更年期に起こる喉の不調や違和感。その原因に関係する「隠れ貧血」を改善する方法
こんにちは、WELLMETHODライターの廣江です。
みなさんは食事中に喉が詰まり、むせかえってしまった経験はないでしょうか。もちろん、早食いや注意散漫な食事であれば、食事中にむせかえるといったことは多くあるでしょう。
しかし、ゆらぎ世代になって起こる喉の詰まりや違和感、胸のつっかえ感や飲み込みの悪さなどは、更年期障害が関わっていることが多いです。
また、女性に起こる喉の違和感は、実は貧血による鉄分不足が原因の可能性もあります。
数値的には貧血でない女性でも、隠れ貧血によって喉の不調が引き起こされているケースもあるのです。
今日は更年期に起こる喉の違和感について、その原因と治療法を詳しく解説します。
目次
1.ゆらぎ世代に多い喉の違和感
年齢を重ねるごとに、喉の不調を感じる女性は増えています。
風邪などの炎症や食道のポリープやがんなどの物理的な原因がないのに喉に不快感があったり、薬などを飲み込みにくくなったり、そのような症状は「咽喉頭異常感症(いんこうとういじょうかんしょう)」と呼ばれています。具体的な症状は次のようなものです。
・喉に不快感や異物感がある
・食事のときに喉につっかえてむせる
・胸につっかえ感がある
・喉がつまって苦しい など
喉の不調は話すときや食べるとき、呼吸をするときですら違和感や息苦しさを感じることもあり、本人にとってはとても辛い症状といえます。
1-1.漢方の世界では梅核気(ばいかくき)とも呼ばれる
漢方の世界では、原因不明な喉の違和感を「梅核気(ばいかくき)」と呼んでいます。
喉に梅の種がつっかえているような違和感からそう呼ばれるようになりました。
この梅核気の主な原因は「ストレス」といわれることが多く、不安や抑うつなどの精神的な不調や更年期障害とも密接な関りがあるとされています。
更年期障害に悩む女性の多くは自律神経の乱れが生じており、イライラや不安など精神的に大きなストレスが襲ったときに、喉の不調に悩まされる女性が多いのです。
漢方医学においては、精神的ストレスが原因で気の巡りが悪くなるいわゆる、「気滞(きたい)」の状態が関係して、喉の不調を引き起こすと考えられています。主に、気の巡りを良くする漢方薬が処方されます。
喉の不調を改善する方法の一つとして、ストレスを軽減させることはとても重要といえるでしょう。
2.その喉の違和感は貧血が原因かも
喉の違和感は、更年期障害における精神的ストレス以外にも「貧血」が原因であることが考えられます。貧血の中でも、鉄不足が原因で起こる鉄欠乏性貧血が起きると、一般的には顔色が悪くなったり、めまいや立ちくらみが起きたりするでしょう。
しかし、表面的には気づきにくい「隠れ貧血」の場合、なんとなく体がだるかったり、慢性的な疲れを感じやすくなったりする程度でなかなか気がつきづらいものです。
このなんとなく感じる不調のなかには「喉の違和感」「胸のつっかえ感」「飲み込みが悪い」などの症状も含まれます。
鉄は、筋肉の収縮にも関連しており、鉄が不足すると、筋力が低下します。
手につかんだ物を落としやすくなったりするだけでなく、嚥下に関わる筋肉の力も低下するため、飲み込みが悪くなり、つっかえ感が出ると考えられています。
喉の不調に悩んでいる女性は、一度、鉄欠乏性貧血や隠れ貧血を疑う必要があるでしょう。
▼もしかして「隠れ貧血」?医師が教えるセルフチェックで不調の意味を考えよう
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2-1.多くの女性が当てはまる「隠れ貧血」とは
隠れ貧血とは、貧血とまでは診断されないものの、体内の鉄が不足している状態をいいます。
一般的な貧血の検査の場合、ヘモグロビンや赤血球の値を目安に貧血かどうかを判断します。例えばヘモグロビンの女性の平均基準値は12.1-14.5(g/dl)といわれており、12g/dl未満になると貧血と診断されます。
一方で、隠れ貧血かどうかを調べるには、ヘモグロビンや赤血球の値ではわかりません。隠れ貧血の診断には鉄貯蔵タンパクである「フェリチン値」を調べる必要があります。
一般的な血液検査の場合、フェリチン値までは測定されません。隠れ貧血が疑われる場合は「分子栄養療法」や「オーソモレキュラー療法」などを行っているクリニックで相談し、フェリチン値を出してもらう必要があります。
1.隠れ貧血が起きるメカニズム
まず一般的な貧血とは、血液の赤血球に含まれているヘモグロビンの量が減り、体が酸素不足の状態になることをいいます。
血液は全身に酸素を運ぶ役割をしており、それを担うのが赤血球に含まれているヘモグロビンです。
