミルクよりもおからの方に残る上に、高タンパクでグルテンフリーなスーパーフードとして、にわかに注目を集めているおから。
おからパウダーとして販売されたり、ヘルシーなスナックの原料になったり、おから市場が拡大中になっているようです。
最近はあまりおからが食卓にのぼらないかも知れませんが、これぞ「もったいない精神」に由来するアップサイクル食品と誇りを持って活用したいですね。
2-2.搾りかすはアップサイクル化しやすい
その他、最近では、アーモンドミルクなど植物由来のミルクが販売されていますが、これらからも搾りかすができます。
大豆と同じく、搾りかすこそ食物繊維が多くもったいない。
アーモンド粉を作って、クッキーやパンケーキなどに混ぜれば、栄養価も増して立派なアップサイクルになります。
私自身も、アーモンドミルクを絞ったら、搾りかすをおやつに活用しています。
(まだ、絶妙な配合にはたどり着いていませんが!)
また、廃棄されるパンの耳からビールを作ったり、逆にビール粕からパンを作るという双方向のアップサイクルもあり、知恵を絞れば無駄のない関係性が作れるのだなと感心します。
2-3.食品カスから生まれる美「こんにゃくセラミド」
食品の皮やカスから美容成分も抽出できます。
例えば、肌の保湿に欠かせないセラミド。
セラミドは、多くの植物に含まれる成分です。
こんにゃくセラミドは、一般的な板こんにゃく作りでは捨てられてしまう「とび粉」と呼ばれる部分から抽出されます。
生芋こんにゃく以外では、肝心のセラミドが多く含まれる部分が捨てられてしまうのですが、生芋こんにゃくを食べても吸収率の問題からセラミドは活用できません。
「とび粉」がアップサイクルされ、化粧品やサプリメントとなって初めて、私たちはセラミドの恩恵を受けて美を高めることができるわけなのです。
まさに、ゴミがお宝になったと言えますね。
2-4.農作物の廃棄物を活用
不揃いの農作物は、栄養価にかかわらず、ほとんどが市場に並ばず捨てられる運命にあるとされています。その量は農作物の3分の1にあたるとされています。
廃棄農作物は、最近では、ジャムやソース、ドライフルーツ、グラノーラなどの加工食品、ペットフードなどにアップサイクルされ始めています。
口に入れても安全な天然色素のクレヨンにされるという事例も。
味は変わらないどころか、アップサイクルとして心ときめく商品に変わっていますので、見つけたら積極的に手にとってみては?
アップサイクルは、日本伝統の「もったいない精神」が息づくアクションです。
例えば、同じジャムであれば、不揃いの農作物から作られたアップサイクル製品を買う。
そんな小さなエシカル消費が増えれば、無駄のないサスティナブルな循環の輪が拡大し、世界はもっと良くなっていきますね。
▼自分らしく”エシカル”な暮らしvol.1〜プラネタリーヘルスと買い物に役立つ認証マーク
https://wellmethod.jp/ethical/
▼人と地球の持続可能なダイエット「プラネタリーヘルスダイエット」とは?〜“エシカル”な暮らしvol.2
https://wellmethod.jp/planetary-health-diet/
この記事の執筆は 医師 桐村里紗先生

桐村 里紗
総合監修医
・内科医・認定産業医
・tenrai株式会社代表取締役医師
・東京大学大学院工学系研究科 バイオエンジニアリング専攻 道徳感情数理工学講座 共同研究員
・日本内科学会・日本糖尿病学会・日本抗加齢医学会所属
愛媛大学医学部医学科卒。
皮膚科、糖尿病代謝内分泌科を経て、生活習慣病から在宅医療、分子整合栄養療法やバイオロジカル医療、常在細菌学などを用いた予防医療、女性外来まで幅広く診療経験を積む。
監修した企業での健康プロジェクトは、第1回健康科学ビジネスベストセレクションズ受賞(健康科学ビジネス推進機構)。
現在は、執筆、メディア、講演活動などでヘルスケア情報発信やプロダクト監修を行っている。
フジテレビ「ホンマでっか!?TV」には腸内環境評論家として出演。その他「とくダネ!」などメディア出演多数。
- 新刊『腸と森の「土」を育てるーー微生物が健康にする人と環境』(光文社新書)』
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著作・監修一覧
- ・新刊『腸と森の「土」を育てるーー微生物が健康にする人と環境』(光文社新書)
- ・『日本人はなぜ臭いと言われるのか~体臭と口臭の科学』(光文社新書)
- ・「美女のステージ」 (光文社・美人時間ブック)
- ・「30代からのシンプル・ダイエット」(マガジンハウス)
- ・「解抗免力」(講談社)
- ・「冷え性ガールのあたため毎日」(泰文堂)
ほか