こんにちは。
医師で予防医療スペシャリストの桐村里紗です。

この度、新著『腸と森の「土」を育てるーー微生物が健康にする人と環境』が光文社新書より発売になりました。

『腸と森の「土」を育てるーー微生物が健康にする人と環境』

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日々の食の選択により、自分の健康だけでなく、地球環境をも改善する。
人と地球を一体と考え、持続可能な全体の健康を実現する「プラネタリーヘルス」のための理論と実践の書です。

是非、ご高覧ください。

今日は、誤った糖質制限や肉食が腸と地球を破壊するリスクがあることをお伝えしたいと思います。
肉食は特に、地球負荷の高い食べ物として名高くなってきた昨今です。

1.誤った糖質制限が腸と地球を破壊する

地球を破壊する

さて、糖質の質や量を選ばない摂取は、糖化を引き起こし、老化や病気の原因になる。
これは、明白な事実。

最近は、糖質制限ダイエットやプロテインスタイルダイエット、原始時代の食事に回帰するパレオダイエットなど、肉食や乳製品をメインにするダイエット法が流行しています。

砂糖や果糖を多く含む甘いものや過剰な炭水化物を控えることは、もちろんお勧めします。
特に、精製度の高い糖質は、「麻薬」とも言えるリスキーな食べ物です。

でも、糖質制限のグループのSNSの投稿を眺めていますが、自己流の糖質制限は、腸内環境を悪化させるだけでなく、地球環境にも甚大な影響を与えるため、プラネタリーヘルスと真逆のダイエットだなぁとつくづく感じる次第です。

例えば、こんなパターンです。

1-1.炭水化物を抜くだけ

普段食べていた穀物をカットし、炭水化物を抜くというのは、とても簡単な方法です。
でも、単純に炭水化物を抜くとうスタイルには、注意が必要です。

炭水化物とは、炭素と水素の化合物のことで、「糖質」と「食物繊維」の総称です。
体内に取り入れられ、血糖値の元となり、エネルギー源となるのが「糖質」で、体内の消化酵素では消化できないのが「食物繊維」です。

また、うるち米やタピオカなどの炭水化物に含まれるデンプンの一部は、食物繊維と似た働きをする「レジスタントスターチ(難消化性デンプン)」にもなります。

食事の主な食物繊維源は、野菜よりも、穀物です。
単純に炭水化物をカットしてしまうと、食物繊維の摂取量が減り、それをエサとする腸内細菌がひもじくなり、腸内環境が悪化する原因になりかねません。

1-2.質も量も考慮しない肉食

肉食

特によく見かけるのが、糖質が低いからと「お肉お肉お肉〜!」というお肉祭りを毎日開催しているパーティーピーポーです。
朝からステーキを食べたり、お安い肉チェーン店で何百グラム食べたという投稿を見かけると、心配になります。

肉食魂に火がついて大量の肉をいきなり放り込んでしまうと、消化が追いつかず、不消化のままのタンパク質が大腸に届くことで、腸内が腐敗に傾きます。

2.自己流の糖質制限が腸内環境と地球を破壊する4つの理由

2-1.大腸の有用菌が活躍できない

腸内フローラ

腸内細菌のメインステージである大腸に暮らすビフィズス菌や酪酸菌、酢酸菌などの数多の有用菌は、食物繊維が大好きです。
人に分解できない食物繊維をエサに、乳酸・酪酸・酢酸などの短鎖脂肪酸を作り出します。

この短鎖脂肪酸は、人の健康にとって極めて重要で、

1.腸のpHを弱酸性に保つ
 腸の有用菌の暮らしやすい環境・腐敗菌の暮らしにくい環境を作る
2.腸を動かし、便秘を解消する
3.腸の細胞にエネルギーを与え、バリア機能を保つ
4.有機酸検査のバランスを整える
5.脂肪や糖代謝を改善する
6.脳機能を維持・改善する
7.発がん物質・二次胆汁酸を抑制する

といった働きがあります。

ですから、食物繊維不足になることは、極めてデメリットが大きいのです。

2-2.過剰なタンパク質で毒ガスや発がん物質が発生

過剰なタンパク質が未消化のまま、大腸にまで到達することで、腸内細菌がバランスを崩すと、腸内の腐敗菌が、肉を原料に、アンモニアや硫化水素などのニオイのきつい毒ガスを発生させます。
当然、便のニオイがきつくなります。