ヘモグロビンは鉄とたんぱく質が結合したものであり、鉄分が不足すると全身に酸素を運ぶ役割に支障が出てしまいます。これにより、鉄分不足の女性は疲れや息切れ、立ちくらみといった症状が出るのです。
鉄の役割はそれだけでなく、体内で働く様々な酵素の働きに不可欠で、セロトニンなどの神経伝達物質の合成やコラーゲンの合成、また、骨や皮膚の代謝、筋肉の収縮など全身の機能に関わっているため、鉄の不足で心身の様々な不調を来すようになります。
一方、隠れ貧血とは体内の貯蔵鉄が少なくなる状態をいいます。
体内には約3gの鉄が存在しており、その多くはヘモグロビンの成分として赤血球に存在しています。
残りの鉄分はフェリチンと結合し、肝臓や脊髄などを中心に「貯蔵鉄」として蓄えられていますが、体内における鉄分が少なくなると、この貯蔵鉄から鉄分が奪われてしまいます。
この貯蔵鉄が少なくなる状態を「潜在性鉄欠乏」といい、隠れ貧血とよばれているのです。
2-2.隠れ貧血チェックリスト
実は月経がある女性の多くは、隠れ貧血の疑いがあります。
一般的な血液検査で貧血の数値が出なくても、体に何かしらの不調がある場合は、隠れ貧血を疑った方が良いのです。自分が隠れ貧血かどうかは、以下のチェックリストである程度わかります。
・立ちくらみやめまいがある
・慢性的な肩こりや頭痛がある
・シミができやすい
・何をしても疲れやすい
・生理前後や生理中には体調不良になりやすい
・月経過多である
・理由もなくうつっぽい、イライラする
・薬が飲みにくいなど、喉につっかえ感や不快感がある
月経があり、上記のチェックに1~2つ以上当てはまる人は、隠れ貧血の可能性があります。今回紹介している「喉の違和感」も、実は隠れ貧血が原因で起きている可能性もあるのです。
昔の人は和食を中心とした食事を取っており、野菜や発酵食品などから、鉄分とその鉄分の吸収を促進できる栄養をしっかりと摂っていました。
しかし、現在では、農薬を使用することで土壌のミネラルの合成や吸収に欠かせない、土壌の微生物(細菌や菌類)が減少してしまうことで、土壌が痩せ、植物が十分にミネラルを蓄えることができなくなってしまいました。
さらに、加工食品やファストフードなどミネラル不足の食生活を日常的に送る人が増え、それにより隠れ貧血の女性が増え、喉の不調といったさまざまな体調不良を抱えている人が増えているのです。
2-3.貧血を予防するための食生活とは
貧血は昔から食生活を改善させることが治療への近道といわれてきました。隠れ貧血においても同じであり、喉の不調などを感じる人は、今日から意識して鉄分を摂取することがおすすめです。
そもそも、私たちが食品から得る鉄には「ヘム鉄」と「非ヘム鉄」があります。ヘム鉄は赤身の肉やレバー、貝類などから摂ることができる動物性食品です。そして非ヘム鉄は、ほうれん草や小松菜、海藻類、プルーンから摂ることができる植物性食品です。
鉄を効率よく摂取するには、動物性のヘム鉄と、植物性の非ヘム鉄をバランスよく摂ることが重要です。例えば鉄分といえばレバーが有名ですが、レバーばかり摂って野菜や魚を一切摂らないといった偏った食事をしてしまうと、腸内環境が乱れ、体の不調が悪化することにもなります。
鉄分をしっかりと摂るためには、ヘム鉄と非ヘム鉄をバランスよく摂取し、それを体が吸収するために腸内環境を整える必要があります。また、鉄分の吸収をサポートするビタミン群もしっかりと摂った方が良いのです。
2-4.鉄分の吸収を妨げる食品も多い
鉄分を摂取するには、鉄が含まれている食材だけを摂れば良い、ということではありません。実は私たちが普段口にするもののなかには、植物性食品に含まれる非ヘム鉄の吸収を妨げるものも多いのです。
その一例としては、コーヒーや紅茶、緑茶といったタンニンを含むドリンクがあります。医薬品の鉄剤には、これらと一緒に服用するのは避けてくださいと明記されていることが多いです。
また、海藻類に含まれる食物繊維や、玄米や大豆に含まれるフィチン酸なども、非ヘム鉄の吸収を妨げる阻害因子が含まれています。
いくら鉄分を摂っても、鉄分の吸収をサポートしてくれる食材を意識して摂らないと、効率的に鉄を体に摂り入れるのは難しいのです。
2-5.鉄分の吸収をサポートしてくれる食材とは
鉄分のなかでも、植物性食品に含まれる非ヘム鉄は体に吸収されにくいというデメリットがあります。
しかし、ビタミンCやクエン酸を一緒に摂ると、非ヘム鉄の吸収率はアップします。ビタミンCやクエン酸を含む食材としては、緑黄色野菜・大根やキャベツ、柑橘類などがあります。
タンパク質を同時に摂取することでも、非ヘム鉄吸収はアップしますので、肉や魚、卵、豆製品などと一緒に調理すると良いでしょう。
また葉酸が豊富に含まれているほうれん草などの葉物野菜や、ブロッコリーなども鉄の吸収には効果的です。