腸の上皮細胞という防御壁を痛めつけて炎症を起こしますし、体内に吸収されることで酸化ストレス、発がんのリスクになります。

また、肉と同時に、脂質の摂取が過剰になると、肝臓から胆汁が分泌されますが、悪玉のクロストリジウム菌の一種がそれを食べると、強い発がん性を持つリトコール酸などの二次胆汁酸を作り出します。
胆汁が多いと、便は黒くなります。

つまり、ニオイのキツい黒い便が出たら、腸内は腐敗菌によって炎症を起こしていることになります。
特に、普段、肉をあまり食べてこなかった人が急に食べても、消化力が追いつきません。

2-3.赤身肉が動脈硬化を引き起こす可能性

赤身肉 ローストビーフ

赤身肉は体に良いイメージがあるかもしれません。

でも、赤身肉の頻繁な摂取が、白身肉や豆などの植物性タンパク質の摂取と比べて、腸内細菌を介して、動脈硬化から脳梗塞や心筋梗塞を引き起こす物質を増やす可能性を示す研究も増えています。

赤身肉やに多く含まれるフォスファチジルコリン(レシチン)やカルニチンという重要な成分があります。これらは、これまでどちらかというと、健康を増進する成分としか認識されていませんでした。

フォスファチジルコリン(レシチン)は、人の細胞膜の原料になる重要なリン脂質。カルニチンは、脂肪を燃焼し、エネルギー代謝を活発にする成分です。

ところが、これがある種の腸内細菌によって代謝され、TMAOという物質に変化すると、逆に、体内でリスクの高い動脈硬化を引き起こすということがわかってきました。

2018年米国衛生研究所(NIH)からもこれを支持する発表があります。

※Eur Heart J. 2019 Feb 14;40(7):583-594.  

ただし、普段の食生活や腸内フローラタイプ(エンテロタイプ)にもよるということがわかってきました。まだ議論の余地はありますが、食生活としては、ベジタリアンより雑食の方がTMAO産生のリスクが高く、腸内フローラタイプでは、バクテロイデス型よりプレボテラ型の方がリスクが高いとされています。

※ Nat Med 19 : 576―585, 2013.

ちなみに、私は、雑食かつ、エンテロタイプは、プレボテラ型。つまり、赤身肉によって悪影響を受けやすい食生活、かつ、腸内フローラタイプです!
私のようなタイプは、赤身肉を取りすぎない方が良さそうです。実際に、赤身肉を食べると比較的すぐにニオイのきつい色の黒いお通じになります。

エンテロタイプは、腸内フローラ検査ですぐに調べることができます。

フォスファチジルコリンは、魚や大豆にも含まれるため、必ずしも赤身肉がダメ、とも言い切れないのではないかという議論もあります。食生活と腸内細菌とのより詳細な関係性の解明が必要です。

2-4.家畜の与える環境負荷は自動車以上

家畜

肉食の環境負荷の大きさは、今、世界で課題になっています。

増え続ける世界人口とともに、肉食文化が広まり、人以上にたくさん食べる牛などの家畜の餌をまかなうために、ジャングルが伐採されて、農地や牧草地となり、気候変動や生物多様性の減少、砂漠化などの原因になっています。
伐採の理由の80%が農地開拓のためで、そのほとんどが放牧や家畜の飼料を栽培するために利用されていると報告されています。

国連食糧農業機関(FAO)の2013年の発表によると、畜産業により排出されるCO2やメタンガスは、全体の14.5%にも上り、全世界の交通手段(車、飛行機、船)などに匹敵するとされています。

※FAO document 2013, Gerber et al 2013, 15pp

環境への配慮のつもりで電気自動車に乗りながら、焼肉チェーンに行く。
これは矛盾した行為ですね。

3.ベターな肉の選択と代替プロテイン

3-1.肉食と言ってもピンキリ

単純に、肉食と言っても、その育ち方によって全く違いがありますから、一括りにするわけにもいきません。

1)抗生物質や成長ホルモン、安価な穀物飼料を与えられ、狭く不潔なストレスフルな畜舎で育てられた家畜の加工肉
2)ストレスフリーな環境でノンケミカルに育った健康な牧草飼育や平飼いの家畜
3)野生の環境で生まれ育った野生動物の肉