そして、魚介類やチーズに含まれているビタミンB12も造血に大きな役割を持っています。こうしたことから、鉄分を効率よく摂取することは、鉄を含む食材を意識するだけでなく、多くの食材をバランスよく食べることが大切なのです。
3.喉の違和感の治療法とは
このように、「喉の違和感」「胸のつっかえ感」「飲み込みが悪い」といった喉の不調は、隠れ貧血を治すことで症状が改善される場合もあります。
しかし、貧血を改善するにはある程度長期に渡って食生活を改善させることもあり、喉の不調もすぐによくなるわけではありません。
そこでおすすめなのは、漢方薬を使ってじっくりと対応していく方法です。
3-1.基本的には漢方薬治療
更年期における喉の不調や違和感は、漢方薬を使ってじっくりと治していくことが多いです。漢方における喉の不調は、ストレスが原因で気の巡りが滞る「気滞(きたい)」が原因であると考えられています。
気滞を解消するには、喉の違和感などを改善する「半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう)」や「柴朴湯(さいぼくとう)」といった漢方薬が有効です。
飲んだあとすぐに症状が劇的に改善されるということは少ないですが、飲み続けることで徐々に効果が期待できます。
3-2.自分でできる対策とは
喉の不調や違和感には、自分で簡単にできる対策もあります。
・深呼吸をする
・運動でストレスを軽減する
喉の不調は、ストレスが原因で気の巡りが滞ることが原因ともいわれており、自然と呼吸が浅くなっていることもあります。また、日々のストレスにより緊張がとれず、交感神経が過剰に働くことで、食道の筋肉が緩まず緊張してしまうことも一つの原因と考えられています。
そこで意識して深呼吸をすれば、リラックスを促す副交感神経を高め、気の巡りを良くすることにもなるでしょう。
そして喉の違和感は、動いているときや睡眠時には気にならないことが多いです。適度に運動などをすることでストレスを軽減させ、喉の違和感を感じにくくさせることもできます。
4.喉の違和感は隠れ貧血のサイン? 普段から意識して鉄分を摂ろう
ゆらぎ世代になると、食べるときに飲み込みが悪くなったり、何か違和感を感じたりすることも増えてきます。
喉の違和感は他の病気よりも見過ごされてしまうことが多く「年齢のせいだし仕方がない」で済まされてしまうこともあるでしょう。
しかし、喉の不調は日常生活において支障が出ることも多く、放っておくことで気持ちも沈みがちになります。
また、その原因は隠れ貧血が原因であることも多く、気づかないうちに鉄分不足が進行してしまうこともあるでしょう。
鉄分不足は更年期症状を悪化させることも多く、ゆらぎ世代の健康を脅かすことにもなります。
今日をきっかけに鉄分を意識した食生活を送るようにし、隠れ貧血を改善させていきましょう。
鉄不足を改善しても治らない場合は、咽頭や食道に炎症やポリープ、がんなどの原因が隠れている場合もあります。その際は、内視鏡検査などが必要になりますので、我慢せずに消化器科に受診してみましょう。
この記事の監修は 医師 桐村里紗先生

桐村 里紗
総合監修医
・内科医・認定産業医
・tenrai株式会社代表取締役医師
・東京大学大学院工学系研究科 バイオエンジニアリング専攻 道徳感情数理工学講座 共同研究員
・日本内科学会・日本糖尿病学会・日本抗加齢医学会所属
愛媛大学医学部医学科卒。
皮膚科、糖尿病代謝内分泌科を経て、生活習慣病から在宅医療、分子整合栄養療法やバイオロジカル医療、常在細菌学などを用いた予防医療、女性外来まで幅広く診療経験を積む。
監修した企業での健康プロジェクトは、第1回健康科学ビジネスベストセレクションズ受賞(健康科学ビジネス推進機構)。
現在は、執筆、メディア、講演活動などでヘルスケア情報発信やプロダクト監修を行っている。
フジテレビ「ホンマでっか!?TV」には腸内環境評論家として出演。その他「とくダネ!」などメディア出演多数。
- 新刊『腸と森の「土」を育てるーー微生物が健康にする人と環境』(光文社新書)』
- tenrai株式会社
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著作・監修一覧
- ・新刊『腸と森の「土」を育てるーー微生物が健康にする人と環境』(光文社新書)
- ・『日本人はなぜ臭いと言われるのか~体臭と口臭の科学』(光文社新書)
- ・「美女のステージ」 (光文社・美人時間ブック)
- ・「30代からのシンプル・ダイエット」(マガジンハウス)
- ・「解抗免力」(講談社)
- ・「冷え性ガールのあたため毎日」(泰文堂)
ほか