それによって、含まれる栄養成分、特に脂の質が全く違い、食べる人の健康状態への影響が全く違います。
安価な穀物飼料を作る工業型の農業は環境破壊の原因になりますし。殺虫剤やカビ毒混入リスクもあり、それは肉の脂身や乳にも蓄えられて、人に影響を与える可能性があります。

牧草牛やラムは、人の健康を考えるとより良い選択ですが、狭い牧草地に過密な状態で家畜を飼う過放牧は、土を破壊し、環境負荷を与えることにつながってしまいます。

一般的な肉の中では、牛肉>豚肉>鶏肉の順で、環境負荷が大きくなっています。

最もベターな選択肢は、野生肉です。
最近、アメリカのスーパーマーケットでは、野生のバイソン肉が並んでいます。

バイソン 水牛

鹿肉や猪肉などが日本では手に入りやすいですが、スーパーの店頭には並んでいないため、ネット購入などが必要ですが、人の健康にもベターで、場合によっては地域の獣害対策にもなり、かつ、安価です。
「味がちょっと・・・」という方も多いと思います。鹿肉ミンチは比較的使いやすいため、ハンバーグや餃子などにもお勧めです。
猪肉は脂に旨味があります。

3-2.豆やナッツ、微細藻類など植物性プロテインの活用

植物性タンパク源である、色々な豆類やナッツ類。
それに代替プロテインとして注目されているクロレラやユーグレナ、スピルリナなどの微細藻類は、動物性タンパク質に比べて圧倒的に環境負荷が少なく注目されています。

プロテイン市場でも、ヘルスケアの巨大市場であるアメリカの多くのオーガニックスーパーマーケットチェーンでは、棚のほとんどが植物由来のプロテインで占められていて、残りに、牧草牛由来のプロテインやコラーゲンプロテインが並んでいるという状況です。

ソイプロテイン

動物性タンパク質には含まれない食物繊維やポリフェノール類も含むことが、一つのアドバンテージです。
それぞれの腸内細菌が好む種類の繊維質やポリフェノール類の種類も違うので、多様な植物性食品を幅広く組み合わせて食べることで、腸内細菌の多様性も高まります。

4.まとめ

日本人の場合、難しく考えなくても、元々の伝統的な和食の家庭料理は、バラエティ豊かな野菜や海藻類、豆類、芋類などをたくさん食べることで、腸内環境にも地球環境にもベターなプラネタリーヘルスフードと言えます。

日本食

難しく考えずに、具沢山の一汁一菜でも十分です。
できるところからチャレンジしてみてくださいね。

まだまだ、プラネタリーヘルスのためにできることはたくさんありますので、ぜひ、新著『腸と森の「土」を育てるーー微生物が健康にする人と環境』(光文社新書)をご高覧ください。

人と地球が持続可能な未来のためにお役に立つと幸いです。

『腸と森の「土」を育てるーー微生物が健康にする人と環境』

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この記事の執筆は 医師 桐村里紗先生

【医師/総合監修医】桐村 里紗
医師

桐村 里紗

総合監修医

内科医・認定産業医
tenrai株式会社代表取締役医師
日本内科学会・日本糖尿病学会・日本抗加齢医学会所属

愛媛大学医学部医学科卒。
皮膚科、糖尿病代謝内分泌科を経て、生活習慣病から在宅医療、分子整合栄養療法やバイオロジカル医療、常在細菌学などを用いた予防医療、女性外来まで幅広く診療経験を積む。
監修した企業での健康プロジェクトは、第1回健康科学ビジネスベストセレクションズ受賞(健康科学ビジネス推進機構)。
現在は、執筆、メディア、講演活動などでヘルスケア情報発信やプロダクト監修を行っている。
フジテレビ「ホンマでっか!?TV」には腸内環境評論家として出演。その他「とくダネ!」などメディア出演多数。

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著作・監修一覧

  • ・新刊『腸と森の「土」を育てるーー微生物が健康にする人と環境』(光文社新書)
  • ・『日本人はなぜ臭いと言われるのか~体臭と口臭の科学』(光文社新書)
  • ・「美女のステージ」 (光文社・美人時間ブック)
  • ・「30代からのシンプル・ダイエット」(マガジンハウス)
  • ・「解抗免力」(講談社)
  • ・「冷え性ガールのあたため毎日」(泰文堂)

ほか